工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

【漫画】新米姉妹のふたりごはん2 感想

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作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

姉妹の新生活

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作者:柊ゆたか

出版:電撃コミックスNEXT

試し読み:新米姉妹のふたりごはん 2

ざっくりあらすじ

父が再婚し、急に妹ができた。食べることが大好きな姉・サチと、料理が大好きで無口な妹・あやりの二人による美味しい匂い漂う生活は始まったばかり。

「プリン」「フライドポテト」「ローストビーフ」「たこ焼き」「お弁当」

感想などなど

「プリン」

子供の頃、プリンは贅沢なお菓子であった。カラメルの苦みと甘みのハーモニー、プリンの舌の上で一瞬にして溶けていく触感など、値段の割にすぐなくなってしまうというのも、贅沢さを加速させているような気がする。

そんなプリンは思いのほか簡単に作れるらしい。この漫画を読んだ後、自分で作ってみようと思い立ち、卵を買ったが仕事の忙しさに負けて作らなかったことはここだけの秘密にしておいて欲しい。

とにかく。プリンは自宅でも作れる。材料も卵と砂糖と牛乳というシンプルなもので、コンビニで買いそろえられそうに思う。その他、色々と工夫を凝らそうと思えばできそうな感じが好きだ。

そんなプリンを作るに至った過程も可愛らしい。姉であるサチは、家庭科の調理実習でプリンを作ることとなった。「やったー、プリンが食べられる!」と喜んだのも束の間、友人である絵梨はいつも食べるだけで作ろうとしない彼女に業を煮やし、「自分で一から作るように」と言われてしまった。

だがそんなことできそうにない姉は妹に泣きつく。だが目玉焼きですら失敗する彼女に、プリンという高度技術(?)を要するお菓子が作れるのだろうか? 結論から言うと作ることができた。目玉焼きですら失敗する人間ですら作れるのだ。きっとしがない一人暮らしの社会人男性にも作れると信じている。

帰りはさっそく材料を買って帰ろうと思う。これで休日の過ごし方は決定した。

 

「フライドポテト」

フライドポテトもまた、自宅で作れるらしい。マックやカラオケといった手軽に摘まめる食べ物が欲しい場所でしかお目にかかれない食品ではあるが、自宅で作れるとなると、映画鑑賞やゲームの片手間に摘まむには便利なので、是非とも習得しておきたい。

だがこちら、プリンよりも難易度が高くなっている。

材料はじゃがいもと強力粉、サラダ油にオリーブオイル。

恥ずかしながら強力粉というものをスーパーで購入しようとしたことがない。オリーブオイルも同様である。それでもフライドポテトを家で作るためならば、その程度の出費は厭わない。

そして大事なアクセントとして、あやり(妹)がベランダで育てているというローズマリーが活躍する。ベランダ……ふと目を向ければ対して掃除もされていない洗濯物が干されるだけの場所であるが、ここで家庭菜園というのも悪くないかもしれない。

実家では割とそういったハーブ系を使った料理を、作ってくれたりしていたことが思い出される。それがどうして……こんな男の料理しか作れない社会人になってしまったのか。悲しい。

 

「ローストビーフ」

今日はサチの誕生日であったらしい。だが、そのことを知らされていなかったあやりは、「どうして教えてくれなかったんですか⁉」と珍しく大きな声を出す。「目が本気だった」「私 怒らせちゃったのかな」と悩む姉。誕生日くらい教えてあげてもよかったのではと思わなくもないが、彼女には彼女也の悩みや遠慮があるようであった。

そんな心配をよそに、とてつもなく頑張って部屋の飾りつけなどを奮闘する妹。可愛い。そして肝心かなめなのは用意された料理『ローストビーフ』である。これがかなり手間をかけた料理なのである。

まず用意されるは分厚い牛肉。前準備として常温で一時間ほど置き、塩コショウで味付け。低温でゆっくりと中まで加熱するという焼き方をするため、かなり時間がかかる。焼き上げても、袋に入れた状態で60度ほどのお湯に漬け一時間。さらに30分休ませて完成。

これほどの時間をかけて出来上がった肉は、とてつもない贅沢な一品として仕上がっている。こうして書いているだけでも、食べたくなってきた。肉塊買ってくるか……。

 

「たこ焼き」

たこ焼きを自宅で作ろうとしたことはあるだろうか? 大学自体、友人がタコ焼き機を買ったということでご相伴にあずかりに行ったことがある。そしてタコの下ごしらえなどを男所帯でスマホで検索しながら進め、最終的には思いのほか美味しく出来上がったことが思い出される。

素人が四苦八苦しながらも、たこ焼きというのは何とか形になるのだ。それを達人がやったらどうなるのか?

たこ焼きの生地にすりおろした山芋を投入する。出汁にも拘り抜いて、出来上がった最高の一品。いつもは二人の食卓に絵梨も加わり、みんなでクルクルと回しながら奇麗な丸いたこ焼きを作っていく。そして熱々を喰らうのである。

あぁ、たこ焼き喰いたくなってきた。

 

「お弁当」

職場にお弁当を持っていく偉い社会人であるブログ主は、お弁当の中身にもこだわっている……と言いたいが嘘である。全てに値段と時間が優先されるという持論に則り、茶色が目立つことも珍しくない。肉ってある意味楽だから仕方がない。魚は面倒すぎて久しく使っていない。

姉が購買で買ったパンで昼飯を済ませているという衝撃の事実を知った妹は、栄養のバランスを考えた完璧な弁当を作ってあげることに。あぁ、これは最高の幸せだわ。ごはんによく合う塩鮭の切り身とか、ブログ主のレパートリーにはない。卵焼きは未だに上手く作れない。色味について考えたことなどない。

……あれ、これ自分の恥を晒しているだけなのでは……?

とにかく、あやりがサチのことを考えに考え抜いて愛情の詰まった弁当が完成。これが幸せなのだ。

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【漫画】ディーふらぐ!2 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

ハイテンションラブコメギャグ

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作者:春野友矢

試し読み:ディーふらぐ! 2

ざっくりあらすじ

ゲーム制作部に馴染みつつある風間は、不良としての矜持(?)を失いつつあった。そんな中、水上桜に背中を押される形で喧嘩ばかりの日々に戻った矢先、魔の十四楽団に攫われてしまう。

感想などなど

ゲーム制作部 VS ゲーム制作部の対決は、風間の案と生徒会長の権力による力業によって、ゲーム制作部の勝利で幕を閉じた。芦花も高尾も、共に良い笑顔での幕引きなのだから、このまま互いが行ってきた悪行(おもに芦花達)は水に流して、罰ゲームもしないという方向性で話が進む……はずもない。

高尾の巨大な胸にちょめちょめしたいという全員の夢を叶えるべく、高尾を何とか逃がしてあげようとする風間との死闘が幕を開けたところから第二巻は始まっていく。火属性の萌え攻撃から、土属性の落とし穴に至るまで、わりと本気の面々に対して、高尾と風間は勝てるのだろうか。その過程には風間一派の犠牲と、風間の突っ込みが冴えわたっていた。

巨乳は最強という「ディーふらぐ!」における一つの法則が立証されていくことになる。よく考えなくとも芦花の率いるゲーム制作部は、みんな平らな胸だったから、この決着は運命づけられたものなのかもしれない。

 

という滅茶苦茶なストーリーである。このストーリーを文章だけで説明していては、疑いの目を持たれてしまう。書いている自分自身、こんなストーリーな訳ないだろうと思って読み返すと間違っていないのだから恐ろしい。

ハイテンションとしか表現しようのない一コマ一ボケ一突っ込みという狂気。そこにラブ要素が徐々に追加されていくことになる。第一巻から芦花の萌え攻撃とか、ラブ要素があっただろうという方は甘い。この作品が本領を発揮するのは、それぞれの女性陣のキャラがしっかりと固まってからである。

まず高尾。本物のゲーム制作部の部長にして最強。徐々にではあるが、風間に対して淡い恋心を抱くようになり、服装にも気を使い始める様子が可愛らしい。それでもゲームを優先しがちな性格は強制されない辺り、本物のオタク感がしてオタクとしては好感が持てる。彼女と一緒にモンハンとかしてみたい(ついでに色々教えて欲しい)。

ツンとデレの差が顕著であると個人的に思っている水上桜は、風間に対して面と向かって、何事にも本気になれない人は嫌いだと言い放った。それに後押しされる形で、本気に学校の頂点を取りに行き、挙句の果てには『魔の十四楽団』に敗北することになるのだが……。まぁ、一人で十四人のうちの三人くらい倒しているようだし、相当な頑張りが見て取れるが。

まぁ、その後女性陣が『魔の十四楽団』を全滅させるんですけどね。この作品の女性陣が強すぎて怖い。

 

第一巻の感想でも書いた通り、十五巻まで読み終えた上で第二巻の感想を書いている。そうすると色々とまだ設定が固まってなかったんだなということが伺える。特に生徒会長とか、キャラ変わりすぎではなかろうか。高尾も。水上桜もデレが顕著すぎる。

キャラの魅力で九割できている本作、本領を発揮するのはまだまだ先のことになりそうだ。

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【漫画】少女終末旅行② 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

絶望と仲良く

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作者:つくみず

試し読み:少女終末旅行 2巻

ざっくりあらすじ

文明が崩壊してしまった世界で、ふたりぼっちになってしまったチトとユーリ。愛車ケッテンクラートに乗って、廃墟を当てなく彷徨う彼女達の日常。

感想などなど

「写真」

チトとユーリが貰ったカメラでいちゃいちゃする話である。可愛い。絶望的な世界だけれど、こういう楽しみがあって二人の姿が写真という形で残るのは救いと言ってもいいのではないだろうか。

 

「寺院」

二人がたどり着いた夜に一番明るくなる建物の中は、あの世である極楽浄土の再現して作られた寺院であった。これまでの旅路で幾度となく見かけた石像が、実は神のことを示していたりと、この周辺の人々が進行していた宗教なのだろう。

暗い道を進んだ先に明るく装飾された広大な場所。見上げるほど大きな石像と、眩しい光に照らされて、二人の瞳に神の像が写り込んだ。

真っ暗闇の世界を明るく照らしてくれる存在を神とするならば、チトとユーリは互いのことを意識して、「もしかしてチーちゃんが神なのでは?」と首をかしげるユーリが可愛らしい。

 つくみずの描いた世界観を象徴する話だと個人的に思う。

 

「住居」

 二人に定住する家はない。強いて言うならケッテンクラートだろうが、家と呼ぶには少し頼りない。そんな二人が住んでみたい住居というものを夢想していく話となっている。本棚というチトらしいチョイスから、食料棚というユーリらしいチョイスなど、二人の個性が詰まりまくった一つの部屋が完成する。

……まぁ、全部妄想な訳だが。

「この旅路が私たちの家ってわけだね」

というセリフが全てをかっさらっていく。

 

「昼寝」

 夢というのは良く分からないものだ。これはチトが見たシュールな夢をただ描いただけの話。

 

「雨音」

 突然の雨に降られたチトとユーリが、雨宿りするだけの話である。ただそれだけの話の中に、絶望の中の癒しと、漫画という二次元の中でありながら音楽が聞こえてきそうな軽快さを兼ね備えている。

雨宿りした場所で、雨漏りする箇所から落ちてくる水滴。それに合わせて置いたバケツやヘルメットが、水滴と当たることで奏でられる音を聞き、楽しいと感じる二人。音楽というものを知識でしか知らないチトは、これがもしかして音楽なのではと思い立つ。

音楽というのはこうやって誕生したのかもしれない。

「いつもの世界ってこんなに……静かなんだな」という締めのセリフもまた素晴らしい空気感を形作っている。

 

「故障」「技術」「離陸」

ケッテンクラートが故障して絶望していたチトとユーリの前に、飛行機を作って飛ばすために奮闘するイシイという女性が現れた。彼女にケッテンクラートを修理してもらう代わりに、飛行機を作成する手伝いをすることとなった。

この絶望的な世界の中で、飛行機の技術は失われたかに思えた。が、彼女のいる場所にはこれまで人類が歩んできた飛行機技術の資料が数多く残されており、それを紐解いたイシイは何とか人を乗せて飛ぶことができる飛行機を完成させようとしていたようなのだ。

そしてそれを使ってイシイは隣街まで飛んでいこうとしているのだという。失敗すれば死ぬことは間違いない挑戦を心配するチトに対し、「この都市と共に死んでいくだけだ」と覚悟を口にする。

絶望的な世界の中であっても、生きるためにすることを見つけ、これまでたった一人で活動した彼女。その最後の瞬間が近づきつつある時に、それを見届けてくれる二人に出会えたことは、これ以上ない幸せなのではないだろうか。

絶望と仲良く、彼女はできたのではないだろうか。

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【漫画】嘘喰い9 感想

【前:第八巻】【第一巻】【次:第十巻】
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※ネタバレをしないように書いています。

至高の騙し合い

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作者:迫捻雄

試し読み:嘘喰い 9

ざっくりあらすじ

迷宮で雪井出に負けた梶は、外に出たあとで何者かに拉致される。そこで0円ギャンブルで賭けて奪われたものを知る。一方、0円ギャンブルに嘘喰い・斑目貘が挑むが……。

感想などなど

いよいよ0円ギャンブル「ラビリンス」に獏が挑んでいく。ゲームのルールなどについては、八巻の感想に記載しているので、そちらを参照していただきたい。ルールを聞く限は、心理戦の要素は薄いような印象を個人的には受けた。

本来であれば相手が作り出した迷宮を解くために、回数を重ね、何度も壁にぶち当たりながら進めるということが大前提。しかし、雪井出薫はまさかの一発目で迷宮を解き明かしてしまった。

その確率の低さを考えるとイカサマをしているのは明らかで、その謎を解き明かすためにもう一度勝負を挑もうとした梶であったが、断られて追い出されてしまう。その先で謎の男――まぁ、正体は伽羅なんですけどね――に誘拐されてしまった。

この巻では0円ギャンブルの謎が解き明かされていく。ネタバレの境界線を自分なりに探りながら書いていくので、安心して読み進めて欲しい。

 

さて、0円ギャンブルにおける謎は大きく二つであろう。

一つ目「本当にノーリスクで何も賭けずにギャンブルができるのか?」

梶を含めてギャンブルに挑んだ者達は、印象に残っている日付の出来事を話し、その思い出を賭けるという体になっている。賭郎がバックに付いて、そのルールの確認を行っているという時点で契約は成立していることからも、そこに嘘はないだろうと思われた。

雪井出は本当にその日の出来事以上のものは貰っていないのだ。

二つ目「どうやって相手の作った迷宮を知ったのか?」

あからさまなネタでは流石の梶も気付くだろう。だとすればどこにイカサマを仕込んだか。二人が迷宮を書いた紙か、はたまたペンか。大穴のコピー機か。そしてイカサマが分かったとしても、そこからどう勝つのかが大事なポイントになってくる。

班目獏はゲームの説明を聞きつつ、策略を練っているのだろうか。

雪井出が賭郎によるシステムを説明している最中、彼は賭け朗について知らない振りをしたが、それは何かの作戦なのだろうか。その後も雪井出のイカサマを疑ってかかる挙動を繰り返し、少しずつルールを自身に有利な形に変えるように画策する姿が見て取れる。

これまでもそういった輩はいたのだろう。雪井出は焦らずに、その行動を軽くいなしていく。互いに油断できない騙し合いが行われていく。そこで立ち合い人としてやって来た門倉雄大は、その状況を鑑みてこう考える。

「嘘喰いは間違いなく負けるぞ」

この一言だけでも、この作品が名作と語られるに値すると思う。

「ラビリンス」というゲームを攻略するに至るまでの過程、そのために嘘喰いが仕掛けた罠は、読者に対してのミスリードとしても機能する。その構成の見事さたるや、ゲームとしての完成度の高さには驚かされる。

ギャンブルゲームを描いた作品の教科書的な作品だと個人的に思う。最高であった。

【前:第八巻】【第一巻】【次:第十巻】
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【漫画】ジャンケットバンク2 感想

【前:第一巻】【第一巻】【次:第三巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

鏡に答えはない

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作者:田中一行

試し読み:ジャンケットバンク 2

ざっくりあらすじ

「気分屋ルーシー」ゲームセット。これからも真経津の戦いを見守るために、特四 宇佐美班のメンバーとして生き残るべく、勤続年数を奪い合うことになる。そして次のゲーム「サウンド・オブ・サイレンス」がセッティングされ……。

感想などなど

獅子神 VS 真経津

ゲーム「気分屋ルーシー」の決着から第二巻は始まっていく。このブログでは「ネタバレをしない」ようにすることを掲げているのだが、正直めちゃくちゃ語りたい。第一巻で描かれた獅子神の行動や思考の全てが、真経津の掌の上で踊らされていたに過ぎないということが明かされていく流れが最高だった。

この勝負における肝は「真経津はどうして獅子神が選択した鍵穴の場所が分かったのか?」だろう。獅子神は最後の最後まで、その解に辿り着けなかった。

箱を入れ替えられた可能性に気付き、銀行員を利用してその道を潰した点など、獅子神はとても優秀だった。最後の一面において、自分の選択したものとは別の鍵穴を選択し、失敗した際のペナルティも必要経費だと割り切って受けるなど頑張りが見える。

だが結局の所、それらも全て真経津の計算通りだった。獅子神という男の性質を、その類まれなる観察眼で見抜き、決め台詞の「鏡の中に君を助ける答えはない」まできっちり決まった。彼の思考回路を利用した作戦であったとだけ言っておこう。

 

ゲームが一段落したらさっそく次のゲームを……といきたいところではあるが、視点は御手洗君に移り、彼が今後とも真経津のゲームを見続けるための戦いが始まっていく。これもまた面白いのだ。

御手洗は特別業務部審査課の宇佐美が率いる部に異動することとなった。そこでの主な仕事は地下で取り仕切られるギャンブルの監督や管理ではあるが、仕事を進めるに当たって特別なルールがあった。

それが『 ”勤続年数” が他人と奪い合える「通貨」になっている』というものである。この ”勤続年数” の多い者が特権と金を得るという仕組みになっているのだ。

例えば。

ある者は ”勤続年数” でエリア権なるものを購入し、自分の机の周囲を広くしている。また別の者は喫煙権を買い、仕事中にも葉巻を吸っている。仕事を退職する上でも三年分の ”勤続年数” が必要になるという徹底ぶりだ。

しかし、異動されてきたばかりの御手洗にはそれがない。そのため最初に一年分の ”勤続年数” の融資を受ける。もしも就業時間になって、自分が持っている ”勤続年数” がマイナスとなった場合、その分が差し押さえとなる。

つまり最悪の場合、命を落とすことだってあり得るのだ。

異動初日目から彼はピンチに陥る。彼のとっさの機転と、数字にめっぽう強いという能力がいかんなく発揮されていく。

何とかやっていけそう……と読者が安心するも、彼が常に危機的状況にいるということに変わりはない。彼が目的としている真経津の最期を見届けたいという願いのためには、もっともっと勤続年数を稼ぎ、ギャンブラーを選択し、専属の行員となる権利 ”ジャンケット権” を購入しなければいけない。

彼の戦いはまだまだ始まったばかりだ。

 

と慌ただしく過ぎ去っていく日常の中、真経津の次のゲームがセッティングされる。

ゲーム名は「サウンド・オブ・サイレンス」。

プレイヤーには3枚のレコードを並べる「セット」側と、その中から1枚を選択する「チョイス」側を交互に担当する。そして並べられる3枚のレコードには、それぞれ異なった演奏時間(0秒、2分、3分)が表記されており、「チョイス側」は選んだレコードに記載された時間だけ非常に有害な音楽――累計五分で鼓膜が破壊され、それ以降は三半規管や能に深刻なダメージを受ける――を鑑賞してもらうこととなる。

そしてゲーム中に再生されたレコードの合計再生時間が「10分1秒」を超えた瞬間から、人間には絶対耐えられない音を聞かされ続け、張力は一生戻らなくなる。

そんな危険なゲームで真経津の相手をする敵は村雨礼二。

一言で彼を表すならば人体を知り尽くした変態である。ギャンブルで得た金を使って、人を買い生きたまま解剖することを趣味としているのだ。それにより得た人外じみた洞察力と、身体の微かな機微すら読み取って思考を推測する力で、真経津の嘘を的確に見抜いていく。

それにより真経津は三分のレコードを何度も引かされ、一方村雨は全ての選択で0秒を引いていく。しかし、それなのに礼二が追い込まれているような嫌な予感が、徐々に肌を伝ってくる展開は、強者同士だからこそと言えるのかもしれない。

また最後の決着や種明かしは三巻に持ち越しだが、手に汗握るいいバトルである。

【前:第一巻】【第一巻】【次:第三巻
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【漫画】ジョジョリオン18 感想

【前:第十七巻】【第一巻】【次:第十九巻
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※ネタバレをしないように書いています。

「呪い」を解く物語

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作者:荒木飛呂彦

出版:集英社

試し読み:ジョジョの奇妙な冒険 第8部 モノクロ版 18

ざっくりあらすじ

新ロカカカの実の収穫へと向かった豆銑礼と東方定助。しかし、目的地である果樹園には岩人間プアー・トムが常敏に埋めさせたスタンド「オゾン・ベイビー」が仕掛けられていた。

感想などなど

新ロカカカの実を求めている勢力と目的について、まずざっくりと整理したい。

一つ目。東方定助ことジョジョを筆頭として、吉良・ホリー・ジョースターを救うために仗世文と吉良で協力してロカカカの枝を奪取、接ぎ木によって育てようとした過去がある。

二つ目。岩人間達は(おそらく)金のためにロカカカの実を売買していた。新ロカカカの実は人と人を融合させることで、実質的な永遠の命を手に入れることができるということが分かっている。これは是が非でも欲しいところだろう。

そして問題の三つ目。東方常敏が「息子つるぎを助けるため」「東方家の力を取り戻すため」にロカカカの実を求めており、かつては岩人間に協力してロカカカの実の輸入や資金洗浄といった雑務を押しつけられていたようだ。

そんな三つの勢力が集い、新ロカカカの枝を探し求めて東方家の裏庭に集結した。枝の場所が分かっている植物鑑定人がついている定助達が先行しているかと思えば、「オゾン・ベイビー」を仕込ませた岩人間達も中々に策士であると言える。

この「オゾン・ベイビー」、埋められた周囲を加圧して、ゆっくりとダメージを与えていくという能力である。射程距離は少なくとも東方家の全域を手中に収める程であり、何も知らなかった東方家に住む憲助さんや常秀までもダメージを喰らっているらしかった。そして言わずもがな、「オゾン・ベイビー」を埋めた張本人であるはずの常敏までもがその攻撃の対象となっている。

加圧によってまず鼻血が止まらなくなる。そして意識が次第に混濁していく。攻撃を受けているということに気づき、急いで逃げだそうとして射程距離、もしくはその建物から外に出た途端に減圧。すると血管がその気圧差に耐えきれずに破裂するという二段構えのその能力に常敏や定助は苦戦させられることとなる。

なにせ空気の加圧による攻撃なのだ。それを防ぐことは実質不可能。本体である岩人間を叩きたいところではあるが、実は彼はこの東方家とは遠く離れた場所で女性を抱いている。

つまりスタンド「オゾン・ベイビー」の射程内にいながら、本体を攻撃するということをしなければならない。はい、無理。

しかし、ここで諦めるような者はここにはいない。スタンドを駆使して、最初に説明した三つの勢力が、互いに互いを意識し合いながらの戦いが幕を開けた。

 

これまで散々、常敏と定助とのクワガタバトルをベストバトルとして紹介してきた。まぁ、自分の感情に従ったらそうなってしまったので仕方がない。だが、この東方家裏庭で行われる一連の争いも、そのベストバトルに匹敵すると個人的に思う。

その面白さの一端は、東方常敏という男が担っている。

第十六巻で描かれた常敏の過去を含めて考えると、自分にはどうにも常敏という男を嫌いにはなれない。彼には彼なりの信念というものがあり、岩人間の犯罪にだって加担し、今回もスタンド「オゾン・ベイビー」を裏庭に埋めた。

それは岩人間を信用してしまったが故の行動であろう。しかし、その選択のせいで東方家のみならず息子つるぎまでもが危機的状況に陥った。その時、常敏は岩人間も定助達も相手取って戦うことを決意する。その決意には、息子つるぎも協力していくこととなる。

この常敏の介入は、定助達にとって完全に予想外であった。岩人間も予測していなかったようだ。それにより混沌を極める渦中において、誰がロカカカの枝を手にれることができるか? そこに注目が集まる。

皆が限界まで追い詰められた状態で、戦いの決着は次巻へと持ち越されていく。やっぱり誰が勝ってもおかしくないという戦闘が好きかもしれない。

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【漫画】鬼滅の刃8 感想

【前:第七巻】【第一巻】【次:第九巻
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※ネタバレをしないように書いています。

絶望を断つ刃となれ

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作者:吾峠呼世晴

試し読み:鬼滅の刃 8

ざっくりあらすじ

魘夢と炭治郎との戦いの決着しようとしていた。しかし、その渦中に現れる新たな鬼。炎柱・煉獄杏寿郎も動き出し、強者同士の炭治郎達では追いつけないレベルの戦いが繰り広げられていく。

感想などなど

強者同士の戦いは、弱者からしてみれば、何が起きているのか分からないということがしばしばある。長い年月をかけて磨き上げられた技術の粋が、ぶつかり合ってどちらかが負ける。負けが則ち死と直結するシリアスな世界観において、そういった戦いは互いに絶対負けられないたった一度だけの勝負となる。

 この第八巻において描かれるは、そういった戦いだ。

自らの技を駆使して、無限列車の乗員を誰一人として死なせなかった柱・煉獄杏寿郎。

長い年月をかけて強くなることだけを考えてきた上弦の参・猗窩座。

二人の強者がぶつかり合い、炭治郎達はその戦いを目で追うことすらできず、助けに入ることすらできない。その戦いは映画化までされたことで、漫画よりも映像で見たという人も多いことだろう。かくいう自分も映画館に足を運び、「鬼滅の刃 無限列車編」を見に行っている(感想も書いている:【映画】鬼滅の刃 無限列車編 感想)。

アニメーションとなると目に鮮やかな戦闘にばかり目が行くかもしれない。だが、注目すべきは煉獄杏寿郎という一人の人間としての生き様だろう。

 

煉獄杏寿郎と猗窩座のファーストコンタクトは最悪であった。

「初対面だが俺はすでに君のことが嫌いだ」と猗窩座に言い放つ杏寿郎。

「そうか 俺も弱い人間が大嫌いだ」と答える猗窩座。

「俺と君とでは物ごとの価値基準が違うようだ」という杏寿郎。人間と鬼――分かりあえることのない両者の考え方の差が如実に表れている。それでも「お前も鬼にならないか?」と誘ってくる猗窩座。

彼の行動理念は強者とただ戦いたい・自分が強くなりたいということであるようだ。その自身が戦うに値する強者として、煉獄杏寿郎は選ばれたようだ。「至高の領域に近い」と評された杏寿郎の技は、猗窩座の腕を一刀両断し、多くの傷を与える。

しかし、奴は無惨の血を多く与えられている上弦の鬼である。そんな傷は瞬時に癒え、疲れも感じない。

それに対する杏寿郎は、受けた傷は残り続ける。額が割れて血が滴っている。潰れた左目の視力が戻ることはない。内臓は潰され、骨は折れたまま。表情に余裕はない。そんな姿の人間に対し「鬼になれ」と声をかけ続ける。

それに対する杏寿郎のアンサーが個人的には好きだ。

「老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ」

「老いるからこそ死ぬからこそ溜まらなく愛おしく尊いのだ」

「強さというものは肉体に対してのみ使うことばではない」

「俺は如何なる理由があろうとも鬼にならない」

その杏寿郎の精神は、次の世代――炭治郎達に引き継がれていく。

 

まさかの上弦の鬼との戦いを終えて、ここから先の展開は上弦以上の鬼との戦闘しか描かれなくなる。鬼の討伐依頼は尽きないが、それらは全てカットされていく。この作品におけるラスボスは無惨だとして、そいつを除く鬼の中で上弦が最強なのだ。それ以下の奴らとの戦闘は描く価値もない。滅茶苦茶テンポが良い。

逆に炭治郎達と鬼との戦闘が描かれるとすれば、それは上弦かそれに準ずる存在ということになる。杏寿郎の教えにより、代々炎柱を排出する煉獄家に訪れ、”日の呼吸” なる全ての呼吸の始祖のヒントを得た炭治郎が、どれほどの成長を遂げているのか?

そんな期待を胸に抱きつつ、第九巻へと進んでいく。

音柱に連れられて向かう次の場所は遊郭。心してかかろう。

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【漫画】ザ・ファブル(1) 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻
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※ネタバレをしないように書いています。

プロやからな――

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作者:南勝久

試し読み:ザ・ファブル (1)

ざっくりあらすじ

都市伝説的な殺し屋はここ数年で人を殺しすぎたということで、一年間ほど一般人として生活することになった。プロとして、彼はその仕事を全うすべく奮闘することになるが、それは予想外にも難しいことであって――

感想などなど

かなーり金払いが良い『殺し屋』という職業の募集があったとして、是非ともしたいと手をあげる人はいるだろうか。ほとんどいないと思う。何だかんだで『殺し屋』という職に就いたとして、それを長い間継続させることができる者は、きっと殺人という行為に対して慣れが生じてしまったのだろう。

そんな慣れてしまった者の一人である伝説的な殺し屋、通称ファブルは、ここ三年ほどで七十人ほどの命を葬り、立派に仕事をこなしてきた。冒頭ではそんな仕事の一つとして、拳銃を持った四人ほどの男を相手に大立ち回りを繰り広げる見事な仕事の一シーンから始まっていく。

曲がり角からチラリとこちらの様子を伺ってくる対象を、そのチラリと見てきた一瞬で銃殺。エレベーターに乗り、急いで階下へと逃れようとする対象を、外の手すりを掴んでぴょいぴょいと飛び降りながら追い先回り。武器を持った二人に囲まれようと、焦ることなく無力化。銃で撃たれるも、軽く避ける。

その手際はあまりに鮮やか。四つの死体が転がり、一方のファブルは傷一つ受けていない。そんな仕事終わりには、好きな芸人のテレビを見て爆笑する。「殺し屋」の仕事終わりとは思えないが、ファブルにとってはこれが日常だった。

その日常が終わりを告げることになるのは、ボスに「一年ほど一般人として潜り、殺しなどからは離れた普通の生活すること」という任務が下され、佐藤明という偽名を与えられた時であった。

 

「なんだ、簡単じゃん」と侮るなかれ。その苦労はすぐに分かる。

当たり前だが、一般人は他人にちょっと絡まれたからといって無力化しようという判断に直結しないし、大抵はできない。同業者(殺し屋)の匂いなんて嗅ぎ分けられないし、家に拳銃を隠し持っていたりしない。

だが彼は人を五秒以内に無力化する訓練を受けている。そのため用意された家へと向かう道中で車上荒らしに絡まれた際、瞬時に無力化してしまった。今後、彼が絡まれる度にそんなことをしていてば、いつかヤってしまう可能性も無きにしも非ず。

彼には車の運転などを担ってくれる相棒・佐藤洋子(偽名)がいる。天才的な記憶力で、地図などを瞬時に覚えて仕事に生かしてくれる。彼女に「これから一年――こんな事で手ェ出してたら しまいに誰か殺すよ!」と怒られる明は呟く。

「これって……もしかしたら簡単じゃね――な――」

 

殺し屋がいきなり一般人になれるはずもない。家とか金とか色々と入り用になる。金に関してはこれまでの仕事で得たものがあるので問題ないだろうが、家に関しては真黒組と呼ばれるヤクザに世話になることとなった。

そこで組に挨拶に伺うこととなる。組側としては伝説の殺し屋との初対面。緊張もあるが、どんな男なのか気になっているところであろう。

しかし、現れたのは冴えない若者。「こいつが本当にファブルか?」と疑うのも無理はない。その疑惑をあっさりと覆していく――組長と若頭が隠し持っていた拳銃を見抜く、部屋に隠された監視カメラの全てを瞬時に見抜く――それがプロである。

最後には若頭は「あいつは “野生のシャチ” ですよォ~~!!」と言うまでになるのだから楽しい。そう言っているにも関わらず、いやだからこそ、何とかしてファブルをこの街から老いだそうと画策し出すこととなるのだが。

一般人の名前と家を得たとはいえ、ファブルに平穏は訪れそうにない。独特な空気感や台詞、ファブルという強烈な個性が際立つ作品であった。

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作品リスト

【漫画】HELLSING(2) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

化物を狩る

情報

作者:平野耕太

試し読み:HELLSING (2)

ざっくりあらすじ

「王立国教騎士団」通称「HELLSING機関」に、食屍鬼で編成された軍隊が攻め入ってきた。部下は皆殺しにされ、次々と食屍鬼と化していく中、インテグラの命に従い、アーカード達も動き出す。

感想などなど

HELLSING機関には敵が多い。吸血鬼に代表されるような化物に敵視されるのは当然として、特務局第十三課イスカリオテという組織との縄張り争いもある。この第二巻ではHELLSINGの敵対組織に新たな名前が刻まれていく。

その組織の名は「ミレニアム」。これまでアーカードが解決してきた吸血鬼による襲撃と、それに伴う食屍鬼の出現は、どうやらこいつらの実験を兼ねた事件だったようだ。

そして今回はバレンタイン兄弟が食屍鬼の軍隊を引き連れて、HELLSING機関の幹部達が集められた円卓会議に襲撃して来た。円卓会議ということもあり、それなりの護衛がいたように見受けられるが、あっさりと殺され喰われていく様は、なかなかにグロテスクだ。

食屍鬼の厄介な所は、喰われたそばから増えていくことにある。つまり、HELLSINGの護衛をしていたインテグラの部下達が食屍鬼と化していくのだ。戦闘をすればするほど戦力が削がれていくはずの戦場において、勝手に増えていく戦力というのは恐ろしいことこの上ない。部下が化物となっているというのは、精神的にもきついものがある。

そんな鬼畜作戦を指揮するバレンタイン兄弟も厄介な奴らだ。特に冷静な言動を心がけているらしい兄は、HELLSINGの抱える最強兵器・アーカードに対する切り札を持ち合わせているらしい。

この一連の事件における見所は、『バレンタイン兄とアーカードの戦闘』と『ウォルターの活躍』だと個人的に思う。他にも厨二心をくすぐられる台詞の数々等々、語りたいことは多々あるが、ネットで検索すれば「パーフェクトだ」「小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」とか有名なのでいくらでも出てくると思われる。

 

バレンタイン兄は吸血鬼としての力を手に入れ、アーカードに挑んで来た。ヒトには真似できない超高速に、銃で撃たれた程度では死なない超回復、死んでも死なない不死性。これぞ吸血鬼だと言わんばかりに力を振るい、アーカードと脳漿やら血を飛び散らせながら戦う。

その時のアーカードが楽しそうに、良い笑顔で戦うのだ。外観も人とはかけ離れた滅茶苦茶な姿と化し、何発弾丸を撃ち込まれ、バラバラに飛び散っても飛び散った先から全く別の姿の化物と化していく様は絶望感が尋常じゃない。

同じ吸血鬼でありながら、ここまで差が生まれるものなのか……? 絶望し嘆くしかできなくなってしまったバレンタイン兄の最期は、それはそれは醜い。

そんな戦闘の一方、バレンタイン弟と食屍鬼と戦うウォルターも、老いぼれを自称しながらもその技術の高さから繰り出される攻撃の数々は目を見張るものがある。脅威の耐久を持つ食屍鬼を切り刻んでいく糸攻撃は、これもまた厨二心をくすぐってくる。

大人になってからも尚、厨二心がくすぐられるのだ。もしも多感な頃に読んでいたらヤバかったかもしれない。

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