工大生のメモ帳

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ある日、爆弾がおちてきて 感想

※ネタバレをしないように書いています。

ボーイ・ミーツ・ガール

情報

作者:古橋秀之

イラスト:緋賀ゆかり

ざっくりあらすじ

『電撃hp』に掲載された ”不思議な少女” と ”フツーの少年” が織りなす、ちょっと不思議な七つのボーイ・ミーツ・ガール。

「ある日、爆弾が落ちてきて」「おおきくなあれ」「恋する死者の夜」「トトカミじゃ」「出席番号〇番」「三時間目のまどか」「むかし、爆弾がおちてきて」

感想などなど

「ある日、爆弾がおちてきて」

タイトルにもなっている作品。あらすじとしては、『爆弾を名乗る初恋の少女が落ちてきて、「ドキドキ」が溜まると爆発しちゃって、町が滅びちゃうよ』というお話。おそらく、このあらすじを見た人の大半は、脳内に疑問符が浮かんでいることだろう。しかし、本当にこのままの意味なのだ。

昔好きだった少女が落ちてきて、彼女とドキドキすることをする……青春の甘酸っぱい一時を過ごす度、少女が嬉しそうな表情を浮かべる度に、少女の胸の時計が少しずつ進んでいく。

少女の言葉を信じるならば、この時計が進みきると爆発が起きて少女も少年も巻き込んでみんな死んでいく……甘酸っぱいシーンであるはずなのに、かなり切ない雰囲気が漂う。まさしくボーイ・ミーツ・ガールと呼ぶべき物語だった。

 

「おおきくなあれ」

”阿呆風邪” と呼ばれる奇病により『記憶遡行』していく幼馴染みと、一緒に帰宅する男子高校生の様子を描いた物語。最初は女子中学生の記憶状態にまで戻ってしまい、今との記憶のズレに戸惑いながらも、何とか一緒に帰って行く。

しかし、女子中学生から女子中学生……小学生、さらには三歳へと次々に記憶が遡っていく。それにより次々と明らかになっていく新しい物語。

この作品の面白さは、構成の美しさだと思う。記憶遡行により情報が小出しにされていく感覚と、最後に明らかになる物語は惚れ惚れする。最後のオチも秀逸で、物語としての完成度が高い作品だった。

 

「恋する死者の夜」

世界観の設定としてはタイトルの通り、『死者が蘇る』物語となっている。例えば心臓が止まって死んだとしても、次の日くらいには普通に動きだす。しかし、蘇った死者は自分が死んだことを理解せず、毎日同じような行動を繰り返すようだ。会社に毎日通っている最中で死んでしまえば、毎日のように会社に向かう。習慣の行動を行っていると思って貰えれば良い。

そんな世界で、毎日のように遊園地へ向かうナギと僕。ちなみにナギはもう既に死んでいて、僕だけがただ歳を取り続ける……毎日、毎日……昔好きだった少女と共に遊園地へと通い続ける。もう既に死んだはずの少女は記憶が更新されることはなく、同じような反応に台詞。おそらく、彼と彼女の物語は永遠だ。

作品内で度々、『天国』と『地獄』の要素が登場する。生死の概念が語られ、全体的に重い空気が漂う。恋愛的要素に加え、死生観についても考えさせられる作品となっていた。

 

「トトカミじゃ」

図書委員になった少年と、図書室の神棚でまつられているトトカミとのお話……かと最初は思っていた。まぁ、間違いではないのだが。

トトカミ様は幼い少女の格好をした神様だ。毎年一人にしか姿が見えず、彼女の姿が見えたという人は禰宜様(神主や宮司といった意味)として彼女の世話をすることとなる。

これまで長い間、そのようにしてトトサマを祭続けていた。しかし、主人公の代を最後として神棚が撤去されるらしい。

多くの人になんだかんだ愛されてきたトトカミ様……彼女が迎える結末。おそらく誰もが納得のいく行く末だったと思う。後読感がたまらない作品でした。

 

「出席番号〇番」

誰かと入れ替わることでしか現れない日渡という学生と、クラスメイト達のドタバタとした日常を描いた物語。自分は「さよなら、絶望先生」を思い出してしまった(読んだことがない人は最終巻のネタバレをググってみて。できればネタバレなしで読んで欲しいけど)。

日渡という人格が、毎日誰かの人格として現れる。想像しにくいかも知れないが、隣の席の人が今日は日渡で、明日は前の席の人が日渡で、明後日には後ろの席が日渡で……という説明で伝わるだろうか。

つまり日渡は全員の秘密を知っていたりするのである。また、日渡が何かをやらかしたとして、次の日には日渡は別の肉体に移っているので、昨日やらかした人とは違う人を叱っているみたいなややこしい状況になる。

……あれ? 伝わってる? 伝わってないだろうなぁ。

 

「三時間目のまどか」

三時間目の数十秒間だけ、窓越しに会うことができる少女と紡ぐ物語。自分としては「君の名は」を少しばかり連想したが、読んだことがある人ならば分かって貰えるのではないだろうか。

窓越しの彼女には言葉が通じず、メモに書いた文字で会話する。しかし、メモだと反転してしまって会話がしにくいということで必死に手話を覚えようとする主人公の努力が涙ぐましい。

そうしていく内に互いに会いたいと思うようになる。電話番号を交換するも、「この電話番号は使われていません」という無慈悲な音声……あれ? では彼女は何処の誰なのか?

他の作品同様、結末があまりに綺麗だった。心にスッと染み渡るような、透明感溢れる物語だ。

 

「むかし、爆弾がおちてきて」

爆弾によって『時間の進行速度が六十億分の一となった柱』に閉じ込められた少女と、その柱を外から眺める少年の物語(似たような星での物語が少女漫画でありませんでしたっけ……誰か知ってたら教えて下さい)。

6000000000分の1……自分が一歩歩く間に、柱に閉じ込められている少女は瞬きすらできない。爆弾によって少女が柱に閉じ込められてから、六十年という時間が経過しているが、彼女の姿は何一つ変わっていない。何せ、また60000000分の1年しか経過していないのだ。時間に換算すると、およそ0.3秒といったところか。

少女が一秒を過ごす間におよそ200年が経過する。彼女が解放された時、世界は一体とうなってしまうのだろうか。想像するだけで楽しいのは自分だけではないと思う。

作品内の主人公である少年も、同じようなことを考えた。柱の中には、近くて無限に遠い世界が広がっているのだ。