工大生のメモ帳

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【映画】この夏の星を見る 感想

※ネタバレをしないように書いています。

夏を迎え撃てない

情報

監督:山本環

脚本:森野マッシュ

原作:辻村深月

主演:桜田ひより、水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな

ざっくりあらすじ

2020年。世界がコロナによって混乱し、高校生達の部活動や日常が制限されていく。茨城県にある砂浦第三高校の天文部は、毎年開催していた〈スターキャッチコンテスト〉を今年も何とか開催しようと動き出す。

感想などなど

2020年のコロナによる社会の混乱は、2025年現在、また記憶に新しい。

本映画はそんなコロナ禍を舞台にした映画であり、原作である小説の初版は2023年、映画は2025年という驚異的なスピード感で作られている。

コロナ禍の記憶は確実に、着実に薄れつつある。そしてコロナによって大切な青春を奪われた者達がいたという忘れてはいけない事実までも、どこか記憶の彼方に追いやられていた。それは自分が青春をとっくに終えた頃にコロナによる混乱を生きたことによる「自分は青春潰されてないから」という無意識によるものだろう。

そんな自分が想像できなかった「コロナによる青春の破壊」が描かれ、それと戦う覚悟を決めた学生と大人達の奮闘が描かれていく。

この映画を象徴するような台詞「このままでは夏を迎え撃てない」が、作品としての雰囲気を正しく表現してくれている。コロナという敵によって、これから先の青春が壊されそうになっている学生が夏を楽しむ。彼/彼女らにとっての勝利条件は、青春を謳歌することなのだ。

 

この戦いは日本各地にそれぞれの学生の視点で描かれる。

例えば。

長崎県の五島にもまたコロナによる混乱は広がっていた。コロナによって歪まされるのは日常だけではなく、人間関係までにも波及する。五島の旅館を運営している家族は、コロナを持ち込ませる仕事として差別を受け、旅館の扉には嫌な張り紙が貼られている。娘は学校の友人に「学校で話しかけないで」と言われる程だった。

そういえばコロナ禍にはそのようなことがあったなと思う。外出してはいけないという空気の中で、飲み会をしようものなら叩かれたものだ。飲み会は娯楽なので叩かれる理由もまだ分かるが(実際それでコロナにかかった知り合いがいたので)、コロナ対策を徹底した上で旅館を経営することは悪いことではないだろうに。

コロナを多くの人が怖がっていた。実際、死者も多く出た。好き好んでコロナを蔓延させようという者はいないだろう。周りの人は決して敵では無いはずなのに、敵対して叩けるだけ叩いて良いという空気感が出来上がっていた。彼女達はこの空気にまで戦いを挑んでいく。

例えば。

茨城県にある砂浦第三高校の天文部では、毎年、夏の思い出作りの一環として〈スターキャッチコンテスト〉を開催している。これは各自持ち寄った望遠鏡を、最初は北極星に固定し、そこから先生が指定した星を中央に捉えるまでの速度を競う。もう少し噛み砕くと、「月!」と言われたら月を綺麗に見られるように望遠鏡を設定する……そんな感じだ。

これは合宿して各校で集まってやるようなイベントだったのだが、コロナによって合宿なんてもっての他。誰もが開催は絶望的だと諦めていたものの、一人の生徒が「オンラインはどうか?」と先生に提言したことをきっかけに、物語が大きく動いていくこととなる。

オンライン開催のために主に砂浦第三高校が中心となって行動し、色々なことを決めていく。果たしてイベントは成功するのだろうか。

例えば。

東京では三密という言葉を掲げ、コロナへの徹底した対策を講じていた。校内での活動は制限されて、何もできないという状況の中、〈スターキャッチコンテスト〉というイベントの存在を知ったとある中学校の理科部が、自分達も参加できないかと砂浦第三高校へと電話する。

本映画は最初、コロナ禍における学生達が抱える絶望的な状況を淡々と描いているだけだった。何をするにもコロナに邪魔されて、このままじゃ何もできないじゃないかという無気力で怠惰な空気に支配されている。それがこの電話を皮切りに好転していく。

電話のシーンはかなり好きだったりする。

 

この記事が投稿されている時点では、もうこの映画を映画館で見ることは叶わないだろう。それでも声を大にして言いたい。この映画は映画館で見て良かった、と。

この映画の魅力の一つは、様々な映像手法で描かれる星空だ。

最も遠くて近い星、月。それを映像として映し出すだけでも、様々な方法があるのだと分かった。ただの星空が、それぞれの星が鮮明に見える星空になっていく。星がキャッチできた興奮、感動が画面越しに伝わってくる。

星が好きになっていく、丁寧な映画だった。個人的には2025年ベスト映画に入ると思う。