工大生のメモ帳

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さびしがりやのロリフェラトゥ 感想

【作品リスト】

※ネタバレをしないように書いています。

吸血鬼さん、こんにちわ

情報

作者:さがら総

イラスト:黒星紅白

ざっくりあらすじ

吸血鬼がいるという高校に通う女子高生作家。成長の遅さに悩みがちな小さな吸血鬼。周囲に勘違いされることの多い悩み多き女子高生。電波を受信しがちな男子高校生。四人の視点で紡がれる、とある正義と悪の物語。

感想などなど

群像劇の醍醐味は何だろう。個人的には考え方や視点の異なる人物によって、同じシーンが全く別の意味を持ってくることにあると思う。

あらすじでも示した通り。本作は『吸血鬼がいるという高校に通う女子高生作家』と、『成長の遅さに悩みがちな小さな吸血鬼』と、『周囲に勘違いされることの多い悩み多き女子高生』と、『電波を受信しがちな男子高生』の計四人の視点で物語が描かれていく。

四人それぞれの時系列はほぼ同じ、つまりは全く同じシーンを繰り返して描くこともある。しかし視点が違うというだけで、最初に感じた印象と全く異なる印象に塗り替わってしまうことも珍しくない。

というか視点が切り替わるたびに、作品に対する印象が異なっていく。もしも、一人目の『吸血鬼がいるという高校に通う女子高生作家』視点のエピソードで、「つまらない」と感じる人がいるのであれば、次のエピソードまで読み進めることをお勧めする。

作品に対する印象というものが、百八十度ひっくり返ることとなる。

 

『吸血鬼がいるという高校に通う女子高生作家』こそが、最初に語り部を担ってくれる。静かで大人しく、あまり人とのコミュニケーションを得意としない女子高生だが、その実態は初めて書いた小説が大賞を受賞し、将来を有望視された作家である。

しかし、そんな彼女は自身の今後について思い悩んでいた。若き女子高生作家として祭り上げられ、編集の意向により写真なども撮られつつ売り出されていく作品。誰も作品ではなく、”女子高生作家” の肩書に惹かれたのでは? と悪い方向にばかり思考が向き、作品を書くことができなくなっていた。

悩みに悩んだ末、彼女は吸血鬼が住むとされる校舎の屋上に忍び込んだ。向かった理由は普通からの脱却か、はたまた屋上からのダイブかは本人のみぞ知る。

そこで吸血鬼と出会い、彼女の生活は一変していく。

……『吸血鬼がいるという高校に通う女子高生作家』から見た物語の概要としては、こんなものだろう。校舎で出会った大人びた高貴な姿を称えた吸血鬼。この世のあらゆることを知り尽くした彼女と仲を深めていくことで、二人は友人としての関係を築いていく。

しかし、所詮は人と吸血鬼。住んでいる世界の違いというものを見せつけられる事態に遭遇する。吸血鬼が殺人を犯したのだ。

 

……さて、物語は『成長の遅さに悩みがちな小さな吸血鬼』視点へと移る。表紙にも描かれている小さな吸血鬼は、とある高校に生息し、いまだ小さく成長しきっていないことに思い悩んでいた。

そんな彼女があるとき屋上に行くと、今にも飛び降りてしまいそうな女子高生に遭遇。小さいながらも必死になって彼女を止めようとする……が、気づくと吸血鬼は一気に成長して大人の姿になっていた!

つまりは女子高生作家が出会っていたという吸血鬼は、実際のところ未だ幼い小さな吸血鬼であって、魔法で一時的に姿を大人にしていただけに過ぎなかったのだ。かなり大人びた話し方をしている印象であったが、それは全て小説の真似事をしながら必死に話していたに過ぎない。

そんな彼女の健気な頑張りというものが、このエピソードでは描かれており、どこか心がほっこりしてしまう。また、女子高生作家に見せつけていた殺人は、実際は嘘であったことまで明かされる。

こうして次々と明るみになる真実。個人的には女子高生作家が、超絶ヤバイ人間であったことが一番の驚きだったが……どうヤバかったのかは作品を読んで確かめて欲しい。人は意外と自身の異常性に疎いのかもしれない。

 

三人目は『周囲に勘違いされることの多い悩み多き女子高生』である。女子高生作家視点と、吸血鬼視点の共に登場し、高飛車でビッチでいじめっ子でクラスカーストの頂点に君臨している人格破綻者……という印象が、彼女視点から見ると百八十度違う印象を受けることになる。

まず全く持って高飛車じゃない。可愛い。

次にビッチじゃない。むしろ一途な乙女である。乙女すぎるくらいだ。

次にいじめっ子じゃない。むしろ救ってる救世主と言っても過言ではない。

クラスカーストの頂点……まぁ、これは真実であろう。なぜだか誰も彼女に逆らおうとする者はいないのだ。

そして彼女は意識せずに、物語の核心部分に触れていく。彼女視点の物語を見ていくことで、これまでの視点で登場していた些細な情報が繋がっていき、吸血鬼に這い寄っている危機を教えてくれた。

しかし。

彼女は吸血鬼が学校にいるということを知らない。当然のことながら、助けようなんてことも考えない。

 

最後は『電波を受信しがちな男子高校生』視点となっていく。大きなネタバレであるため詳細は避けるが、この物語は彼視点ではどうしようもないほどにバットエンドだった、とだけ言っておこう。

しかし、この物語は彼だけの物語ではない。彼にとってのバッドは、誰かにとってのハッピーで、彼の思い描いた正義は、誰かにとっての悪だった。

ただそれだけの単純なお話。

全体で一つの物語でありながら、四つの視点それぞれで全く違った楽しみ方をすることができるお得感のある作品であった。これぞ群像劇の醍醐味であろう。

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