※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
つまんない人生頑張って。
情報
作者:杉井光
イラスト:植田亮
ざっくりあらすじ
響子先輩の率いる民音部は、合唱コンクールや体育祭の後に控えた文化祭へと向けて練習に励んでいた。しかし、コンサートチケットを巡った合唱コンクールでの一騒動や、コンサートで出会った若き天才ヴァイオリニスト、ジュリアン・フロベールとの出会いにより、直巳は騒ぎの尽きない日々を過ごす。
感想などなど
大切なことは、言葉にしなければ通じない……が、本作ではそれは通用しない。
ここまで本作を読んでいる方は、もどかしさだけが積み重なってしまっていることだろう。民音を構成するヒロイン達は、「もうそれ告白だよね?」という発現を繰り返している。しかしその思いが通じることはないのであった……何で読んでるこっちが照れないといけないのだろう?
しかし代わりと言っては何だが、彼・彼女達は言葉ではなく音楽で殴り合いをすることで思いを伝え合っているようだ。第三巻でも、互いの思いを伝え納得させるための武器として楽器が使われ、言葉として音楽が奏でられていく。
音楽の背景にある物語……それを追体験しながら、ついでに音楽に関する知識も学ぶことができる本シリーズも佳境に向かいつつあることを、読み終えてから感慨にふけり数日後、ブログ主は文章を書いている。
第一巻の感想だっただろうか。これは『桧川直巳と蛯沢真冬のラブストーリー』であると本作を一言で説明した。その考えは第三巻になっても変わっていない。一貫して直巳と真冬の関係性にスポットライトが当てられていく。
直巳の鈍感振りは、きっと死んでも治らない類いの病だろう。それに対する真冬の感情の表し方というのも、あまりに不器用であるが、一読者としては可愛らしいのでヨシ。
しかし、第一巻で二人の逃走劇を繰り広げていながら、第二巻で一人で逃げていったお姫様を王子様が助けに行くという展開を見せていながら、クラスの立場も二人で一組というくくられ方をしているというのに、二人の進展が一切ないというのは納得いかない。
千晶や響子先輩的には有り難いことなのかもしれないが、どうみても相思相愛の二人である。ふむ……やはり良く考えてみても納得いかない。
しかし、この第三巻ではやっと……やっと進展が生まれた。
その進展が生まれた要因というのは、第三巻を通していくつか上げられる。
一つは真冬のことを「愛しの人」と呼び、直球ストレートに恋愛感情を露わにするジュリアン・フロベールという人物の出現である。そんな彼の行動に驚く直巳を見て、「違うの」と必死に否定しようとする真冬が可愛い。
直巳としては気が気でない。「ナオミは、真冬の、なんなの?」と訊ねられ、何も答えられない直巳。彼は真冬のことを考えざるを得なくなる。
自分は真冬にとっての何なのか?
真冬とどうなっていきたいのか?
読者からしてみれば、その答えというのは決まっているのだが。
もう一つは文化祭で行うライブへと向けて、響子先輩に編曲を任された直巳が苦しんだことによる葛藤することである。どうしても過去の天才達の模倣しかできないと嘆く彼、そして彼を助けてあげたいとする真冬。しかし彼女の助けは借りたくないという彼なりに抱いた別種の感情……それらが複雑に入り乱れ、言葉だけでは伝えられない程に膨れ上がっていく。
それらの感情のぶつかり合いは、音楽で行われていく。
互いにあまりに不器用で、言葉にすることができなくて、きっと音楽でしか表現できなかったのだ。二人が抱き、互いに伝えたいと思い続けていた感情を、ぶつけ合うことができた。
ここまで長かった。第一巻から、多くの人が待ち望み続けたシーンが、第三巻では待っている。見続けて良かった、そう思えた。