工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

MENU

されど罪人は竜と踊る① 感想

【前:な し】【第一巻:ここ】【次:第二巻

※ネタバレをしないように書いています。

暗黒ライトノベルの始祖にして最終作

情報

作者:浅井ラボ

イラスト:宮城

ざっくりあらすじ

咒式を使う攻性咒式士であるギギナとガユスの二人は、エリダナの街に交錯する〈竜〉との戦いや大国の陰謀に巻き込まれる。

感想などなど

本作の世界観を説明する上で、咒式について理解して貰うことが手っ取り早いだろう……そう思い本を片手にキーボードを叩き始めた訳だが、思いの他説明というものが難しい概念であることを実感させられる。

大抵の作品では、作中で登場する魔法やスキルといった概念の説明が最初の方で行われる。しかし本作は戦闘の流れの中に膨大な情報量を読み解かせるという、お世辞にも親切とは言えない形式が取られている。

例えば本文から引用した次の一文を読んでいただきたい。

『俺の知覚眼鏡は、数法量子系第五階位〈反咒禍界絶陣〉の咒式が展開されたことを確認。』

……まぁ、本文を読めば前後の流れで意味が分かる。どうやら『爆風を防ぐシールドのようなものが現れた』ということを言いたいらしい。しかし、それぞれの単語の意味を聞かれたらブログ主は困惑してしまう。

まず知覚眼鏡とは何だろうか……まぁ、主人公がかけている眼鏡であるということは当たり前だろうが、それがどういった効能を持っているのかの説明はなされていない。

数法量子系第五階位とは何だろうか。第五ってことは第一も第二もあるのだろうが、その説明がないので結局のところ良く分からない。

〈反咒禍界絶陣〉とは何だろうか。ちなみに読み方はアーシ・モダイである。意味は良く分からない。

他の作品であれば、おそらく「知覚眼鏡とは!」「数法量子系とは!」の説明で一ページくらい割いていることだろうが、本作にそのような優しさは存在しない。全編の戦闘を通して似たようなノリで展開されていく。

もう一つ例を示しておこう。以下に示す文章は、主人公の相棒であるギギナが、自身の肉体を強化させることを説明するものである。

『咒式により、赤筋と呼ばれる遅筋遷移のクエン酸回路でグリコーゲン、グルコースに酸素を使用して最適効率で分解し、アデノシン三リン酸を生産。白筋と呼ばれる速筋繊維にあるクレアチンリン酸とアデノシン三リン酸を最適効率で利用し、ATP-CP代謝によって収縮。強化された遅筋と中間筋繊維の間に、強力な神経伝達を行い、大量のクレアチンリン酸アデノシン三リン酸を合成。(以下略)』

ギギナはタンパク質やらアミノ酸を咒式で合成したりすることで自身の肉体を強化するということが後半になって説明される。上記一文は、その過程を描いているということなのだろう。

見て貰えば分かる通り、化学や生物で扱うような単語が多数登場する。他にも物理や数学で扱われるような単語も入り乱れ、文章はカオスを究める。教科書で見てきた化学式をライトノベルで見ることになろうとは。

 

本作の魅力は『ギギナとガユスの関係性』や『独特な会話』にあると思う。冒頭ではギギナとガユスの二人が憎まれ口を叩きながら、人間よりも圧倒的に強いとされている〈竜〉と戦う姿が描かれている。

戦闘後に街へ戻った後も、二人の憎まれ口は留まることを知らない。

咒式士特有――いや、この世界特有と言うべきか、言い回しが独特だ。

例えば、無駄遣いをしたギギナに対して

『よし、全て燃え消えてしまえ』

『ガユス自身が燃えて消えた方が効率的だ』

……ふむ、まぁ、これぐらいならば現実でもあり得る会話だろう(?)。

例えば、戦闘狂であるギギナに対して(ギギナはドラッケン族の出身。ドラッケン族自体が戦闘狂として有名)、

『ドラッケン式の結婚式だと、純白の、敵の生首でも出してそうだな』

『よく知っているな。ドラッケン族のギタレラ家の風習など、研究者でも知るものは少ない』

……ふむ、こういった小ネタの積み重ねが世界観を作り上げ、物語を面白くしているのだろう。お気に入りの掛け合いを探してみるのも、一つの楽しみ方かもしれない。

 

本作のストーリー自体は突き詰めると至極シンプルだったりする。二人の咒式士が、国の偉い人の護衛任務を承り、その偉い人の裏の顔を知る……何も難しいことはない。黒幕の考えもシンプルで分かりやすい。何やら難しい作戦を考えているように見えるが、(実行できるかは置いておくとして)簡単な内容だった。

文章を見ると小難しいという印象を受けるかもしれない。しかし文章も慣れればどうということはなく、ストーリーの理解は容易い。登場人物達に対する印象も、最初と最後では変わっていく。ギギナに対して、ツンデレヒロイン的な可愛さを見いだしたのは自分だけではない、と信じている。

アニメなどではなく、文章を通して楽しむべき作品であるように感じた。

【前:な し】【第一巻:ここ】【次:第二巻
作品の探し方