※ネタバレをしないように書いています。
霊感サスペンス・ミステリ
情報
作者:ヤマシタトモコ
試し読み:さんかく窓の外側は夜 4
ざっくりあらすじ
「呪い」をかけておいて、その「呪い」を払う仕事を受ければ、効率的に金を稼ぐことができる。そんな歪んだ冷川を何とかしたい三角は、彼のことを知りたいと詰め寄るが――。
感想などなど
明智小五郎と怪人二十面相が同一人物説をご存じだろうか。
明智小五郎というのは江戸川乱歩が生み出した名探偵であり、怪人二十面相は彼のライバルに当たる怪盗である。二人ともが変装の名人であり、催眠術を使うことができるといった共通点があるために、こういった説がまことしやかに語られていた(映像作品では、この説を元にして作られているものもあったはずだ)。
つまりはマッチポンプである。自分で盗んで、自分で事件を解決する。犯行トリックも自分で考えたものなのだから、解き明かせない謎はない。なるほど。効率よく稼ぐという点でいけば、これに勝る商売はない。
冷川は今以上に効率よく金を稼ぐために、そんなことを提案してきた。呪いを払うことができるならば、呪いを付与することも簡単にできるのだろう。思い出されるは、相手を呪うアイテムを飲み込んだ冷川の姿である。
さらに冷川は、三角にマーキングをして紐で繋いでいるのだ。三角自身は、そのことをインチキ占い師・迎系多に指摘されるまで気付かなかった。相手に黙ってそんなことをする時点で、彼はかなり歪んでいると言わざるを得ない。
そんな冷川の感性に、どこか寂しさを覚える三角。怒りもあるだろうが、それでも冷川との付き合いを続けるところに、三角という男の懐の大きさを感じる。
三角の友人には変わり者が多い。筆頭格は冷川ということに異論はないだろう。迎系多も良い奴ではあるが、インチキ占い師をしているという一点だけで、歪んでいる言いきっていいだろう。
相手を呪うことを仕事としている非浦もまた、歪んでいるといっていいのではないだろうか。父親から言い渡された仕事をこなし、多くの人を呪って殺してきたという特殊な環境にしては、むしろ人間らしさが色濃く残っていることに驚きすらある。
英語の宿題を、英文学科に通う三角に教えてもらうために、自分の部下であるヤクザに連れてこさせるくらいには常識がぶっ飛んでいるが、それでも自身の持つ力をどうにかして役に立つようなことに使いたい、もっと別の生き方をしたいと語った彼女の目は本物であり、だからこそ三角も彼女に協力したいと思ったのだろう。
宿題をこなしている様は、やはり普通の女子高生にしか見えない。だが、彼女の環境はどうしようもないくらいに壊れている。彼女の父親が、「先生に力を与えてもらった」と語り、目が左右で違う方向を向いた時。父親が人間には感じ取れない匂いをかぎ取った時。もうダメかもしれないという絶望感に苛まれたのは、全読者の共通認識なのではないだろうか。
三角だけでも、彼女の味方として傍にいてあげて欲しい。
これ以上、壊れないでいてと切に願う。
冷川を始めとした多くの歪みから構成されている本作において、三角という男はどういった役割を持つのか?
冷川は三角のことを、(僕らのような人間には)とても魅力的に見えると語っている。霊が見えていながら、これまで嫌な思いも数多くしていながら、母親しかいない片親という環境でありながら、ここまで歪まずに生きてこれたことは奇跡だと思う。
冷川も迎も非浦も、その歪んだままの姿勢で三角と接している。歪んでいるということを隠さずに接することができる数少ない相手なのではないだろうかと夢想する。そういう相手が、皆には必要だったのではないだろうか。
歪みを矯正するような相手ではなく、そのままで受け入れて話を聞いて、(勝手に、頼んでもいないのに)親身になってくれる相手。そういう相手がいる環境こそ、彼らに必要な世界だったのではないだろうか。
色々なことを考えさせられる第四巻。これからどう物語が転がっていくのか、楽しみでしかたがない。