※ネタバレをしないように書いています。
霊感サスペンス・ミステリ
情報
作者:ヤマシタトモコ
試し読み:さんかく窓の外側は夜 8
ざっくりあらすじ
教団から無事に姿を隠すことに成功した英莉可。これから教団をどのように対処するかを考えなくてはいけないが、冷川は金も力も直接奪いに行く無茶な作戦を進めようとする。その幼稚さを指摘した三角は、呪いの池に飛ばして閉じ込められてしまい――
感想などなど
先生が現れるという危機的な状況で、助けてくれたのは母親だった。これまで呪う仕事をする娘を見ているだけだった彼女が、初めて母親らしいことをした。そんな母親は娘のことを「……恐いわ」と言った。
それでも。
「あなたが何を持って生まれたかは あなたのせいでも わたしのせいでもない」「そう思えるまで こんなにかかってしまった……」と、その思いをしっかりと言葉にしてくれた。恐怖は毒だ、植え付けられりゃ何もできねぇ……と母親の心情を言い表した逆木は、従者として英莉可を連れて逃げていく。
その過程で、一度は死んでしまった逆木を、死を引きずり出して自身に取り憑かせることで復活させた英莉可。彼女の能力者としての特殊性と強さを再認識しつつ、彼女を逃したくないとした先生の意味も理解できた。
ただ先生のやり方は敵を作り過ぎた。
これからは三角達のターン……と簡単にいけば良いのだけれども。
とにかく事態は急展開を見せた。教会の帳簿や通帳は、母親の手助けにより入手に成功した。それらは解析は半澤刑事に任せ、人脈の化物である占い師も宗教関係・ヤクザ関係に詳しい人間に当たって調べることになった。
何を調べるか? それは先生の名前である。
名前を知られるというのは、それだけで相手に主導権を握られるような、霊的な力が弱ってしまうことになる。それを嫌ったからこそ、先生は徹底してその過去を隠し、誰にも名前を悟られることがないようにしていた。
逆に言ってしまえば、名前を突き止めることができれば、それは先生の弱点ということになる。これを利用しない手はない。どんなに強い能力者だったとしても、人であるということに変わりない。何かこれまで人間社会で生きてきた痕跡が、どこかにはあるはずなのだ。
その調査で一致団結しないといけないという時に、不穏なことを考える者がいた。感情を自覚することのできない冷川だ。
「直接何もかも奪いに行けばいいだけじゃないのかと思ったんですよ」「疑問ですよ それが一番の解決策なのは明白なのに誰も言い出さないのが」「それが害をなすなら奪ってしまえばいいし奪われることが最大の罰ではありませんか」というように淡々と言葉を紡ぐ冷川。
対する三角は心配する。何に対して怒っているのか、なぜ怒っているのか、しっかりと言葉にして欲しい。悪い感情を抱えていることは辛く悲しいと、同情までしてみせた。彼はとても優しい男なのだろう。
その優しさを暴力だといって拒む冷川は、最後に彼を閉じ込めた。
三巻にて解決したお屋敷の池が何かおかしいという事件を覚えているだろうか。美人な主に、呪いが取り憑いていて、それを払おうとしたのだが「利用できる」とした冷川が、そのまま放置していた場所である。
どう利用するんだと思っていたら、まさかこうやって人を閉じ込めることに利用するとは。かつて確かに人だった主は、半分が呪いに乗っ取られ、いや正確には明け渡したことで、呪いと人のハイブリットとなっていた。
さらに外に出ようにも家の門がなくなっており、出ることができなくなっていた。そこで彼は呪いと初めて対話する。外に出してもらうため、そして呪いを理解するために。
果たして三角に呪いを理解することはできたのだろうか。冷川や先生が見ている世界と、求めているものを見ることができるようになったのだろうか。物語の核心を突くような台詞がたくさん出てきて、この物語の終わりが近いことが何となく分かる。
それでもどのように着地するのかは全く分からない。不思議な感覚に襲われる作品であった。