※ネタバレをしないように書いています。
英雄のいない世界で英雄になる
情報
作者:細音啓
イラスト:neco
ざっくりあらすじ
かつて五種族が地上の覇権を争い、英雄シドの出現によって人類の勝利によって幕を閉じた世界。そんな歴史が突如として上書きされ、人類が敗北した世界へと来てしまったカイは、そんな運命を断ち切り人類を勝利へと導くことを誓った。
感想などなど
――強大な法力を振るう悪魔族
――天使やエルフ、ドワーフといった亞人種の勢力たる蛮神族
――ゴーストなど、特殊な肉体を持つ聖霊族
――竜を頂点とする、強大な獣たちの勢力である幻獣族
四種族にはそれぞれ英雄がいた。
悪魔族の英雄「冥帝ヴァネッサ」
蛮神族の英雄「主天アルフレイヤ」
幻獣族の英雄「牙皇ラースイーエ」
聖霊族の英雄「霊元首・六元鏡光」
それぞれの四英雄に率いられた四種族と、人間を巻き込んだ五種族大戦が百年前に起こった。そんな戦争を制したのは、最弱であった人間だった。「予言者シド」という人間の英雄の登場により次々と打ち倒された四英雄は、巨大なピラミッドを模した墓所と呼ばれる場所に封印され、百年たった今でもその姿を当時のままに保っている。
これがこの世界の歴史だった。
平和な今の世界に再び悪魔などが解き放たれることを危惧し、墓所を監視し、もしも封印が解かれた場合にも対処できるように訓練を積む人類庇護庁が作られた。しかし、そんな大層な役割を持つ庁の中に、真面目に監視し、訓練を積むような人間はいなかった。
なにせ百年も前のこと。百年経った今になって、封印が解かれることなどないだろう……そんな漠然とした油断を抱いていたのだ。ただ一人、カイという少年を除いて。
カイは昔、墓所の中に入り穴に落ちたことがあった。そこで見たのだ。無数の悪魔の群れと、光り輝く剣を。だからこそ彼はずっと危機感を抱いていた。いつ悪魔が解き放たれたとしてもおかしくはない、と。
そんな彼の心配は予想外の形で実現されることとなる。
歴史に『もしも』はないと言う。そらそうだ、これまで積み上げてきた過去は変わらない。その想定が覆されたのだ。
突然、目の前に広がる廃墟。そして空から降り立ってくる悪魔の姿。手元にあって、今後墓所の封印が解かれない限り猛威を振るうことはなかったであろう武器が、生かされることはないと思われていた訓練での成果が火を噴いた。
その人語を操る悪魔は語る。
「奴隷への命令は、その奴隷の言葉がもっとも有効だ」
つまり人間は悪魔の奴隷と化している。
そんな悪魔を倒しつつ、突如として廃れた場所に生きていた数少ない人間は語る。
「俺らウルザ人類反旗軍の傭兵だからな」
人類反旗軍? 徐々に情報が明らかになっていく。つまりこの世界は、『英雄シド』が現れずに人類が負けたという別の歴史を辿った世界なのだ。そのことを知り、「自分の記憶が間違っているのか?」「世界が間違っているのか?」混乱するカイ。
そらそうだ。この変化に前触れなどはなかった。普通に街中を歩いている最中、世界が切り替わったのだ。だが手元にある兵器は悪魔に対してダメージを与えたし、人類が勝利した歴史の世界にもあった墓所が、この世界にもあるらしいことを確認する。
四英雄を封印するために作られた墓所が、人類が負けたこの世界にもあるというのは明らかにおかしい。そこで調査に乗り出してみると、伝説で何度も聞いた『英雄シド』が使った剣(によく似た剣)と、それはそれは可愛らしい少女が封印されていた。
リンネと呼ばれたその少女は、四種族の特徴全てを兼ね備えたような天魔と呼ばれる存在であり、カイと同じように人類が勝利した世界から飛ばされて来たようだ。おぉ、世界でたった一人と思ったところに仲間がいた。
そしてこれまでの疑問「世界が間違っているのか? 自分が間違っているのか?」にも答えが出せる。自分ではない、世界が間違っているのだ。なにせ人類が勝利した歴史を知っているのはカイだけではない。リンネもなのだ。
そしてカイは世界を正しい歴史にただすため、この世界における「予言者シド」となるために戦うことを誓った。そんなカイは、人類反旗軍とも協力体制を敷き、悪魔族の英雄「冥帝ヴァネッサ」との戦いに乗り出す。
明らかにステータス的に不利な状況から、作戦を練り、最善策で挑む対悪魔との戦闘は、皆が皆活躍する総力戦となり、その見どころは満載だ。戦いの始まりから終わりまで目の離せない戦闘の連続であった。やはりこの作者の作品の見どころは戦闘だと思う。
戦闘だけでなく、先の気になる風呂敷の広げ方が上手い作品だった。