※ネタバレをしないように書いています。
人の心の天使と悪魔
情報
作者:和ヶ原聡司
イラスト:029
ざっくりあらすじ
エンテ・イスラの魔界を統べている魔王・サタンは、人間を初めとする神々の勢力をあと一歩で殲滅するところまで追い詰めた。しかし、勇者と名乗る一人の人間によってひっくり返されることとなる。相対する勇者と魔王の戦いの末に追い詰められたサタンと側近アルシエルは、ゲートを通り抜け異世界である日本へとやってきた。
感想などなど
ストーンヘンジやピラミッド、ナスカの地上絵というように当時の技術では作ることができないような、またはどうして作り上げたのか分からないものが、この世界にはたくさんある。
それ以外にも、科学では解明できていないような謎というものが、この世界にはたくさんある。だったら魔法があったとしても……という妄想、空想を一度くらいは抱いたことがあるのではないだろうか。
本作は魔法がある世界から、魔王やその側近、さらには勇者までもがやって来てワイワイする作品である。しかし、地球には残念なことに魔法が存在しない。魔法というチートを使って無双して、地球を支配してガハハするということはないのであった。
しかし元の世界であるエンテ・イスラにて、悪逆非道の限りを尽くした魔王・サタン。魔法が使えない程度のことで世界征服を諦めるような雑魚ではない。彼には彼なりの作戦というものがあった。
なんとマクドでバイトして、バイトリーダーから店長にまで上り詰め正社員となろうとしているのだ。あぁ、なんと恐ろしい。
……まぁ、最初は割と急いでエンテ・イスラに戻って世界征服をしてやる気満々だったのだが、いつの間にか日本での生活に馴染み、添加物もりもりのマクドのバーガーに舌鼓をうち、自転車になんかカッコいい名前を付けて愛している程度には異世界ライフというものを満喫している。
節約を心掛ける魔王、数千円の出費に涙を流す魔王、B級映画を嗜む魔王……というように魔王には似合わない修飾子がくっついてくる。魔王はできることなら城の奥でふんぞり返っていて欲しいものだが、残念ながら、日本での彼の居住空間は六畳一間のふろ無しアパートである。
エンテ・イスラでの魔王と、日本での魔王というギャップが面白い。しかし、決めるべき箇所で決めてくれるのは、さすがカリスマ性のある魔王といった所か。
そんな魔王と共に勇者エミリアまでもが日本にやって来ていた。魔王と刺し違えたということもあり、彼女もめちゃくちゃ強かった。過去形である、というところがポイントである。
お察しの方も多いかもしれないが、彼女もまた魔法が使えなくなっていた。正確には天使の加護だとかいうらしいが、日本には存在しないということに変わりない。
そんな勇者と魔王が出会うと、前世の因縁(この言い方は正しくないが)ということで喧嘩になる。しかし勇者の持つ偉大なる聖剣の代わりのナイフはあまりに小さい。魔王は冴えない格好に、武器無しであるのだから、ただの痴話喧嘩にしか見えない。
実際、作中では警察に通報され連行されていく。勇者と魔王がカップルに間違えられるというのは、こういった特殊な状況でしかお目にかかれない。とりあえず拝んでおこう。
ほわほわした日常物かと思いきや、意外としっかりした伏線回収と、どんでん返しが用意されている。魔王がやって来てからというもの頻発する地震、魔王のバイト先の後輩である女子高生が耳にしたという謎の言葉、街を賑わせた強盗事件……それぞれがしっかりと繋がって、物語として一区切りつけて終わらせてくれる。
二巻以降も続けられる余地も残しつつ終わらせるというのは、かなり理想的な第一巻であるのではないだろうか。ライトノベルとして理想的な作品であった。