工大生のメモ帳

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はたらく魔王さま!2 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

人の心の天使と悪魔

情報

作者:和ヶ原聡司

イラスト:029

ざっくりあらすじ

異世界である日本にやって来て真奥としてマクロナルドでバイトに精を出す魔王・サタン。その甲斐もあって店長代理にまで上り詰める。そんな中、恵美を襲撃する大鎌の男が現れたり、おんぼろアパートの隣室に時代錯誤な女性が引っ越してくるなど色々なイベントが発生して……

感想などなど

魔王という単語から受ける印象、エンテ・イスラで行ってきた殺戮の数々とは打って変わって、人類が作り上げた社会とそのルールを律儀に守って行動する真奥。例え「彼は元魔王です」という紹介を受けたとしても、元厨二病のレッテルを貼られるか、何とも言えない微妙なギャグセンスに苦笑いを浮かべることだろう。

そんなギャグが事実であると認識できる者は、地球上にはそう多くない。エンテ・イスラ出身者を除けば佐々木千穂こと『ちーちゃん』だけである。しかも華の女子高生にして、彼に惚れているというのだから驚きだ。

バイトにて超優秀で仕事のできる男に惚れるということは、別段珍しいことではないのかもしれないが、自転車をデュラハン号と呼称し、同居人に『まおうさま』と呼ばせている姿を見ると、こう色々と複雑な想像に駆られ、恋心どころの騒ぎではなく、突っ込み所しかない気がする。

そんな彼女の日常と世界を守りつつ、魔王様は世界征服……の大きな一歩手前としてマクロナルドの店長代理にまで上り詰めた。かの豊臣秀吉も農民からのし上がったというし、こういった小さな一歩が偉大なる一歩として語られる未来というのも、そう遠くはないのかもしれない。

 

そんなある日。魔王城などと勝手に呼称してはいるが、実情はとんでもないオンボロアパート(風呂なし)に新たな住人がやって来る。しかも若い女性。時代錯誤な和服に身を包んだ彼女の名前は鎌月鈴乃。

言葉遣いまでもが時代錯誤な死語塗れではあるが、品行方正であり礼儀正しい乙女であるということに変わりはない。男所帯の暑苦しい環境でありながら、隣人同士助け合う者だという彼女によって、魔王城の食糧事情と環境が改善されていくことになる。

……この日本において、特に都会では隣人関係というものは非常に希薄にならざるを得ない。「ご飯作り過ぎちゃって……」と肉じゃがを届けてくれる存在というのは、天然記念物に指定し保護すべき対象か、はたまた薬を混ぜて眠らせて泥棒を働こうとする輩のどちらかだと相場が決まっている。

彼女ははたしてどちらに該当するか?

結論から言ってしまうと、彼女もまた、エンテ・イスラからやって来て策略を巡らす存在だったのである。まぁ、メタ的な読み方をしてしまえば明らかではあるが。

 

そのようにして魔王の環境も変わっていく中、勇者・恵美の状況も少し不穏になっていく。第一巻の騒動を経て、エンテ・イスラの仲間と連絡を取り合うことが可能となったことにより、戻ろうと思えばいつでも戻ることが可能となった。

しかし、魔王を討伐する……ために監視するという目的のために残ることとなった。「それエンテ・イスラじゃできないのかね?」という突っ込みは野暮である。ほら、アレだよ。何か起きたときにすぐさま対処できるようにするための策略ね。

そんな彼女がフツーに生活し、フツーに魔王ストーキングしていると、突如として鎌を持った何者かの襲撃を受ける。しかも街中の人目につく環境で。

力に押され、危うく負けてしまう危機的状況であったものの、近隣の勇気ある若者のカラーボール(コンビニとかにあるぶつけて蛍光色と強烈な匂いを付着させるボールのこと)による攻撃で逃げていく謎の襲撃者。

しかしカラーボールの効果により、相手の顔には目立つ色がつき、匂いは強烈になっていることだろう。それにしても魔法を使う相手にも、カラーボールって通用するんだなぁ……。

 

第二巻もまたシンプルでありながら丁寧な構成となっている。分かりやすさというのは創作において、『面白い』と『面白くない』を訳隔てる一つの指標になり得る。そういった意味では、本作はかなり面白いに分類される。

しかもきっちりオチをつけてくれる、と。お約束ではあるが、それもまた一興。楽しい作品だった。

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