※ネタバレをしないように書いています。
破滅フラグしかないなんて……
情報
作者:山口悟
イラスト:ひだかなみ
試し読み:乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 1
ざっくりあらすじ
頭をぶつけて前世の記憶を取り戻したら、公爵令嬢に生まれ変わっていた。しかも前世で憂いしていた乙女ゲームの世界で、その上ヒロインの邪魔をする悪役令嬢カタリナに転生していた。結末は国外追放か死亡の二択のみ。破滅エンドを回避すべく行動を開始するけれど……
感想などなど
本作は『破滅回避ラブコメディ』と帯に書かれていた。しかしブログ主としては、『乙女ゲームRTA』という称号を贈りたい。
まずは乙女ゲームを知らないという方に向けて、ブログ主がWikipediaにて得た付け焼き刃の知識を披露しておこう。一言で言うならば、女性向け恋愛ゲームの中で女性が主人公となっているゲームのことである。つまり選択肢を選んでいくことで、女性(主人公)が男性(攻略対象)を攻略していくことで物語を進めていき、ハッピーエンドを目指すというものだ。
残念なことに本作の主人公は、そのゲーム内で主人公を妨害する悪役令嬢に転生してしまう。悲しきかな、主人公がハッピーエンドに進もうがバッドエンドに進もうが、悪役令嬢に待っている運命は死か、国外追放。この破滅フラグを回避し、天寿を全うすることが本作における目的となっている。
さて、その破滅フラグ回避のために色々と策略という名の猿知恵を働かせることになる訳だが……。
第一巻にして破滅フラグを持っている王子や義弟、宰相の息子、彼らの妹や婚約者のみならず、メイドや庭師に至るまでの全員を堕としてしまったのだ。さらに両親の関係性を改善させ、追放された時の準備も万全(?)ときたものだ。
強いて問題点を挙げるならば、カタリナは周囲の人がカタリナに惚れているという事実に気付くことができていないという点だろうか。カタリナの攻略難易度は最高難易度に設定されているのだろう。彼・彼女達の必死なアピールには同情の涙すら流れそうになる。
構成としてカタリナ視点で破滅フラグを回避すべく行動する話が描かれ、一段落すると攻略された人物視点の話が描かれていく。するとアホみたいなカタリナの行動が、実は攻略対象にクリティカルヒットしていたということが明かされる。
カタリナはアホだが、現代とゲーム世界内の思考の差異が、攻略対象の悩みや問題を勝手に解消していくのだ。その勘違いや展開が面白い。場合によっては涙すら誘う。
例えば。
ゲーム内では婚約することで、カタリナを他貴族との防波堤に利用していたジオルド王子。しかし主人公であるマリア=キャンベルに恋し、邪魔になったカタリナを斬り殺したり、国外追放にしたりする。わりかし酷い腹黒王子である。
そんな彼の心情は複雑で、王子としての期待や代わり映えのしない日々に退屈していた。そこに令嬢としてはあり得ない行動――畑仕事(令嬢がするとは思えない行動)、木登り(令嬢どころか女性としてあり得ない行動)、おもちゃを投げつける(婚約者としておかしい行動)――に翻弄されつつ、おもしろいと思い興味を持つことになる。
婚約を結んだままでは、ジオルド王子がマリア=キャンベルを好きになってしまった際に斬り殺されるか、国外追放されてしまう! ということで婚約を円満に破棄させようと画策する訳だが、その行動すら面白いということで、ジオルドの好意はカンストしていく。恐ろしい女。
そんな本作の一番の魅力は『登場人物がみんな良い人』ということに凝縮されている。カタリナはアホかもしれないが、微笑ましく応援したくなるアホだ。作品内の登場人物だけでなく、読者ですら「おもしれー女」だと思わずにはいられない。
ゲームではカタリナを斬り殺したりするジオルドだが、カタリナに本気で恋し、振り向かせてやろうと奮闘する様は微笑ましい。三日に一度、熱心に彼女の元へ通う姿は応援せずにはいられない。
メイド達や両親も、問題児であるカタリナの行動に振り回されながらも、彼女の将来のために奮闘してくれる。行動の節々から愛情が感じられ、読んでいて心がほっこりする。
「愛すべきアホとは、こういうアホだよなぁ」と思いつつ、あっという間に一冊読み終えてしまった。「良かったねぇ」「頑張ってくれよ」と全登場人物を応援したくなる希有な作品としてお勧めである。