※ネタバレをしないように書いています。
今日に満足できるまで夜ふかししてみろよ
情報
作者:コトヤマ
試し読み:よふかしのうた (1)
ざっくりあらすじ
不眠が続いて不登校となっていた夜守コウは、初めて出た夜の街で吸血鬼・七草ナズナと出会う。二人きりで夜更かしをしていく中、何とかして吸血鬼になりたいと思ったコウだったが、吸血鬼になるためには吸血鬼のことを好きにならなければいけないのだという。
感想などなど
夜の街を練り歩いたことがあるだろうか。
昼間の喧噪が嘘のように静まりかえった世界は、どこか不思議な時間が流れている。夜に親が寝静まった後、夜の街に繰り出して練り歩くのは、子供の頃にしか味わえない緊張感と爽快感があった。
子供にとって夜の世界は特別で、家の扉を開けた先の異世界のようなものだったのではないか。いつまでも明るいコンビニの灯りに、虫がたかる自販機が特別に見えるのは、子供の頃だけである。
主人公である夜守コウは、漠然と不登校になり、不眠症が発症し夜に眠れなくなった。そうなると活動時間は基本的に日が沈んでからとなり、夜の街に繰り出すのも必然であろう。
そこで夜守コウが出会ったのが、吸血鬼・七草ナズナである。
彼女の存在が、夜の特別感を際立たせ、その世界に足を踏み入れていく理由になっていく。これから先、「よふかしのうた」という作品は回想を除いて夜の時間でしか展開されていかない。夜守コウにとって、夜の世界が生きていく世界に変わっていくのだ。
冒頭ではおっかなびっくりに玄関の扉を開け、大きな音を立てないようにゆっくりとした動きで外に繰り出している。メールや電話の通知で驚く。しかし、徐々にそれらを当たり前に受け止め、夜の世界での自由を謳歌するようになっていく。
この第一巻はその始まり、吸血鬼・七草ナズナとのファーストコンタクトが描かれていく。「なんか変な女だな……」と胸中で思っていた出会いが、「俺を吸血鬼にしてください」とお願いするに至るまでの経緯が。
吸血鬼・七草ナズナ。年齢不詳。
そもそも吸血鬼は、吸血鬼になった時点から歳を取らない。一種の不老不死である。しかし食事として、人の血を吸わなければならない。吸わなかった場合どうなるのかなどは、後々のエピソードで明かされていく。ここら辺、けっこうシリアス色が強かったりするのでお楽しみに……。
吸血鬼は自身の眷属を増やしていくことで繁殖する。吸血鬼の物語で多いのは、「血を吸われた者が眷属になる」といった設定だが、「飯食うたびに家族が増えたら嫌じゃね?」という七草ナズナのもっともな説明により否定された。なるほど、確かに嫌である。
だとすれば、どのようにして吸血鬼は眷属を増やすのか?
『吸血鬼に惚れた人間がその吸血鬼に血を吸われること』によって、吸われた人間が吸血鬼の眷属となる……というのが、本作の設定である。首筋に噛みつかれ、血が吸われるたびに身体がビクビクと震えるシーンはどこか背徳的で、それが眷属を生み出す行為にもなりえると考えると、なんとも言い知れぬ感情に襲われる。
決して厭らしさはない。まぁ、七草ナズナは痴女みたいな格好だけれども。七草ナズナは「吸血とは食事とまぐわいを同時に行うものなのだ」と高らかに語っているけれども……。
ごめんなさい。やっぱり厭らしいし、エッチかもしれない。
夜の楽しさや、夜の自由な世界、日常からはみ出した過ごし方を教えられ、もう昼の世界には戻れないと実感し、そういう生き方をしたいと強く願った夜守コウは、吸血鬼になりたいと願った。
そのためには夜守コウは七草ナズナに恋をしなければいけない。ただ彼は誰かに恋をしたことが一度もなかった。成績優秀・(表面上の)友達付き合いも上手かった夜守コウは、告白されたことだってあった。しかし、それを良く分からないという理由で断っている。
彼は本当に、恋というものが良く分かっていないのだろう。
事実、作中で何度も血を吸われていながら、彼が吸血鬼になる様子はない。ただ吸血鬼になりたいという願望だけでは吸血鬼になれず、恋をするという自身の意思でどうにかできると思えない領域で奮闘しなければならない。
「俺は七草さんのことを好きにならなきゃいけないんです」「俺は吸血鬼になりたい」などなど、何度も言っている。そのたびに七草ナズナが赤面している様は可愛いが、そう言っているだけで物語がどう進行していくのか掴みきれずにいた。
厭な予感がする。もしやこれ、一発ネタなのではないかと。
ただその心配は杞憂である。
「血を吸わなかった吸血鬼がどうなるのか?」
吸血鬼の食事は血である。これを吸わなければどうなるのか。そもそも夜守コウのように血を吸わせてくれる人間が、極々まれな存在ということを忘れてはいけない。
「七草ナズナはどのように吸血鬼になったのか」
吸血鬼になるのは、吸血鬼のことを好きになって血を吸って貰うという手順が必要になる。となると七草ナズナは、過去に誰かに恋をして、血を吸われたという過去が必要になってくる。これは新しい寝取りのスタイルだな……ということを考えてしまったブログ主は性格が悪い。
第一巻は夜世界の雰囲気を全開に演出した内容となっている。第二巻以降、徐々に吸血鬼の世界の深みへと足を踏み入れていく。それには読者も追従していく。読み進めれば読み進めるほどに「語りたい」が増えていく漫画であった。