工大生のメモ帳

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アカイロ/ロマンス 少女の鞘、少女の刃 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻】

※ネタバレをしないように書いています。

鬼でも人が好きになる

情報

作者:藤原祐

イラスト:椋本夏夜

ざっくりあらすじ

霧沢景介には姉が失踪して行方不明になったという過去を持つ。クラスメイトの灰原吉乃も、似たように親友を失踪によって失って、それ以来、笑顔を見せることがなくなった。そんな様子を気に掛けて、彼は遊びに彼女を誘うが……。

感想などなど

人はあっさり死んでしまう。転んで当たり所が悪ければ死。刺されれば死。斬られれば死。老衰でも死。いやはや、否定したいが現実である。本作のヒロインである……と思われた灰原吉乃も、そんな人間の一人だ。

だから死んだ。あっさりと。

それは悲しい死に様だった。同級生と思われる高校生に虐められた末に死んだのだ。殺した側は、殺そうと思っての行動ではなかっただろう。しかし結果として彼女は死んだ。

霧沢景介に遊びに誘われて、初めて男の子と連絡先を交換した。初めて送ったメールには可愛らしい絵文字を使った。虐められている最中、助けを求めて電話をしたのは、警察でも親でもなく、霧沢景介の電話番号だった。

その虐めの光景を、影でずっと眺めている者がいた。それは人ならざる異形の鬼で、人とのつがいをなして子を産んで細々と生きてきた存在であった。姿を見せるわけにはいかなかったそいつは、彼女の死を知った。

そいつは首だけの姿であった。鬼にとって、四肢の欠損は少しばかり不便になったに過ぎない。だからこそ身体を欲した。そんな時に、目の前に現れた、若く綺麗な死体を利用しないはずがない。

電話に気付いた霧沢景介が虐めの現場に駆けつけたのは、首だけの鬼が、灰原吉乃の身体を自分のものにしようとする正にその時であった。遊びに誘った彼女の死体の首がすげ替えられていく光景を見て、この世界には鬼という人が抗うことのできない異形の存在がいることを知ったのだ。

 

吉乃の身体を譲り受けた鬼の名は、枯葉というらしい。棺奈というメイドを隣に置いて、吉乃の記憶を引き継いだ彼女は色々とショッキングな話を聞かせてくれた。過去の失踪事件には鬼が関わっているかもしれないということ、周りには意外と鬼出身の者が多いということ、しかし最近は人を嫌っている鬼も多いということ……などなど。

景介の脳裏には姉のことが思い浮かんだ。そして吉乃の親友のことも。

それらの事実を、景介は意外にも冷静に受け入れていた。吉乃の死体を譲り受けた枯葉とも、普通に会話を進めている。次の日から普通に学校へと通い、彼が鬼について理解したことを知ってか、鬼であることを隠していた者達も普通にコンタクトを取ってくるようになった。

それでも景介は冷静だった。その冷静さは、一連の事件の意外な真相というものに気付いてしまうこととなる。

 

……それにしても何故、吉乃は虐められていたのだろう。地味だからか? 笑顔が消えたからか? 虐めていた者の気持ちなど理解したくないが、これはとても重要な話だ。

この話の根幹に関わる。

鬼は人を平気で殺すのだという。それは果たして真実か? 鬼の話を聞く限り。死生観や命に対する考え方は、人とは大きく一線を画している。だが枯葉はたまたま現場にやって来て鬼の姿を見てしまった景介を殺すようなことはせず、話をして受け入れて貰うように行動した。

何か、人と鬼の間で認識がずれている気がする。そこに真実があったのだ。たった一言でも運命は変えられたのかもしれない。これはそんな儚いバランスの上で成り立っている物語であった。

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