※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
《黒の書》
情報
作者:天城ケイ
イラスト:ニノモトニノ
ざっくりあらすじ
白夜騎兵団による暗殺計画から逃れるために、聖ドートリッシュ女学院に転校したメリダとエリーゼ。そんな彼女たちを守ってもらう条件として、クーファはアルメディア公爵と『ミュールが持ち出した《黒の書》を回収する』ことになった。しかし、回収を目前にして《黒の書》の中のボードゲームの世界へ取り込まれてしまう。
感想などなど
第十巻は『エリーゼを殺すか』『メリダを殺すか』という雁字搦めの状況に追い込まれたクーファ。完全に白夜騎兵団を裏切り、父親だった上司とも殺し合いをした果てに、聖ドートリッシュ女学院へと逃げ込む形で、一旦の終幕を迎えました。
とはいっても。なにも解決していないというのが正直なところです。このまま永遠に閉じこもって平和な日々を過ごせるとは思えません。クーファが所属していた白夜騎兵団は逃げられたから諦めるというほど、生半可な組織ではないことは何となく分かります。
メリダとエリーゼを中心として、フランドール全体を取り巻く貴族に対する反感感情などの世論が蠢いていく物語は、一触即発の緊張感が常に漂っています。しかも目的など良く分かっていないレイボルト財団のクローバー社長が加わることで、物語は混とんを極めていくことになるのです。
とりあえず、第十一巻での目的は『ミュールが持ち出した《黒の書》を回収すること』として物語は進行していきます。しかし、回収したから終わりというほど単純な話ではないことは何となく想像できるでしょう。
構成としては『《黒の書》を回収』で半分、『黒幕が《黒の書》を使って○○する』で半分の二幕構成。それぞれで衝撃の事実が次々と明るみになっていくため、「あれ? これ、どこからどこまでがネタバレなんだ?」と首を傾げつつ、読み進めたことはここだけの秘密にしてください。
前半部分である『《黒の書》を回収』では、あらすじでも示した通りボードゲームが行われて行きます。双六を転がして、出た数字だけ進むアレです。しかし駒が用意されているわけではなく、自分が動いて進むという斬新なボードゲームではありますが。
当然、転がして歩くだけの単純なゲームではありません。進む度にマス目に応じた生涯が用意され、クーファに「作者の性格が悪い」と言わしめたトラップの数々が牙をむきます。
クーファ達としては大変なことこの上ないのでしょうが、触手……ではなく植物のツタによる攻撃や、奇麗な水辺と、そこで水遊びをする可愛らしい女性陣(メリダ、エリーゼ、サラシャ、ミュールの四人)のサービスシーンなどもあります。イラスト的にはもうアウトじゃね? と思ってしまうようなものまで……これは人前では読めませんね。
そんなシーンばかりではなく、マナが使えないという《黒の書》内の特殊環境において発揮されるメリダ達の成長を感じられます。舞台で用意された些細なアイテムたちまでもが生かされていく戦闘シーンは、伏線が回収されていくような心地よさがありました。
さて物語としては本番ともいえる『黒幕が《黒の書》を使って○○する』後半部分。もともとアルメディア公爵が、メリダ達を守るための条件として提示してきたために回収したのですが、《黒の書》ってなんなのでしょう。
どうやら最古に封印された禁術であるということは、最初に説明されます。ですが禁術とは何ぞや? メリダ達を守ることと引き換えになるようなものなのか? というかミュールはどうして持ち出した?
ミュールは持ち出した理由について、「フランドールの秘密を知ることができる」だとか、「これが敵の手に渡るとまずい」などいろいろ語ってくれますが、やはりそれだけでは情報不足。
結局のところ、全てのカギを握るのは『フランドールの秘密』であり、『《黒の書》の禁術』なのです。それらの疑問が後半になって解き明かされていくたびに、メリダ達は重要な選択を迫られます。
アンジェル家の娘でありながらマナを解放させることができなかったメリダ。
アンジェル家の血を引き継ぎ、パラディンとしての力を手に入れたメリダの友人エリーゼ。
シグザール家の当主となり、多くの責任を背負うことになったサラシャ。
そしてミュール……これまで謎の多い人物として描写されてきました。ラ・モール家の娘としてこれまで登場。彼女もまた、フランドールの歴史に、世界に振り回せされる女性の一人なのです。
新たな情報が明かされ謎が解決、そして再び浮上する疑問……そんな展開を作り出すために作り込まれた設定が、本作の魅力であるとブログ主は思います。先が気になって仕方がない第十一巻でした。