工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

アスラクライン 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻

※ネタバレをしないように書いています。

僕には、幽霊が憑いている

情報

作者:三雲岳斗

イラスト:和狸ナオ

ざっくりあらすじ

三年前の飛行機事故に巻き込まれ、奇跡的に生き残った夏目智春には、ほかのひとと少し違ったところがある。当時の事故で死んだ幼馴染みの水無神操緒が、幽霊となって彼に取り憑いているのだ。

感想などなど

夏目智春の死の間際、まどろむ意識の中で、幼馴染みにして一緒の飛行機に乗っていた水無神操緒と会った。そこで彼女は「助けてあげる」と言ったのだ。そこから彼は奇跡的な生還を遂げ、今に至る。

命があれば儲けものだ。しかし代償として、彼には幼馴染みの操緒の幽霊に常時取り憑かれることとなる。こちらに触れて干渉するようなことはないが、常に可愛らしい少女の姿が眼前をチラつくというのは、思春期の少年の精神衛生上よろしくない。

天国のような地獄である。

しかし彼はそんな日常を悪いとは思っていないようだ。幽霊とは普通に言葉を交わしているし、冗談を言い合えるような関係性を築いている。それにこの世界の幽霊は、歳を重ねて相応に成長を遂げるらしい。幽霊は死んだときの年齢を保つものだと思っていたが、そういうものでもないようだ。

まぁ、それが実は幽霊ではなく射影体と呼ばれる兵器だったのだが、それが分かるのは後半になってからのお話。

 

この作品の魅力は、徐々に解き明かされていく設定にある。謎だらけだった言動の数々が繋がって、それぞれの正体と立場が明らかになってからが本番である。そこからが面白いのだ。

前半部では数々の疑問が提示される。

大前提として、幽霊なんているのだろうか? 現実に智春には、他人には見えない操緒が取り憑いている。さっきネタバレとして射影体と書いてしまったが。

次に今どこにいるのか分からない智春の兄・直貫の存在が挙げられる。超優秀で天才だという情報は提示されるが、その天才的頭脳を生かして今は何をしているのだろうか? 良いことをしていてくれると有り難いのだが。

次に超絶美人が「直貫さんに頼まれていたの」と、銀色のトランクを家に届けに来た。「最初からあなたたちのものよ」という意味深な台詞も添えて。ここでいう「あなたたち」というのは智春と誰のことを指しているのだろう。もしや幽霊の操緒が見えていたのか? いや、まさかな……。

そんな中、唐突な襲撃を受ける智春。襲ってきたのはこれまた可愛らしい女子高生であった。「アスラ・マキーナは……どこ?」「イクストラクタを渡してください」という意味不明な言葉を呟いている。実体があるので幽霊ではないようだが、むしろ幽霊よりも人間の方が恐い。

……というように意味深のオンパレード。これらが解決することだけを期待して、読み進めていくと、どこまでも世界観が広がって、この世の未来と歴史を巻き込んだ設定が分かっていく。

この第一巻がプロローグのようなものだろう。これから先への期待に胸が膨らんでいく内容であった。

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻