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【アニメ】「ブギーポップは笑わない」第十八話【感想・解説】

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2019年冬アニメリスト

 

まず最初に 

「歪曲王」さんの正体と生まれた理由、また田中志郎の歪みが判明。一連の事件が解決し、竹田啓司もしっかりと役割を果たし、皆が皆、日常へと帰っていきます。

改めて「ブギーポップは笑わない」から「歪曲王」の流れが完璧だな、と思います。「ブギーポップは笑わない」の登場人物達の心の歪みが描かれ、解決して、さらには世界の敵が実は「マンティコアではなく早乙女正美」であることが分かったりと。電撃文庫大賞に選ばれなければ描かれなかっただろう伏線が細かく張られていたことが伺えます。

用語・人物解説

羽原 健太郎

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会
  • 霧間凪との出会いの際、思いを告げられなかったことを後悔している男。ちなみに、未だに思いは告げることができていない。
  • 能力は持っていない(……はず)だが、統和機構と敵対する可能性を秘めた存在として最上階に辿り付いた。
  • 霧間凪の影響で ”正義の味方” として戦う人生を歩んでいる。
田中 志郎

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会
  • 紙木城直子の彼氏。最後まで好きだと言えず、守ることもできず、彼女をマンティコアに喰われた。
  • 心の歪み(一部)を指さし、拡大させるという能力。
  • 今回の一連の現象は、「歪曲王が人の心の歪みをどうすれば解消できるのか実験していた」ことにより起きた。
新刻 敬

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会
  • アニメ一~三話であまりしっかりと描かれていないが、竹田啓司が好きだった。
  • アニメ第三話にて、早乙女正美の好意を感じ取り、その思いにはっきりと決着をつけられなかったことが彼女にとっての歪みとなっていた。詳しくは後述。
  • 「はっきりさせたい症候群」(ブログ主勝手に命名)であり、少しの疑問もはっきりさせないと気が済まない。
宮下 藤花(=ブギーポップ)

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会
  • あくまで彼は自動的であり、 ”世界の敵” を殺すためだけに現れる。
  • ムーンテンプルでは「統和機構」というシステムの敵になりうる存在が、自然と最上階に集うことになっている。ということは……。
  • 今回、マンティコアは ”世界の敵” ではなかったことが明かされる。マンティコアの首を切り落としたのはサービスだったんだなぁ……。

注目すべきポイント

田中志郎と羽原健太郎

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

ムーンテンプルを再び開けるためのパスワードが消え、「まだ終わらせるわけにはいかない」「僕が歪曲王の本体だ」と告げる田中志郎こと歪曲王。

終わらせるわけにはいかない理由は、『歪みを解消する実験がまだ終わっていないから』である。実験に関しては「ブギーポップとの会話」にて後述。また、かつてマンティコアを撃った勇気ある若者が、歪曲王となってしまった理由も後述。

新刻敬と早乙女正美

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

新刻敬は自身の歪み――心残り、心の傷――に気がつき、早乙女正美と言葉を交わす。アニメではかなりざっくりとカットを重ね、さらには第一話から第三話にかけて「新刻敬が竹田啓司を好き」であるという情報をぼかしていたため、分かりにくくなっている点だと言える。また、この部分を理解するためには第三話を見返さなければ分かって貰えないだろう。

結論から言ってしまえば、『早乙女正美から新刻敬に対する好意を感じ取ったが、その思いに対して決着をつけることができなかった』ということが、彼女の歪みである。

ここで思い出さなければいけないのは、『霧間凪が早乙女に殺され、エコーズとマンティコアが戦っている最中、新刻敬と向き合う早乙女正美が言った言葉』である。絶対覚えている人はいないだろうから、ここで書いておこう。

「僕はそういう力強い意思のある目が大好きなんだ」

……はい、これが早乙女正美から新刻敬に対する好意である。さらっと早乙女正美は言ってのけているが。

それを聞いた新刻敬は、「気持ち悪かった」と発言している。彼女は「竹田啓司が好き」な自分と早乙女正美を重ね合わせ、『人を好きになる』ことの気持ち悪さを知ってしまった。それを認めたくない彼女は、歪みとして記憶を封印したのだ。

ブギーポップとの会話

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

この一連の会話は全て大切なのだが、可能な限り要点をまとめられるよう努力する。

  • 『歪曲王の本体』

歪曲王の本体は田中志郎である。能力は『人の歪み(一部)を指さし、拡大させる』というものであり、目覚めたのはムーンテンプルに来た朝ではないか、と思われる。

「紙木城直子が何を考えているのか分からない」という罪悪感が形となったのが、この能力である、と歪曲王は説明している。

  • 『歪曲王の目的』

そんな歪曲王の目的は「人の歪みを解消するための実験を行う」ことであり、橋坂真の心の歪みとして現れたゾーラギは失敗作だった。また、ムーンテンプル内には歪みを解消できていない(=歪みを黄金に変える)人がたくさんいるため、羽原健太郎がパスワードを打ち込むことを阻止し、実験の継続を図った。

  • 『世界の敵』

果たして歪曲王は ”世界の敵” と言えるのだろうか。歪曲王はこれまで殺してきた ”世界の敵” の話を淡々としてくれる。

まずは「ブギーポップは笑わない」における ”世界の敵” だったマンティコア……ではなく早乙女正美である。彼はこのまま行くと、 ”人食い” 以上にどうしようもない存在と出会い、世界をとりかえしもつかない状態へと変えてしまっただろう、とブギーポップは推測している。

次は「VSイマジネーター」における ”世界の敵” だったイマジネーターである(殺せていないが)。彼女は死を集め、人として突破した存在になろうとした。最終的に全人類を、人を恐れない存在に作り替えようとしていた……ためにブギーポップに殺された。

どれも放っておけば世界を滅ぼしかねない方向性を持っていたからこそ、ブギーポップに殺されたのである。

「歪曲王」における歪曲王は、全人類の心の歪みを解消する(=歪みを黄金に変える)ために現れた。歪曲王自身、悪いことをしていないと発言している。また、ここで辞めても未練はないのでは? と問われ、歪曲王は言葉に詰まっている。つまり、彼はまだ迷い、方向性を決めかねている。

まだ歪曲王は、ブギーポップの言う ”世界の敵” にはなりかねていないのだ。

  • 『歪曲王の戦うべき相手』

歪曲王はブギーポップと戦う気、満々であった。しかし、ブギーポップと新刻敬は「歪曲王が戦うべき相手は自分自身では」と告げる。紙木城直子との過去で後悔して苦しみ続けたそれこそが彼の歪みであり、解消すべき心の傷である、と。

彼のことを好きだと言い続けた紙木城直子に対して、自分の思いが分からぬまま、告げることもできぬまま、死別した彼の後悔や苦痛。それこそが彼の戦うべき相手だった。

「人のことを気にする前に、自分のことをなんとかしなよ」と、紙木城直子が今の田中志郎を見て言いそうな言葉を、新刻敬は告げる。「好きな人がいる」と嬉しそうに言っていた彼女との思い出を語る。

……一連の流れで、田中志郎は自身の歪みに気付き、最後には歪曲王に勝利する。

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会
脱出 新刻敬の場合

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

歪曲王に勝った田中志郎にパスワードを委ねられた新刻敬。パスワードを打ち込んだ画面には、『Choose your favorite music(好きな曲を選んで)』の文字。彼女は迷わず、『Die Meistersingere von Nurnberg』―― ”ニュルンベルクのマイスタージンガー 第一幕への前奏曲” ――を打ち込む。この曲はブギーポップが吹く口笛の曲である。

まるで目覚ましのようにムーンテンプル内に曲が響き渡り、同時に空調が起動される。こうして事件は終わったのだ。

彼女はムーンテンプルを降りる最中、思い人であった竹田啓司に出会う。喫茶店で竹田啓司を見かけて避けていた彼女が、自分が好意を持っていたことを隠そうともせずに彼を茶化し、これまで避けていた宮下藤花の話題も振りつつ、手を握りしっかりと「さよなら」を告げることができている。

彼女の歪みは黄金になったのだろう。彼女の失恋はようやく、ここで終わったのだ。

脱出 橋坂静香・真の場合

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

橋坂静香の歪みである『寺月恭一郎に真の父親としてなって貰いたかったこと』だった。寺月恭一郎(=歪曲王)と会話をして、当時言うことができなかったことを言うことができたため、その歪みは解消されたようだ。

誠君の歪みであり恐怖の対象であった『父親の存在』は、ブギーポップがぶっ倒してくれた。ブギーポップのことを楽しそうに語る誠君の笑顔が印象的だ。ブギーポップ今後、ゾーラギ(=父親)の影に怯えることもないだろう。

また橋坂静香は歪曲王のことは忘れてしまっているようだ。「歪みが解消されたら、その歪み自体を忘れてしまう」というらしい。新刻敬などは例外だろう。

脱出 道元咲子の場合

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

罪悪感に苛まれブギーポップに殺して欲しいと願った彼女は、ブギーポップに「君は優しい」と指摘される。醜いと評価していた自分の良い所を死神に示された訳だ。

「もし、私があんたの敵になったら」という質問の意図は、何とも言いがたい。自分は彼女が ”世界の敵” になる伏線かな? と思ったが。

また、アニメではタケシにチョコを渡すシーンが省かれている(忘れられているかも知れないが、今日はバレンタインデーである)。日奈ちゃんのことに関しては吹っ切れたようだ。

脱出 田中志郎・羽原健太郎の場合

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

どこか釈然としない様子の羽原健太郎。この一連の事件は ”寺月恭一郎が起こした怪事件” として処理されるだろうし、歪曲王が現れさえしなければ、その通りに終わっただろう。

そんな彼を見つめる田中志郎……こと歪曲王。今回消えたのは田中志郎の歪みであって、『どこにでもいて、どこにもいない』存在である歪曲王は消えていない。 ”世界の敵” ではないので、ブギーポップに消されることもない。彼は今後も度々登場してくれるので楽しみにしておこう。

ここで思い出して欲しいのは、『羽原健太郎の心の歪みは解消されていない』ということである。彼自身、霧間凪に告白できなかったことが心残りであると断言しているため、解消自体は簡単なように思える。しかし、彼は歪曲王の正体を追いかけることに夢中で、歪みと戦ってはいない。

原作では霧間凪に電話して、告白しようとするも言葉が出せないシーンが存在する。彼が歪みを解消し、告白できる日は来るのだろうか。

脱出 竹田啓司・宮下藤花の場合

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(c)上遠野浩平/KADOKAWAアスキー・メディアワークス/ブギーポップは笑わない製作委員会

宮下藤花を追いかけてムーンテンプルに入った竹田啓司は、新刻敬と別れた後、記憶が良い感じに改ざんされた宮下藤花とデートする。

改ざんの内容としては、『初めて会った場所』という待ち合わせ場所に関して、竹田啓司は『本当に初めて会った広場』で待っていたのに対し、宮下藤花は『広場で会った後入った喫茶店』で待っていたためにすれ違いが起きた……ということに ”宮下藤花” の脳内ではなっている。

最後に

長い長い作品でした。一クールに十八話という詰め込み具合のせいでそう感じるのでしょう。間に就活など挟みましたが、無事完結させることができました。

できる限りコンパクトにまとめられるように記事作成を行ったつもりです。いかがだったでしょうか。作品の理解に繋がったり、原作を読みたいという風になったらブログ主冥利に尽きるというものです。

ブギーポップというかなり古い作品(なお現在も新刊が続々と出ている)ですが、アニメ化されたことを、作品の一ファンとして嬉しく思いながら、最後まで楽しく見れた作品でした。また、新たな発見や、自分の作品に対する理解が深まった記事だったと思います。

では、また別のアニメ作品でお会いしましょう。

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2019年冬アニメリスト

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