※ネタバレをしないように書いています。
空想の外側へ
情報
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、ギヨーム・ローラン
主演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ
ざっくりあらすじ
空想好きで自分の世界に閉じこもりがちなアメリは、住んでいる部屋に前の住人が残した宝物を見つけたことをきっかけに、周りと関わりを持つことを決意する。そんな彼女の不器用な恋の物語。
感想などなど
初めて見たフランス映画が、本作『アメリ』だった。
事前情報は「フランスに行きたくなる映画」という前評判と、実在するカフェ「カフェ・デ・ドゥー・ムーラン」が登場するという二つのみで、中身のストーリーなどは何も知らない状態で視聴した。
アメリという少女が生まれ、医者である父に心臓病だと勝手に思われたことで学校には通わせてもらえなかったため、元教師だった神経質な母の授業を受けた。それにより他の子との接点はなく、空想の世界にのめり込んでいく。
OPではアメリが一人遊びをしている様子が描かれ、それを裏付けるように幼少期から始まる本映画において、アメリと同年代の子供は一切登場しない。アメリの心の声――もとい物語の進行は男のナレーション形式で語られ、アメリ自身は基本的に口を開かない。
アメリの最初の台詞は、飼っていた金魚のブルドーが金魚鉢から飛び出して自殺未遂をした現場を目撃した時の悲鳴である。つまり幼少期が言葉を発しているシーンはない。そんな幼少期はあっという間に駆け抜けて、気付けばカフェ「カフェ・デ・ドゥー・ムーラン」で働く大人になった。
先ほども書いたが、アメリが言葉を発するシーンは少ない。口にするよりも先にアメリは行動し、映像がアメリの感情を表現し、アメリの空想が物語を形作っていく。冷静になって『アメリ』という映画を思い返し、内容の言語化を試みようとしてみると、もしかすると本作はとてつもなく難しいことをしているのではないか? と思う。
しかし映画を見ている時はそんなことは思わない。考える間もなくアメリは空想を飛び出して、それらが現実に落とし込まれていく。最初は何がどうなっているのか分からないが、少しずつ理解させられる。
そんな本作の感想を語っていきたい。
この映画独特の世界観は、見て貰わないと分からないと思う。
ウィットとテンポに富んだ台詞は実に癖になるし、印象に残るカットは多い。個人的にラストシーンが好きだ。アメリが予想していた通りに彼が動いてくれず、水風船のように彼女が溶けるシーンが好きだ。金魚のブルドーが逃げ出して絶叫し、それを聞いて発狂する母親も好きだ。
空想の世界に閉じこもっている様は、冒頭から色濃く描かれているが、その居心地の悪くない空気感は文章に書いたところで伝わらない。アメリが生まれた――いや、着床した瞬間に、「老人が手帳に書いていた友人の住所を一行消していた」という死を暗喩する言い回し。それぞれの人物紹介は嫌いなものと好きなものをそれぞれ列挙する言い回し。どれを取ってもアメリらしさを示している。
先ほども書いたように、アメリは会話が少ない。他の人の人生に登場する機会が少ない、とも言い換えられる。
そんな他人に干渉しない彼女が、自室の壁の裏に「子供が隠したと思われる宝箱」を見つけたことをきっかけにして変わっていく。このオモチャなどが入れられた小さな宝箱の持ち主は、おそらく今住んでいる家の前の住人かと思われた。
アメリは考える。この宝箱を隠したと思われる人を見つけて渡してあげよう。そして喜んでくれた暁には、自分の空想の世界から外に出よう……と。その宝箱は随分前に隠されたもののように思われ、もしかしたら住民は亡くなっている可能性だってあった。それでも諦めずに調査し続け、やっとの思いで宝箱を隠した張本人を見つけ出す。そんな彼に宝箱を渡すと、やつれた男が自分の人生を思い返して、何とかして取り戻そうと奮起する素敵なエピソードが描かれる。ここで完結したとしても、「素敵なショートムービーだったな」と思うかもしれない。
ここから周りの人を幸せにすることに喜びを感じるようになって、そのために他者との関わりを増やしていく。それはアメリ特有のやり方であって、他の人の人生に登場する機会が少ないという生き方だけはそのままに、ただ他者を幸せにするための裏工作に興じることとなる。
この幸せになるべき対象に、彼女自身を含めようとはせずに。
彼女が他者を幸せにするためにした裏工作というものは、是非とも確認して欲しいところだし見所だが、彼女が父親にしてあげた素敵なことを教えて上げよう。
アメリの父親は妻(つまりはアメリの母)を、飛び降り自殺に巻き込まれて事故死したことをきっかけにして塞ぎ込むようになったようだ。母親の霊廟を庭に建て、庭の畑や盆栽、「ガーデン・ノーム(小人の置物)」を大切にしていた。これから残りの人生を、このまま塞ぎ込んだまま家の中で終えようとしていた。
アメリは「旅行に行ってみたら」というアメリの初台詞兼アドバイスを投げかけるも彼には届かない。そこでアメリがした行動は、まず庭にある「ガーデン・ノーム(小人の置物)」を盗み出すことだった。
それからというもの、各地の観光地を背景にしてノームが撮られた写真が送られてくるようになる。まるでノームが世界各国を旅行しているように、そのことを見せつけるように。
そんなノームの旅行を見た父親のこれからの行動は見てからのお楽しみである。これ以外にもアメリによる他者を幸せにするための行動はたくさんある。しかし、唯一上手くいかないことがあった。
それはアメリが幸せになること。
アメリ自身が幸せになるにはアメリが行動しないといけない。ただそのことに気付くだけで、ほんのちょっと覚悟を決めるだけで、幸せは実は目の前にあったのだ。そのことに気付かされるラストの展開はあまりに素敵だ。
アメリの行動に視聴者も一緒に振り回されながら、最後はアメリを応援するようになる。素敵な映画だった。