工大生のメモ帳

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アンダカの怪造学Ⅴ 嘘つき魔女の見つめる未来 感想

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作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

現界と虚界

情報

作者:日日日

イラスト:エナミカツミ

ざっくりあらすじ

古頃怪造学高等学校が再建され、新たな制服に校舎にて新しい生活が始まり、さらにそれに合わせた形で、古墳祭という学園祭まで催されることとなった。しかし好調の粋な計らいにより、学園祭は負傷者まで出るほど苛烈を極めるイベントと相成ってしまった。

感想などなど

これまで普通とは程遠い学園生活を送ってきた。普通って何だっけ? と疑問符が浮かぶような変わり種の教師や生徒に翻弄され、不死鳥事件やら何やらで何人、何体死んだことか。

しかし、学園という狭く限られた世界と言えど、伊依の掲げる理想――怪造生物と人が仲良く暮らす――という従来の怪造学に喧嘩を売るような理想論が浸透しつつある。これは小さな一歩だが、歴史的に見れば大きな一歩だと言えることを願おう。

そんな中、この第五巻は比較的、あくまで比較的平和な回だと言える。なんというか、最後の最後で明かされていく真実事態は鬱度マックスだが、それ以外はかなり穏便に事が運んでいく。

まず冒頭からして、読み終えた後で考えてみると平穏だったと言わざるを得ない。舞台は虚界にて、憤怒大公という名を冠した竜と、悲哀大公という名を冠したアンデットらしき何かが対話している様子から始まっていく。

第四巻で明かされた情報、虚界で戦争が起きているという話。その戦争で争っていたのは、なんとこの憤怒と悲哀だったというのだ。そして、その戦争による被害は広がるばかり。何とかして戦争を終結させるべく、二体の怪造生物は、現界にいる人間達に代理戦争をしてもらうことと相成った。

そうして代理戦争の舞台として選ばれたのが、伊衣のいる学園で開催される文化祭であった。国同士の争いではなく、学園祭というちっぽけな舞台を選んでくれたことには、感謝すべきなのかもしれないが、おかげ様で学園祭は平穏に終わるという道が閉ざされてしまった。悲しきかな。伊依が虚界のゴタゴタに巻き込まれていくというのは、ある種の運命なのかもしれない。

 

あくまでブログ主の体験を基準として語るが、文化祭というのはクラスごとに企画を立てて、それにクラス一丸となって取り組んでいくものだった。しかし本学校では、個人ごとに企画を立て、自由にグループを作って取り組んでいくものとなっている。つまりは完全に生徒主導で執り行われていく。

そこまでは自由奔放に生きる学生の多い学校なのだから、勝手に盛り上がって、勝手に楽しいイベントとして昇華されていくことだろう。そんな環境に、お世辞にも性格のよろしくない校長先生・宇宙木が爆弾を投下する。

文化祭開催当日、学生や先生、お客様たちに一番だと思う企画に投票してもらう。そしてその投票で一番となった企画の代表者の願いを、学会までもが協力して叶えてあげる……という話を唐突に持ち出したのだ。

ざわつく校内。学会の力の大きさは皆が知っている。それぞれ何かしらの願望が心に浮かんだことであろう。

しかし伊依としては参加する気はなかった。祭りを祭りとして楽しみたいという思いがあったし、本人としてはリーダーとしての素質はないと思っているようであった。だがまぁ、彼女は本人が思っているよりも有名であり人気者である。誰かが勝手に彼女を立候補させてしまっており、本人の意思とは関係なく戦いに参戦させられていくのであった。

 

さて、問題は彼女を戦いに巻き込んだ誰かである。実はその誰か、自ら名乗り上げてくれる。

彼の名は無城鬼京。女装した外観と、言動により亜玉の魔女などと呼ばれた変人である。

ここで少しタイトルを見て欲しい。

『嘘つき魔女の見つめる未来』

ここでいうところの嘘つき魔女というのが、実は彼のことだ。彼の言動は奇怪で奇妙、意味不明。平穏な場を荒らせるだけ荒し、多くの人が負傷する原因となった。しかも伊依のファーストキスまで奪っていく。許せねぇ……。

そんな男の真意というものが明かされるとき、嘘つきという言葉が大きな意味を持ってくる。彼の見ている未来というものを、読者としても少しだけ見てみたくなってしまうのは間違いだろうか。

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