※ネタバレをしないように書いています。
オグリキャップの物語
情報
作者:久住太陽
試し読み:ウマ娘 シンデレラグレイ 5
ざっくりあらすじ
オグリキャップが勝てば重賞七連覇、タマモクロスが勝てば天皇賞春秋連覇。互いの意地と意地がぶつかり合う天皇賞(秋)がいよいよ開幕。
感想などなど
ウマにはそれぞれ得意な走り方、つまりは作戦というものがある。
最初から最高速を出して最後まで走り抜ける『逃げ』、逃げを先に行かせてペースが落ちるのを待つ『先行』、道中は脚を溜めて最終コーナーから加速し先頭集団を突き放す『差し』、道中は後方集団にいて最後の直線で大外からまくる『追い込み』。
それぞれのウマ娘の脚質に応じて、適切な作戦というものがあり、オグリキャップの場合には『差し』を使っていた。最終コーナーで徐々に順位を上げていき、最後の直線でいっきに先頭に躍り出るドラマのような展開が生まれやすく、この漫画でも盛り上がるシーンが形作られていく。
ちなみにタマモクロスは『追い込み』とされていた。かつて馬群に巻き込まれて怪我をしそうになった経験があり、それがトラウマとなって、馬群の後方にいて巻き込まれることのない『追い込み』を選ぶようになったようだ。
なるほど。作戦にはそういった心理的な側面で選ばれる場合も多いのだろう。
『逃げ』はペースを落とした瞬間に追い抜かれていくという後方からのプレッシャー。
『先行』はいつペースを落とすか分からない先頭集団に気を張り続ける緊張感。
『差し』は中盤で脚を溜め続け、馬群に埋もれないようにするため頭を使い続ける。
『追い込み』はずっと後方に居続けるという性質上、レース展開に大きく左右されてしまう(全体的に間延びして先頭と後方に大きく差がありすぎる場合、物理的に追いつけなかったりする)。
さて、今回の天皇賞(秋)。あらすじでも書いた通り、オグリキャップが勝てば重賞七連覇、タマモクロスが勝てば天皇賞春秋連覇。ともに歴史に残る大記録であり、この記念すべきレースを是が非でも見たいと、十二万人にも及ぶ大観衆が押しかけた。
そんなどう転んでも歴史に刻まれるレース。
オグリキャップはいつもの『差し』で、タマモクロスは『逃げ』を選んだ。
先ほども書いた通り、タマモクロスは馬群に巻き込まれることがトラウマであるが故に『追い込み』を選んでいた。鋭い末脚があったがために、勝つことが難しい『追い込み』であっても、最強と呼ばれる位に結果を残した。
そんな彼女が、この大舞台で選んだ作戦は『逃げ』。
ちなみに彼女のトレーナーもこのことは知らず、『追い込み』で後方集団にいると思っていた彼女が先頭にいる姿を見て、「えええええええええ!?」と驚きを隠せずにいた。トレーナーですらこんな表情なのだから、観客達のどよめきも尋常ではない。オグリキャップがクラシックレースに出走できるように奔走していた記者は、「雰囲気にのまれて自分の走り忘れたんか?」とコメントを残している。
そういう訳ではない。タマモクロスは冷静に、勝つために『逃げ』を選択した。
先頭にいるのは12番 ロードロイヤル。最初に逃げてからの中間でペースダウンさせて体力を温存。もう体力が残っていないと勘違いさせた後方集団に、追いつけさせずに逃げ切るという作戦を取っているようだ。
そんな彼女のすぐ後方には9番 タマモクロス。ロードロイヤルの作戦などものともせず、いつ追い抜いてやろうかと見計らいつつ、後方に控える怪物オグリキャップのプレッシャーに怯えていた。
読者としてはラーメン一杯を飲み込んで食べるチャーミング(?)な一面しか知らないが、他のウマ娘から見た彼女の化物っぷりが描かれていく。遙か大外を回って抜くしかない状況で、迷わずそれを選択し、あっさりと先頭に躍り出る姿。四バ身以上の差があっても、響いてくる脚音。
このレースにおいて、オグリキャップはタマモクロスを追い詰める本当の意味での化物として描かれている。鋭い眼光に、ゾッとするような一枚画。大きな差が一気に縮められていき、もう脚が動かないというところまで追い詰められていく。
そんなレースの決着は、歴史通りである。
この第五巻の見所は天皇賞(秋)であり、決着自体は前半で終わる。後半はレースのその後と、オグリは出ることが叶わない菊花賞が描かれていく。そこで活躍し、勝利を収めるウマ娘がスーパークリークである。
これまで結果を残していない彼女が、クラシック三冠の一角の舞台で、圧倒的な力を見せつけて勝利する……そんなドラマの影では、敗北に泣く者達の姿もある。この一冊で登場するウマ娘の数は多いが、それぞれの努力や悔しさも織り交ぜる描き方が上手いと思う。
天皇賞(秋)でタマモクロスの前にいたロードロイヤルも、本気で勝つために作戦を出した。菊花賞でスーパークリークに破れることとなるヤエノムテキも、勝つための鍛錬を積み重ねてきたことが描かれている。
この漫画の主人公は、オグリキャップかもしれない。だが彼女の活躍の裏には、多くのウマ娘がいる。オグリ以外にもいつしか推しが出来ている、そんな天皇賞(秋)と菊花賞であった。
ちなみにタマモクロスの突っ込みが好きで、推しになってしまった読者がブログ主である。