工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

ブギーポップ・ウィキッド エンブリオ炎生 感想

【前:第八巻】【第一巻】【次:第十巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまで(出版順)のネタバレを含みます。

ただ戦うために、ここに来た。

情報

作者:上遠野浩平

イラスト:緒方剛志

ざっくりあらすじ

 エンブリオに能力を引き出された人が引き起こす災厄。最強と再び戦いたいと望む稲妻。ブギーポップがそれらを嗅ぎつけ介入する。

結末は天国か地獄か。

感想などなど

前回(ブギーポップ・カウントダウン エンブリオ浸蝕)は、最強に敗北した男が稲妻として、再び最強と戦うことを決意します。またエンブリオに能力を引き出された人々が振り回され、統和機構によって送り出された人も巻き込まれ、ブギーポップも状況を怪しく思い始める。

さて、この物語がどのような結末を迎えるのか。ネタバレをしないようにしつつ、感想を綴っていこうと思う。

 

多くの人の物語が、同時に進行していく構成は相変わらずだ。全容を理解するためには、それらをきちんと整理しなければいけない。今回、作品の大きな流れ、もとい物語は三つある。

まず一つ目、エンブリオと行動を共にする穂波顕子の物語からまとめていこう。

彼女は「生命を見る」能力を手に入れた。その能力を使って、死にかけの人を救ったが、そのせいで色々な事件を引き起こしてしまった話が、「エンブリオ浸蝕」で描かれている。今回はエンブリオと共に逃げ出してからの話である。

そんな彼女の物語で描かれていくのは、死にたいと言っていた「エンブリオのこれまでとこれから」だった。基本的に彼女と彼の対話で綴られていく。エンブリオはどのようにして生み出されたのか? 何故死にたいと言っているのか? それらの疑問が徐々に解消されていく。

次に二つ目、稲妻と名付けられた高代享の物語。

彼は前回、フォルテッシモもとい最強に敗北している。しかも為す術なく敗北し、谷口正樹に庇われるという始末。

そんな彼の前に、彼を利用しようとする組織……というよりは、霧間凪の仲間が現れる。どうやら統和機構に属するフォルテッシモに再び挑んで欲しいようである。

しかし、フォルテッシモに彼が勝てるとは思っていない。ただ統和機構を揺さぶれたらいい、もしも倒せたらラッキー程度のものであった。つまりは使い捨ての駒。

それでも彼は、再びフォルテッシモに挑むことを決意する。強くなりたいと望んだ男の成長の物語がそこにあった。強くなるために一度敗北する……かなり王道展開なのではないだろうか。

最後に三つ目、最強と呼ばれる男、フォルテッシモの物語。

彼は文字通り最強だ。敗北を知らない男であり、だからといって油断もしない。そんな彼は高代享にほんの少し期待していた。もしかすると自分と対等の戦いをできるのではないか? しかし、彼はあっさりと勝利する。期待はあっさりと打ち砕かれてしまったわけだ。

そんな時、再び稲妻が自分に勝負を挑んでくる。期待が高まる。今度こそは気分高まる良い戦いができるかもしれない。しかし、ただの戦闘狂ではないというところが、かなり好感を持てる。

 

三人が集い物語が終幕へと向かう中、ブギーポップが介入してくるわけだ。

最強と呼ばれる男とそれに挑む男、という時点でもう面白い。稲妻が勝てる可能性なんて限りなく低い。それでも勝率を可能な限り上げ、ぎりぎりまで勝利をもぎ取ろうと画策する様は、読んでいて非常に手に汗握るものがある。

それを外から眺めるブギーポップとエンブリオ。特殊な存在である二人が相まみえての会話は、色々と考えさせられるものとなっている。

人ならざる奇妙な存在と最強と呼ばれ続けて来た男が過去と決別し、新たな道を歩むまでの物語だった、と簡単にまとめて締めさせていただこう。

能力バトルものとして単純に面白い物語でした。

【前:第八巻】【第一巻】【次:第十巻
作品リスト