※ネタバレをしないように書いています。
※これまで(出版順)のネタバレを含みます。
役目を終える。そして――
情報
作者:上遠野浩平
イラスト:緒方剛志
ざっくりあらすじ
織機綺をスカウトするために、統和機構から〈アンチタイプ〉と〈カウンターズ〉の二つのサークルがやって来た。彼女を守るために、谷口正樹は試練を与えられる。
感想などなど
織機綺(カミール)がイマジネーターに登場してからというもの、谷口正樹と共に平穏(?)な日常を過ごしていました。統和機構の合成人間としてではなく、料理学校に通い普通の学生として生きています。スプーキーEからの雑な扱いからは想像できない光景ですね。
では今後も穏やかな日々が続いていくのか。
……どうやら、そう上手くはいかないようです。統和機構によって作られた合成人間であるという過去は、どう頑張っても拭いきれないのです。
しかし、ここで一つ問題が。
今さら、統和機構が織機綺を求めてどうするのだろうか? 彼女が無能力者であることは、スプーキーEに散々馬鹿にされていた程です。合成人間はMPLS能力者と戦うために作られたはずなのに、無能力者で戦えないというのであれば、「失敗作」などと言われてしまうのも仕方ない気がします。
だからこそ、彼女は統和機構に見逃され、これまで生きて来れたのです。それが今更……わざわざカーミルを統和機構に勧誘? 何か都合が悪いことでも起きたのでしょうか?
「君は自分に秘められた価値を理解していないだけだ」
とサークル〈アンチタイプ〉の〈ラークスペア〉はカミールに告げる。
「カミールもあなたも、未来は私たち〈カウンターズ〉に参加するしか道はないのよ」
とサークル〈カウンターズ〉の〈レディバード〉は谷口正樹に告げる。
……どうやらこの二つのサークルが、カミールを仲間に引き入れようとしているようです。厄介なのは二つのサークルが協力してカミールを求めているのではなく、「どちらがカミールを手に入れるか」争っているという点と、「サークルという非公式な存在である」という点の二つです。統和機構という強大な勢力も一枚岩ではなかったということなのでしょう。
二つのサークルがそれぞれ別々の目的を持ってカミールに近づき、谷口正樹もその構想に巻き込まれていきます。当たり前ですが相手は合成人間であり、能力を持っていないカミールに対して超能力を使って来ます。
”扉を開けないようにする?能力” ”人を近づけないようにする?能力” ”見えない巨大な手を操る?能力” であったりと、能力は多種多様で、誰がどのような能力を使っているのかを理解しないと読み進めるのは少しきつかったです。最後まで能力が出てこない人もいたりするのも、物語の複雑さを際立たせます。
そんな事件もどうやら ”世界の危機” に関わってくるようです。
物語の冒頭では、”スタックビートル” と呼ばれている合成人間の元に現れるブギーポップが、
「いずれ君は、世界の敵と遭遇する。そのために君はここにいる」
と告げます。意味深で、意味不明な言葉です。分かることと言えば、今回もいつも通り ”世界の危機” が近づいており、不気味な泡が自動的に現れているということぐらいです。
しかし、今回の ”世界の敵” は一体誰なのでしょうか。登場人物が多すぎると、こういった場合の考察で困惑しますね。そんな能力者の内、個人的お気に入りである二人を、ここでは紹介しておきましょう。
一人目は ”ミニマム” 。見た目は女の子でありながら、〈アンチタイプ〉のリーダー的立ち位置であり、他の合成人間にかなり恐れられ、統和機構の存在理由を淡々と語る様は畏怖すら覚えます。
彼女は〈アンチタイプ〉としてカミールを仲間に引き入れることを企んでいます。では、何故無能力者であり、何の役にも立たない彼女を引き入れようとしているのでしょうか。まさか、お遊びということもないでしょう。
ここで大事になってくるのが「彼女は合成人間の癖に能力を持っていない」という今更確認するまでもない事実と、”ミニマム” が持つ兄 ”マキシム・G” への思いの結果……全てが繋がった時、大きな感動がありました。
二人目は ”ローカスト” ……彼に関しては多くを書くことを止めておきましょう。彼の能力は終盤まで明かされず、物語において重要な要素であることが何となく分かるはずです。彼の能力に関して考察を重ねながら読み進めると楽しいかも知れません。
バトル物としての色が強い物語ですが、たくさんの人物がわちゃわちゃと入り乱れる作品が好きな自分としては、かなり楽しめるものでした。まぁ、誰が誰なのか時間が経つと分からなくなるという欠点が無きにしも非ず。
読んでいて楽しい物語でした。