工大生のメモ帳

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カスタム・チャイルド 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

作られた子供たち

情報

作者:壁井ユカコ

イラスト:鈴木次郎

試し読み:カスタム・チャイルド

ざっくりあらすじ

大学の実験室の付き合いで少しヤバめの人体実験に参加していた大学生・三嶋。怠惰な日々を過ごしていたある日、部屋に謎めいた少女・マドカがいて……。

感想などなど

生物を構成している細胞の核に、二重らせん構造のDNA――いわゆる遺伝子なるものが入っているらしい。

父親から半分、母親から半分を引き継いで、一人の人間の個性が形作られる。ここでいうところの個性とは、容姿であったり才能であったりといった生まれ持ったものを指す。

そんな遺伝子を、もしも自由に書き換えることができたなら……倫理観的な問題は置いておくとして、自分の子供を自分の狙った容姿や才能を植え付けることも可能なのではないか。

本作は限定的にではあるが、それが可能になった世界が舞台となっている。

なにせ街を歩けば両生類の鱗のようなものが生えた人間がいたり、純日本人でありながら金髪であったりといったような、親が自分の欲に忠実に作られた子供達がたくさんいる。

その欲は流行に沿って、回れ右でもしたかのように揃っているのが見慣れた光景であり、これがまた気持ち悪い。その技術はさらなる発展を遂げ、歳をとってもいつまでも若々しくありたいという願いまで叶えられるようになった。

そんな社会を楽園というべきか、ディストピアとでもいうべきか。

そんな社会で陽の当たる部分ばかりみれば、それは素晴らしき世界といえるかもしれない。ただ本作は、そんな社会の影の部分ばかりをクローズアップして煮詰めたような作品となっている。

 

医療において100%というものは存在しない。もしも絶対に治るとか、絶対に成功するとか言っている者がいたならば信用してはいけないし、それは詐欺とまで言っていいと思っている。

この社会で流行している遺伝子組み換えによる医療のアレコレも例外ではない。

時として失敗し、悲惨な結末を辿ることも珍しくない。主人公である三嶋、その友人について作中で語られる物語を少しだけしておこう。

彼の名前はセイタという。

彼もまた遺伝子組み換えによって、親が願った容姿に作られた子供である。母親は明るいライトグリーンの髪を注文した……にも関わらず、実際に生まれたのは茶色身の強い金髪の子供であった。

まぁ、そういった失敗というのはないこともないらしい。事前に説明はあるし、誓約書だって書かされる。100%の医療は存在しないように、遺伝子をいじったところで狙った子供が出てくるとは限らない。

そんな失敗した息子を、母親は遠ざけた。挙句の果てに記憶から抹消し、セイタという子供の存在をなかったことにした。彼女の中でセイタは別のところの子供で、気持ち悪い存在だったのだ。

その扱いから逃げるように、中学を卒業すると同時に家を飛び出した。そのような子供は、社会において珍しくないのだろう。スラム街ができるくらいには。

 

とりあえず世界観は分かってもらえただろう。狙った子供じゃなければ捨てればいい、子供はまた作ればいい。精子バンクを利用して、どこぞの女性に産ませることだって金さえあればできる社会に、とってつけたような倫理観を求めることが間違っている。

そんな社会で大学生をやっている三嶋は、大学に通って勉強しているらしい。らしい、というのも作中で勉強している様子が確認できない。やっていることとすれば、大学に行って遺伝子組み換えの危ない人体実験に参加している様子くらいなものであった。

研究員――といっても三嶋と同じ大学生なのだが――彼が言うには危険性は薄いらしい。その危険性はどのようにして担保しているのか、論文の一つか二つでも根拠として上げられるのか。ぜひとも明言していただきたい。

そんな彼の家に、いきなり一人の少女が転がり込んできた。彼女の名前はマドカ、ほとんど常に片手にカッターを持ち、首筋に突き付けて脅迫してくるくらいには危険人物である。

そんな彼女に脅迫される形で共同生活をすることになり、ぎこちない日常が始まっていく。ひと夏の思い出にしては、深く心に刻まれる日々になることを、冒頭の三嶋は想像もできないであろう。

 

このマドカという少女には謎が多い。

冒頭、謎の実験施設のような場所から脱走するシーンから始まっていく。守衛に外に連れ出され、「一人で行くんだよ」と押し出された彼女が、もしやマドカなのではないか。

彼女はどうして脱走したのか?

彼女を追いかける者達、実験施設とは何なのか?

そして、彼女はどうして作られたのか?

伏線や謎を回収しつつ、綺麗にまとまった一冊であった。

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