※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
世界が美しく感じられる
情報
作者:時雨沢恵一
イラスト:黒星紅白
ざっくりあらすじ
喋られるモトラド(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)エルメスと共に、世界を旅するキノの物語。
「像のある国」「×××××」「二人の国」「伝統」「仕事をしなくていい国」「別れている国」「ぶどう」「認めている国」「たかられた話」「橋の国」「塔の国」
感想などなど
「像のある国」
空から天使が舞い降りたらしいですよ。詳しくは(以下略)
「×××××」
この物語は、×××××ちゃんとの出会いと別れを描いたものです。×××××ちゃんとは緑豊かな原っぱで出会いました。そして、別れ――×××××ちゃんの今後を夢想せずにはいられません。
「二人の国」
結婚生活は素晴らしいもの。互いにどんなときも人生を共に歩むことを誓った二人は、きっといかなる時も一緒に過ごすことができるのでしょう。何せ、そこには愛があるのですから。
例え喧嘩をしたとしても、それは神より与えられし試練。二人で共に歩むべきなのです。二人の関係性を赤の他人がアレコレすることは邪魔というものであります。
そんな理念の元、『結婚した二人の間に何が起ころうと、絶対に他人が手を出してはいけない』というのが、今回キノが訪れる国の法律です……それで物語が膨らむのか? という疑問を抱く方もいるかもしれません。ここで少し物語に踏み込んでみましょう。
キノとエルメスはとある夫婦に出会います。一見(?)すると仲が良さそうに見えなくもない二人。しかし、実体は夫から妻に対するDV・脅迫・暴言のオンパレード。胸糞悪いシーンが続いていきます。そんな妻がキノに「夫を殺して欲しい」と頼むのです。
ここで思い出して欲しいのが、『結婚した二人の間に何が起ころうと、他人が手を出してはいけない』という法律。この夫婦間の暴力で説き伏せる関係は――この国の常識では――一種の試練であり、関係を進展させるために必要なものであり、
自分たちで解決しなければいけないのです。
「夫を殺して欲しい」と頼まれたキノは、国の法律のこともあり拒絶。「神様にはなりたくないんんです」というキノの台詞が印象に残ります。さて、妻はこのまま夫の暴力に耐え忍ぶ日々を過ごすのでしょうか……『結婚』というものについて色々と考えさせられる話でした。
「伝統」
どこの地域や国にも伝統的な行事というものがあります。日本だと……そうですね、山笠といった祭、能といった伝統芸能、琴といった古くからある楽器……守るべき数多くの伝統というものが存在します。
今回キノが行く国の伝統は、何と! 獣耳の国なのです! 皆が皆、獣耳を取り付けて、「獣耳の似合う人が可愛い」という独特の美意識を持っている人々が生活していました。アフリカには太っている人の方がモテるというモーリタニアという国もあるらしいですし、特段おかしい話ではないですね。
ここで考えたいのは、伝統が生じるにも理由があるということです。モーリタニアで太っている人がモテるのは、砂漠の遊牧民だった過去から『太っている方が裕福の象徴』とされているためです。理解できないとされている伝統にも、今も意味があるかはさておき、歴史的背景といった理由が存在しているはずなのです。
では、『獣耳が似合う人がモテる』というこの国では、一体どういった歴史的背景が存在しているのでしょうか。気になりませんか?
「仕事をしなくていい国」
やったぁ! 仕事をしなくていいんだ!
今回の国では働かずとも最低限の食事などが保証されているのです。何と素晴らしいのでしょう。
……しかし、「そんなうまい話があるわけないだろ!」「アレか? 共産主義か?」とお思いの方が現れることでしょう。邪推しがちな自分は、裏にとんでもない闇が控えているのでは? と身構えていました。まずは結論から言ってしまいましょう。
国の人が働かない理由は『ロボットで自動化したから』。事務的作業は勿論、農業や工業も人の手が介在する必要がなくなってしまったのです。何年かかるか分かりませんが、日本もいずれ迎える形のような気がします。妙な現実身がありますね。
しかし、この国ではスーツを着た人が通勤電車に乗り、会社へと向かっています。
……? 働かなくていいんですよね。いえ、お金は稼がなければいけないのです。
……? 矛盾してる? いえ、矛盾していません。働く必要はありませんが、お金を稼ぐ必要はあるのです。
単純に『仕事』の定義が違うのです。あなたの知っている仕事は、果たして本当に仕事なのでしょうか。
「別れている国」
日本では古来より鯨を食してきました。他国からの非難はありますが、昔からやって来たことではありますので、一日本人としてはあまり抵抗はありません。一度位ならば食べてみたい気がします。
どちらかと言えば、犬を食べているという中国の食文化の方に抵抗を感じます。まぁ、だからといって辞めさせようとは思いませんし、そういう伝統なんだなとしか思いません。
そんな文化の差は差別や争いを生み出したことは、長い歴史が証明しています。肌が黒いだけで奴隷として扱われてきた話は、きっと誰もが知っていることでしょう。
「ぶどう」
旅人〇ね。でも、本当は〇してる。
「認められている国」
誰にも必要にされていない人。そんな悲しい人がいるのでしょうか。いえ、いるはずがありません。
今回キノが訪れた国では、毎年 ”自分が必要としている人” を全国民が投票し、誰にも投票されなかった人つまり ”誰にも必要とされていない人” を殺すという制度が存在していました。一体、何人の人間が死ぬのだろうと、ガクブルで話を読み進めますが、どうやら毎年 ”誰にも必要とされない人” はでてきていないようです。
おぉ! 何と感動的なのでしょう! 性善説は正しかった! 皆が誰かに必要とされているのです。世界は美しかった!
いやぁ、いい話でした。それと健康には気を遣おうとも思いました。
「たかられた話」
キノの旅ではなく、今回はシズの話。彼は自分が住みたいと思えるような国を探し求めて旅をしている元国王(になろうとしていた人)です。今日も犬と共にキノのストーカー……ではなく真っ当な旅をしていました。
そんな彼が訪れた国は、盗賊にたかられ、食料を毎日奪われていく弱い国で、しかしながら旅人のためにと寝場所や数少ない食料を提供してくれる心優しき国民達が住んでいました。
さて、国を追われた彼にとって、彼らはどう見えたのでしょう。心優しき、殺人を得意とする男は、彼らのために何ができるのでしょうか。彼は自身の武器である刀を携え、盗賊共がやってくるのを待ちます。
……そんな戦いの結末は是非とも本編を読んで確認して下さい。
「橋の国」
ただ橋を作り続けた国の歴史の話。彼らの思いは、確かに届きました。
「塔の国」
ただ塔を作る国の話。