工大生のメモ帳

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キノの旅Ⅸ 感想

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作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

世界が美しく感じられる

情報

作者:時雨沢恵一

イラスト:黒星紅白

ざっくりあらすじ

喋れるモトラド(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)エルメスと共に、世界を旅するキノの物語。

「なってない人たち」「城壁の話」「記録の国」「いい人達の夕べ」「作家の国」「電波の国」「日記の国」「自然保護の国」「商人の国」「殺す国」「続・戦車の国」「昔の話」「説得力Ⅱ」「悲しみの中で」

感想などなど

「なってない人たち」

とある国でのお話です。レストランで席が隣になったことで、ブログ主はとある男と話をしました。男がブログの様子を訊ねてきたので正直に答えました。すると男はかなり怒った様子で、

「え? 読んだライトノベルの感想を書いた記事を更新し続けるだけのブログ? なってないなぁ……ダメダメ。そんなのは本当のブログって奴じゃないよ、それにタイトルが『工大生のメモ帳』? ふざけてるの? 頭おかしいよ……まったくなってないね」

ブログ主は悲しくなりました。

「ところで、あなたはどんなブログを書いているのですか?」

それほど言うからには彼もブログをやっているだろうと思ったのです。しかし、

「いや、これから始めようとしてるんだ!」

 

「城壁の話」

国を高い城壁で囲う理由って何でしょうね。この世界には巨人でもいるのでしょうか。まぁ、「迷惑な国」みたいな国もいますからね……。

 

「記録の国」

『工大生のメモ帳』というブログに中毒性があり危険だという噂がまことしやかに語られております。一度このブログを読んでしまった暁には、日夜このブログのことしか考えられなくなり日常に支障を来してしまうようです。恐ろしい話です。

しかし、ちょっと待って下さい。本当にそんなことがあり得るのでしょうか。たかだかライトノベルの感想を読んだ程度で精神が壊れるなんて理解できません。

……さて、そんな噂を払拭するために一つ調査をしたいと考えます。まず一万人ほどの読者を用意。その読者全員に毎日ブログを読んで貰い、気が狂うかどうかを監視するのです。そうすれば噂が嘘だということが証明されます。

本当は日本人全員にブログを読んで貰う全数調査を行いたいのですが、監視の手が足りなくなるから仕方ありませんね。

 

「いい人達の夕べ」

×××(差別用語であるため伏せ字)、〇〇〇〇(侮蔑語であるため伏せ字)、△△△(卑猥語であるため伏せ字)……あ、すいません。手が滑ってしまいました。面と向かって話すときは×××(差別用語であるため伏せ字)も〇〇〇〇(侮蔑語であるため伏せ字)も△△△(卑猥語であるため伏せ字)口走ったことないんですけどね。

いやぁ、本当にすいません。リアルでは低姿勢で礼儀正しい男なのです。

まったく、全てはブログが悪い。

 

「作家の国」

今回は国の話というよりは、国を巡りながら本を売り大金を稼ぐ旅人の話です。色々な国を巡っているからこそ、作家として物語を作り出すだけのネタは無限にあるのでは? とお思いの方、多いかもしれません。

しかし、作家として物語を作るというのはゼロからイチを生み出す苦難の作業。そう簡単にせっせとできることではありません。

それを国ごとのニーズに合わせた物語を生み出し続ける本作の旅人は天才でしょう。そんな天才とキノが淡々と会話するだけの話でした。

 

「電波の国」

本作を読んでいて『自殺のための101の方法』が脳裏に浮かびました。エロゲなので検索は自己責任でお願いします。

今回はティーという少女を迎えて三人旅となったシズ様一行の話です。訪れた国で偶然起こった猟奇的殺人事件、その犯人はどうやら森の奥にある電波に毒されてしまったが故、殺人を起こしてしまったようです。

……知ってます? 殺人を犯すのは人なんですよ。アニメでも漫画でも小説でも映画でも虐められた過去でもありません。この世界で一体何人の人間がそれらの娯楽を楽しんでいると思っているのでしょうか。アニメを見ていたことと、犯罪者であることを結ぶことはできません。

 

「日記の国」

このブログも半ば日記のようになってしまいました。書いている記事は投稿したその日に読んだラノベということはなく、基本的に時間があるときに読み溜めして、記事が書けるときに書き溜めして……というようにしているのですが。

本作では小学生によって書かれた同じ日の日記が三つほど登場します。それぞれが学校にやってきた旅人について書かれ、それぞれの視点と感性により全く違った印象を受けるような内容になっています。

まぁ、日記ってそういうものでしょう。同じ体験をした人同士でも、その体験に対する印象というものは全く変わってくるものです。ライトノベルの感想もそうじゃないですか。「このラノベはつまらなかった」という人がいれば、逆に「感動した」という人もいるのです。

それで良いはずです。皆が皆、同じような感想を持っている作品は逆に恐くないですか?

本作ではそのような多様性を真っ向から否定する国の話。ブログ主がこの国で生まれたら、きっと発狂すると思います。

 

「自然保護の国」

過剰な自然保護は自然を滅ぼす。

「自然保護を否定するのか!」とお思いの方、ゆっくりと深呼吸して再度文章を読み直して下さい。 “過剰な” ですよ。

自然というのは我々の想像を遙かに上回るほど上手く出来ています。プログラミングにおけるアルゴリズムは自然に存在するサイクルから着想を得られることもあるのです。例えば蜂がより良い蜂蜜を見つけ出す際のアルゴリズムは、群知能や最適化問題で数多く利用されています。

草木につく虫を駆除し尽くしたり、雑草を枯れ葉剤で枯らしたり……それらも人のエゴで助けたつもりが邪魔している一例でしょう。

守っているというつもりが、自然の良く出来たアルゴリズムを阻害しているかもしれない……一歩引いて考えてみてはいかがでしょうか。

 

「商人の国」

商人といえば『狼と香辛料』を思い浮かべます。本作では妻と共に商人として各地を移動する旅人との短い短い物語です。

旅人は商品を卸して売ることで利益を得る人々のことを指します。利益を得るためには、経験と知恵、策略と運がものをいいます。玄人の商人ともなれば、くぐり抜けてきた修羅場の数はそうとうなものになるはずです。金を稼ぐために、裏のあくどい顔を隠すことだって造作もないでしょう。

キノを欺くくらいお手の物。巡らす考えの方向性が違うのです。一方は生きるため、もう一方は金のため……命よりも金が大事というのは一体誰の言葉だったでしょうか。

 

「殺す国」

キノ達の師匠と男の話。今回訪れた国は、唐突に送られた宣戦布告により戦争を行うようです。銃器はあるものの、他国との戦争は初めての経験であり、慌てふためく国民達。そんな彼らの前に現れた最強の軍師……師匠は後で貰えるであろう報酬を目当てに知略を巡らせ、効率よく人を殺し戦争に勝つための手段を授け、(最悪の場合、国外に逃げやすいように)前線へと立つのでした。

そして攻め込んできた軍勢は、軍勢と呼べないほど貧相なものでした。なにせ武器を何一つ持っていない、身を守る防具もない。ただの一般市民――大人や子供も含め――ただ突っ込んでくるだけなのです。適当に撃てば誰かに当たり、血しぶき上げて死んでいく……戦争? いえ、これは一方的な殺戮です。一体、どちらが攻められていたのでしょう。残された惨状は見るも無惨なありさまで、国民達は首を傾げます。

「なぜ無策に突っ込んできたのだろう?」

と。皆さんには分かりますでしょうか。

 

「続・戦車の話」

第六巻(キノの旅Ⅵ 感想 - 工大生のメモ帳)にて絶対に殺すことができない戦車――つまり自分を探し続ける戦車の話がありました。これはその続きです……それにしても自分が書いた感想読んでも全く分かりませんね……ちょっとは反省しないと。

戦車は機械の整備も何でもござれな子供二人と出会います。二人は戦車を整備し、中にあった死体を取り出して埋葬……これまで命じられた相手を探し続けてきた戦車に訪れた一つの平穏。

今回はそんな戦車にとっての一つの結末が描かれています。どう終わらせるのか、気になった方は必読でしょう。

 

「昔の話」

シズ様と犬と少女が三つの国を巡った際の話。一つは「男が欲しい国」、もう一つは「少女が欲しい国」、最後は「犬が欲しい国」……それぞれの国に対するシズ様一行の反応が可愛らしい……ティーとか特に。ほっこりする話でした。

 

「説得力Ⅱ」

こちら第三巻(キノの旅Ⅲ 感想 - 工大生のメモ帳)の「説得力」の続きです。前回はキノ達が大暴れしたことにより人生を変えられた男の話でした。今回は男に特訓を付けて貰うキノの話です。

いやぁ、説得力ありまくりでした。これまでキノが数多くの修羅場を乗り越えて来れたのは、全てこの特訓があったからこそなんですね。自分の身で体験する痛みは説得力があり、今後生きていく上での血となり肉となるのでしょう。

 

「悲しみの中で」

悲しい国の話です。一言で説明すると同調圧力の話でしょうか。生きていて何かしらの団体に所属した際には、どこだろうと同調圧力というものが存在するはずです。その圧力から抜け出そうとしたものに生きる場所なぞないのです。悲しいなぁ……日本は良い国ですよ。

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