工大生のメモ帳

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キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

平和を願う気持ちは同じ

情報

作者:細音啓

イラスト:猫鍋蒼

ざっくりあらすじ

高度な科学力と強大な軍事力を持つ”帝国”が鍛え上げた切り札――黒鋼の後継イスカ、『星霊』という未解析エネルギーを操って超常の力を引き起こす”皇庁”にて生まれた最高位の魔女――氷禍の魔女アリス。争う二国、それぞれの最終兵器が相まみえた。

感想などなど

恋に国境など存在しない。国同士が勝手に始めた戦争で、引き裂かれた恋はこの世界に一体いくつあることだろう。そして、そんな恋愛を題材とした作品というのも、この世には数多くある。

ブログ主も脳裏に複数の作品が思い浮かぶ。そして、そういった作品は締め方が難しいということも同時に理解する。戦争によって引き裂かれた恋、それが叶うということは平和になったということも同時に意味してしまうことが多いからだ。

恋を成就させるためには、戦争を終わらせなければいけない――戦場での恋という物語が説得力を持つためには、どうしても達成しなければいけない命題だと、ブログ主的には思うのだ。

 

しかし戦争を止めるということは簡単ではない。それ相応の権力か、それに匹敵する何某かを持っていなければならないことは、想像に難くないであろう。

 

――かつて高度な科学技術で世界の覇権を握った帝国という国があった。

帝国は地下深くで『星霊』という不思議なエネルギーを発見した。詳細については分からないことが多かった。しかし、ただ一つ確かなこととして、そのエネルギーは人間に憑依し、憑依された者は不気味な痣が体にでき、魔法のような力を扱えるようになるのだという。

そうした『星霊』者たちを帝国は迫害した。それに反旗を翻し、『星霊』をその身に宿した者だけが住む国”ネビュリス皇庁”を建国、そこから百年に渡る戦争が、帝国と皇庁との間で続いている。

互いに戦力は拮抗しているようだった。

そのパワーバランスの一端を担っているのが、”帝国”側が鍛え上げた切り札――黒鋼の後継イスカと、”皇庁”にて生まれた最高位の魔女――氷禍の魔女アリスである。戦いにおける実力に関しては、戦況をたった一人で変えてしまうような影響力を有していても、国内における立場は弱いというところまで似ている。

そんな二人の視点を交互に繰り返すことで本作は展開していき、それぞれが心に思い描く平和は同じであることまで次第に分かってくる。冒頭にて、似た者同士の二人が戦場で出会い、互いの実力を認め合い、再び相まみえることになる未来を予想する。

まぁ、二人が次に出会うのは戦場ではないのだが。

 

この作品には中立国という便利な設定がある。そこでは戦うことを禁じられており、帝国の者も、皇庁の者も入り乱れる空間というのは、戦場とは正反対の平和な空気が流れている。

戦場で敵同士だった二人は、そんな中立国においてはただの男女。趣味と嗜好が似通った二人の距離が縮まっていくのは必然なのである。たまたま見に行った演劇が被り、たまたま昼飯を食いに行ったパスタ屋が被り、たまたま行った美術展が被り……あぁ、もうこれは運命ですね。神が付き合えって言ってますわ。

その辺り、二人の距離が縮まっていく過程だけみれば、ファンタジー世界のラブコメであった。

しかし国に戻れば、戦争の準備が行われている。作戦会議に、武器の補充に補填に訓練……急に現実に引き戻されたような感覚に襲われる。そうだ、さっきまでいちゃいちゃしてたけど、彼・彼女はいずれ殺さなくてはならない相手だったのだ。

二人は心に抱くその思いに決着を付けなければいけなかった。そこで始まるまさかのバトル。二人の手に世界の命運が託された。

結局、こういう形でしか二人は思いを表せないのかもしれない。最強格の二人にとって、思いを伝える方法はこれが最善だったのかもしれない。いつかは言葉で語り合える未来が来ることを、読者は願うことしかできないのである。

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