工大生のメモ帳

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キーリⅤ はじまりの白日の庭(上) 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻
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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

大切なものを探す旅に出た

情報

作者:壁井ユカコ

イラスト:田上俊介

ざっくりあらすじ

人を探すために一人、キーリを置いて旅に出たハーヴェイ。ベアトリクスと兵長とともに東の町で過ごしす一年半という長い間、ハーヴェイから何一つ連絡もなく、キーリは十六歳になった。

感想などなど

前回(キーリⅣ 長い夜は深淵のほとりで 感想)は、離ればなれになっていたキーリとハーヴェイが再開しました。互いに不器用すぎます。何とか幸せになってもらいたいものです。

しかし、ハーヴェイの不死身となっている理由である核が壊れてしまった様子。キーリには秘密にしているようですが、体の修復が遅くなっているため、気付かれるのは時間の問題でしょう。

……そんな秘密を抱えたハーヴェイとついて回るキーリの二人はベアトリクスを探しに、不死人が現れたという噂のあるウエスタベリにやって来ました。そこではハーヴェイの顔なじみが経営するサーカス集団がおり、そこで居候する形で生活していました。

霊の見えるキーリと不死人(?)のハーヴェイ、ウエスタベリにいると噂されている不死人……普通の生活が送れるはずもなく……。

 

最初にも書きましたが、ハーヴェイの ”核” は壊れています。修復する手段は分かりません。かすり傷ですら普通の人と同じように血がにじみ、一晩眠ってもまだ跡が残っているほどに、彼の不死人としての能力はほぼないといって良いでしょう(実際は怪我した箇所に意識を集中させれば怪我を修復できる模様)。

核を修復させる方法は当然分かりません。ハーヴェイ自身なりたくて、こんな体になりたくてなったわけではないでしょうし。技術を持っているであろう教会に行ったところで捕まって核を奪われ、殺されることは目に見えています。

そんなとても大事なことを、ハーヴェイはキーリに話していません。

いや、心配させたくないという意見も分からなくもないです。言ったところで解決しないというのも、まぁ、間違っていないです。しかし、そこには一切彼女の意見が反映されていません。まず間違いなく、彼女は隠し事なんて望んでいません。ただでさえ、彼の相談なしの行動に振り回されてきたのですから。

……それはお互い様か。

そんな可愛い嘘もすぐ……とは言いませんがバレます。理由はこれまでを読んできたならば察しがつくのではないでしょうか。

「まぁ、ハーヴェイが何か無理したんだろうな」

「ハーヴェイ嘘下手だから……」

などなど。まぁ、ほぼほぼお察しの通り……と言いたいところですが、今回は色々な意味で変化球でした。まさかの予想外の人物の登場に

 

これまで何人か不死人が登場しました。一巻でハーヴェイを売ろうとした男だったり、ベアトリクスだったり。前回で登場した失敗作も含めれば相当な数でしょう。

そして今回も登場します。それと同時に不死人の作り方も判明しました。今までもざっくりと説明がなくもない、といった感じでしたが。

不死人が何から作られるか?

答えは単純明快。人の死体と核の二つ。戦場で毎日供給される死体とそこらに溢れていたエネルギーを使った核というお手軽素材で簡単量産! だからこそ戦争では大量兵器として猛威を振るったのです。

つまりはハーヴェイもベアトリクスも一度は死んだ人……だからこそ生まれというものは存在はしても記憶にはありません。例えとしては悪いですが、記憶を引き継がない転生のようなものです。

知りたくても知ることのできない自分の出生。

しかし、もし知ることのできる方法があるとすれば……?

 

どうにも本作の物語が語られていないように思います。ということで書いていきたいと思うのですが、上巻ということでどうにも書きにくいということを、どうかご了承下さい。

今回はキーリと同様に霊の見える子供が登場します。その子が「〇〇がいる!」と発言しても聞いてくれる大人はいません。「きっと気を引きたいんだな」という大人達。恥ずかしながら自分もきっとそう思うことでしょう。

しかし、キーリやハーヴェイだけは違います。キーリは自分の過去とどうしても重ねてしまいます。友人は一人もできず、ただ孤独に生き続けたキーリが何とか手を差し伸べようとします。

そして世の中の悪意や悪い霊に巻き込まれていくわけですが、誰一人としてキーリを攻められる人がいるでしょうか? 緊迫した空気張り詰めた物語でした。

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