工大生のメモ帳

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キーリⅥ はじまりの白日の庭(下) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

大切なものを探す旅に出た

情報

作者:壁井ユカコ

イラスト:田上俊介

ざっくりあらすじ

キーリは街の片隅で魂と分離して目を覚まさない。兵長に攻められつつ、責任を感じていたハーヴェイは、街へと繰り出した。

感想などなど

前回、階段から転げ落ち、幽体離脱によって霊体と身体が分離してしまったキーリ。そんなキーリに関しての責任を感じるハーヴェイ。前編ということで、かなり中途半端な所で終わってしまいました。

〈下〉では霊体化して奇妙な空間に放り出されたキーリの視点と、キーリを捜しに街へ出て何やかんや(後述)で同様に幽体離脱してしまったハーヴェイの視点、計二つが交互に描かれていきます。

では、色々と新事実が判明する第六巻の感想を書いていきましょう。

 

まずはキーリの視点から。霊体化……ということで彼女はかなり奇妙な空間――時間は戦争が本格化する前(不死人が投入される前)を何度も繰り返す奇妙な空間に放り出されます。そこでキーリはハーヴェイことエイフラムに出会うのでした。 

……エイフラムが死ぬ前、つまりは死ぬ前のハーヴェイであり、当たり前ですがキーリのことは知りません。幼い頃の彼は今と変わらず不器用な優しさを持った男の子だったようです。

ここで思い出さなければならないことが一つ。〈不死人〉は死体に核を埋め込み死ぬより前の記憶は引き継がれません。別の人格を埋め込むと言っても決して間違いではないでしょう。しかし、エイフラムと不死人のハーヴェイは似ているように思います。

さらにもっと踏み込んで考えてみましょう。

もしも……死ぬ前のハーヴェイと〈不死人〉のハーヴェイが出会ったらどうなるのか?

キーリという現在の霊体が、死ぬ前のハーヴェイと出会い、会話をし、帰りたいと泣きそうになるキーリを励ましている空間ならば、あり得ない話ではありません。事実、ハーヴェイはかなり早い段階で幽体離脱(きっとこの言い方は正しくない)してしまい、キーリのいる空間に来てしまいます。

さて、死んだはずの自分が生きている姿を見て、何を思うのか? その答えは作品を読んで確認して下さい。

 

爆撃されクラスメイトが目の前で死ぬという残酷なループを繰り返す空間で、キーリが苦悩する一方、ハーヴェイは自暴自棄になりながら街を彷徨っていました。やはりキーリに隠し事をして、挙げ句の果てに危険な目に遭わせてしまったことを反省しているのでしょうか。

そんな前の彼に現れたのは、キーリに秘密を教えた〈不死人〉ヨアヒムが現れます。過去に何かあったらしい二人が仲良く雑談を交わすなんてことがあるはずもなく、互いにボロボロの肉体を動かしての殺し合いが始まり、予想外に二人ともが幽体離脱。

キーリと同じ空間に放り出されて、全く協力できない二人の脱出劇が始まります。

 

そんな二人の物語に関わってくるのが、〈上〉で登場した不死人でありながら家族に受け入れられ一緒に生活することになったクリフ。彼が母親に受け入れられるシーンは感慨深いものがありました。

もしかすると不死人も普通に生きていけるかもしれない。

……なんてことはなく。〈不死人〉は死なず、年を取らず、人を殺しまくった過去があり、教会に追われる存在です。簡単に日常に溶け込めるなんて思ってはいけなかったのです。

彼の希望から絶望への落差と、あまりにも残酷な結末。この作品における〈不死人〉の辿る運命を体現しているように思えてならないのは、自分だけでしょうか?

 

身体だけで残されたキーリを守る兵長だったり、キーリを心配するナナ、ハーヴェイが〈不死人〉であることを知っているサーカスの団長など、個性的であり愛せるキャラクター達全員に等しく活躍する場面があります。

新展開の連続に読み応え満点の物語でした。

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