※ネタバレをしないように書いています。
ギャルゲヒロインとの日常
情報
作者:田尾典丈
イラスト:有河サトル
ざっくりあらすじ
『エターナル イノセンス』のヒロイン達と生活していた都筑武紀。全ヒロインを幸せにするという夢のために、バイトを始め、勉強にも人一倍取り組むようになっていた。そんな彼の前に、まさかのゲームにおける主人公・真田正樹が現れて……。
感想などなど
主人公に選ばれなかったヒロインのその後は、正直あまり見たくない。幸せな人生を歩んでくれることを願うだけだ。だがそれは、あくまでプレイヤーの視点から見たから出てくる考え方であって、そのゲームの中を生きる主人公にとっては、選ばなかったヒロインのその後の幸せを願おうとするのは珍しいのではないだろうか。
というか主人公にとって、複数のヒロインがいて、その中から誰を選んで攻略しようという意思はないだろう。やはりそれもプレイヤーだからこその考え方だと思えてならない。
誰かに好かれて、そのことに対して罪悪感を抱くというのも、主人公としては異端と言わざるを得ない。本作「ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!」で主人公を担う都筑武紀はそういう男だ。
そんな彼の前に、ある意味で最強のライバルが現れた。あらすじでも示した通り、『エターナル イノセンス』の主人公・真田正樹である。
第三巻までの激闘を経て、全ヒロインを幸せにするという大きな目的ができた。そのために勉強に打ち込み(夏姉に教育してもらい)、バイトにも打ち込み(夏姉の大学資金や三人で暮らし続ける生活費を稼ぐため)かなり努力している様を第四巻では確認することができる。
第一巻の前半では何一つ行動できなかった男が、経験を経て成長しているんだな、となんだか感慨深い気持ちとなる。もう立派な主人公になってしまって……と感想記事で書いたことも記憶に新しい。
そんな彼の脳裏には、ゲームにおける主人公・真田正樹が一つの目標だった。第一巻では幾度となく、自分と正樹を比べていた。「ここで主人公なら――」などということを考えていた。
だがゲームの主人公が辿るにおいて、ハーレムエンドなるものはなかった。つまりゲームの主人公を越えなければならない。そのために努力する道を選んだはずだ。
だが、どうだろう。ゲームの主人公を前にすると、どこか気後れしてしまうようだ。そこにある感情は罪悪感か、はたまたもっと別の感情か。
なぜゲームの主人公がいきなり現れたのか? その原因究明はとりあえずおいておこう。さしあたっての問題は、ヒロイン達が武紀ではなく正樹のことを好きになり、幼馴染や家族の設定も原作準拠に戻っていることだった。
さらに。
治っていたはずの咲の病状が、前の状態に戻ってしまっている。つまり再び骨髄を移植しなければ……彼女は死ぬ。まるで主人公を変えてゲームをリセットしたかのような状況だった。
もっと別の言い方をするならば、第一巻にて武紀が置かれた状況に、ゲーム本来の主人公が挑んでいる。するとどうだろう。武紀の思いを裏切るかのように、ヒロイン達の状況はただただ悪化の一途を辿っていた。
ただ一人、ゲームの主人公は咲だけを愛し、彼女だけを救おうとして……。
あぁ、そうか。彼は彼女を選んだのだ。そして残されたヒロイン達の状況を、読者と武紀は見させられているのだ。
全員を救おうとする武紀と、ただ一人を愛した正樹。どちらが正しいということはない。ただ言えるのは、武紀は正樹を越えなければならない、その一点に尽きる。第四巻はそのための闘いであった。