工大生のメモ帳

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コップクラフト3 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

二つの世界と二つの正義

情報

作者:賀東招二

イラスト:村田蓮爾

ざっくりあらすじ 

異世界美少女剣士ティラナ・エクセディリカは、とある女子生徒の全裸死体が発見された事件を追って、被害者が通っていたとされるシャーウッド高校への潜入捜査へとかり出された。

感想などなど

異世界と現代社会の二つの世界が入り乱れるポリスアクションも第三弾へと突入。今回の事件はかなりキツい内容です。

被害者はとあるお金持ち高校に通う女子高生(16歳)。死因は急性薬物中毒、多数の男性との性交渉の末、全裸で放置されて翌朝に発見された。この犯罪のおぞましさと、下劣さが分かって貰えるだろうか。

そんな下劣な事件における問題もとい焦点は二つある。一つずつ整理していこう。

まず一つ目は『被害者の父親がセマーニ人(異世界人)である』ということだ。しかもただのセマーニ人ではない。『新グラバーニ教会』の理事長(めっちゃ権力を持っている人という理解で問題ない)であり、セマーニ人の地位向上のために活動する活動家でもあったのだ。

そんな理事長の娘が『薬物中毒』となり『多数の男性と性交渉』の末に死亡した。

さて、下世話な人々は一体どんな想像をするだろうか?

もしや自分から進んで薬物を摂取し、多数の男性と肉体関係を結んだのでは? ……そんな想像してしまうのではないだろうか。

「その想像は性格が悪すぎる?」いや、否定はできないはずだ。噂が一度でも立とうものなら、それは瞬く間に広がり、最悪のエピソードを元に想像を広げていくことだろう。噂が真実かのように振る舞うことは、何も珍しいことではないのだ。

父親は活動家であり権力者ということもあり、少なからず恨みを買っていることもあった。そんな彼にとって、小さなことであれどスキャンダルは命取りとなる。『娘が薬物に溺れ、多数の男性と肉体関係を結んでいた』なんて、マスゴミが喜びそうなスキャンダルではないだろうか。

そんな最悪の事態を避けるため、被害者の父親は操作に協力せず、自身の娘が被害者となったという情報を徹底的に世間から隠そうとする。それも全て『自身が築き上げた権力』と『セマーニ人の地位向上のための下積み』を守るため。そんな彼が取る行動は、作品を読む上で見逃せない点と言えよう。

 

二つ目は『薬物』である。『薬物』を使うことは当然だが犯罪であり、常に警察が目を光らせている。そんな『薬物』を被害者はどのようにして入手したのだろうか。

その入手ルートこそが、今回の事件の犯人を追い詰める上での一つのとっかかりとなると警察は判断する。そこで辺りを付けたのが、被害者の通う高校だった。

高校にて高校生に薬物を売買させる……まず間違いなく疑われにくい場所であり、最悪の場合に切り捨てるのも容易。相手は背伸びしたがりで、世間を知らない子供ということもあり簡単に買ってくれる。お金持ちの高校なので生徒達には金銭的余裕もある。

……あれ? もしかして高校って麻薬売買するために存在する?

という冗談はさておき。

薬物の売買ルートを見つけ出すため、ティラナ・エクセディリカに(無理矢理)制服を着せて、潜入捜査に送り出すこととなる。

何故ティラナを送り出したのかは……まぁ、ケイ・マトバには無理だろうし(あんな高校生はいないだろう)、他の警察官を鑑みても一番高校生として溶け込めそうだったからである(本人は教師として潜入する気だったようだが)。表紙にもなっているように、無事女子高生として溶け込めているようだ。

そこで捜査官とバレないようにしながら、生徒達の様子を観察し、薬物ルートの尻尾を掴むべく捜査に勤しむティラナ。そこでは学生達の派閥や、ぼっちな学生との出会いが盛りだくさん。何だかんだで学生として楽しく(?)やっている様子が描かれていく訳だが、その裏では怪しい影がうごめいている。

全員が疑わしく見えてくる展開や描写の数々。それらの中で真実をしっかりと見極めることが、今回の事件を解く鍵となっていた。

『誰が薬物を売買していたのか?』

是非ともその点を考えながら読み進めて貰いたい。

 

今回の事件において――これまでもそうだが――『正義』という言葉がポイントとなってくる。

警察官として法に則った正義を執行するケイ・マトバ

騎士道に則りながらも、ケイについて警察としての正義を進もうとするティラナ

セリーヌ人の地位向上のために、これまで奮闘してきた被害者の父

そして、本作では重要な役割を果たしてくれるナイアス・メイベルという少年もまた、彼なりの『正義』を貫こうとする。

彼は被害者の友人であり、ティラナと最初に言葉を交わした高校生であり、ティラナのパンチラをガン見していた少年である。どうやら元セリーヌ人であるらしく、難民としてサンテレサにやって来て養子として貰われらしい。一見すると事件に関わりがあるようでない少年……事件における立ち位置が気になる所だ。

それぞれのキャラクターの信念とも言うべきだろうか、彼らの『正義』がどのような物語を作ってくれるのか、色々と深読みさせられることの多い作品だった。

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