※ネタバレをしないように書いています。
「普通」とは何か?
情報
作者:村田沙耶香
試し読み:コンビニ人間
ざっくりあらすじ
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子は、今日もいつもと同じようにコンビニ店員として社会の歯車として働いている。
感想などなど
「普通」とは何か?
この哲学的な命題について考えたことはあるだろうか。かくいうブログ主は「普通」な生活ができているのだろうかと考えるも、きっとどんなに考えたところで答えはでないだろう。
本作の主人公・古倉恵子は、自分が「普通」ではないと考えた末に結論を出したらしい。その理由は幼少期からの自身と周りの人との価値観や認識のズレを、何度も、何度も、何度も経験したからのようだ。
例えば幼稚園のころ、講演で小鳥が死んでいたことがある。どこかで買われていたと思われる、青い綺麗な小鳥だった。ぐにゃりと首を曲げて目を閉じている小鳥を囲んで、他の子供たちは泣いていた。
古倉恵子は泣いていない。
「どうしたの、恵子? ああ、小鳥さん……? どこから飛んで来たんだろう……かわいそうだね。お墓作ってあげようか」
私の頭を撫でて優しく言った母に、私は、「これ、食べよう」と言った。
彼女にとって死んだ鳥は食べる物でしかなかったのだろう。「死は悲しい」「死んだ鳥は可愛そう」という事象と感情の "当たり前" とされる繋がりもなかったのだ。そして、自分がした言動によって、相手の感情がどう影響されるのかを想像することもできない。
……とまぁ素人考えで、文章から読み取れる古倉恵子が抱えている闇の部分を分析してみた。
少なくともブログ主は、死んでいた小鳥を拾って食べようとは考えないし、その小鳥が人に飼われていたと思われるような綺麗な小鳥だったら、墓の一つくらい作るかもしれない。おそらくこれが、彼女が理解できなかった「普通」の感性なのだろう。
小鳥食べよう事件以降、彼女は母親を驚かせる事件を繰り返した。
小学校に入ったばかりの時、体育の時間、男子が取っ組み合いのけんかをして騒ぎになったことがあった。
「誰か先生読んできて!」
「誰か止めて!」
悲鳴があがり、そうか、止めるのか、と思った私は、そばにあった用具入れをあけ、中にあったスコップを取り出して暴れる男子のところに走っていき、その頭を殴った。
小鳥の一件も、上記喧嘩を止めるための暴行の一件も、一切の悪気がないことが文章から読み取れる。彼女にとっては、そのどれもが最善の選択だと思っているのだ。
喧嘩を止めるためにスコップで殴った……これに対し、「暴力は駄目だよ」という先生の説明を彼女は理解できなかった。この大人たちの描写について、ブログ主は結構考えさせられた。
スコップで殴ることは、おそらく最短で喧嘩を止める手段だっただろう。だが、どうして最善ではないのかについて、誰も明確な言語化ができていない。ただ彼女が「普通」ではないことを問題視し、それを「治す」ためにどうすれば良いかということを考え、その結論を出すことをただただ先延ばした。
その結果、自分で考えて行動することを辞めた。
彼女は普通を演じるためにしたことは、「普通」に生きているとされている人の言動を学習して真似することだった。社会的に上手くやっているように見える妹に教えてもらったり、服装や喋り方は周囲の人を真似して、自分を徹底して隠す。
本作は古倉恵子の一人称視点で、世界が切り取られて描写されるが、そこに大きな違和感は不思議とない。彼女の思考は理屈が破綻しておらず、彼女の考える普通が存在する。
その普通は自分とやはりズレているが、どこか共感できる部分もある。例えば結婚の必要性を感じない部分は、理解できる人もいるのではないだろうか。結婚したくないと言っている人は、きっと現代社会においてはそう珍しくないように思う。
そんなコンビニバイトとして働いている彼女の前に、婚活目的の男・白羽がやってきた。
結婚の必要性を理解できない彼女だが、結婚をすることが普通だということを学習していた頃合い。彼は異様なまでに結婚をするということに執着していた。それが行き過ぎて女性客にストーカー行為をして辞めさせられた。
きっと彼も普通には分類されない。
みんな普通になろうと足掻いているのだ。
人間は社会的な生き物だ。
死んでしまった可哀そうな小鳥がいたら墓を作ってあげようと思うのは、人間社会の長い歴史が作り出した価値観であるように思う。その価値観をいつの間にか取り込んでいたからこそ、そういう発想ができる。
しかし、鳥を飼った人が一人もいない、鳥=食べ物でしかない社会であれば、きっと死んでしまった綺麗な鳥も食べようと思うのではないだろうか?
そういった社会が歴史と共に形作った目に見えない "当たり前" に迎合できないものは、「普通」から外れた存在というレッテルを貼られる。そんな普通から外れてしまった彼女は、コンビニのバイト店員という役割が、不思議とバッチリ嵌ったのだ。
読めば読むほど結論のでない普通を考えさせれられる。そういう本だった。