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【漫画】ザ・ファブル(22) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

プロやからな――

情報

作者:南勝久

試し読み:ザ・ファブル (22)

ざっくりあらすじ

アザミ、ユーカリ、山岡の三人を相手にして戦うことになった最高傑作・佐藤。その勝負の行方は……⁉ ついに全てに決着がつく。

感想などなど

ついに佐藤に山岡殺害の命が下った。さすがにボスの目に余るくらい暴れすぎた、そして、殺すように依頼されたユーカリが山岡を殺さなかった。佐藤に命が下るには十分すぎるくらい、状況は整っている。

そうしていつもの倉庫で、アザミ、ユーカリ、山岡の三人を相手にした戦いが始める。

……正直なところ、佐藤が苦戦する様をもしかしたら見られるかもしれないと思った。だがそれは甘かった。この勝負、全くもって勝負になっていない。互角ですらない圧倒的力の差をまざまざと見せつけられる。

何度も言うようだが、アザミとユーカリ、そして山岡の三人が徒党を組んで佐藤を殺しに来る。そこに躊躇いはないし、サイレンサー付きの銃声の音がいくつも鳴った。それらは当たらず、むしろ利用するかのように佐藤は三人を翻弄した。

その見事な技術は是非とも読んで確認して欲しい。

最後には殺し屋らしからぬ命乞い……「山岡は親であり戦友だ――」「俺達には特別な人なんだ――‼」「おまえだってわかるだろ――」というアザミ、ユーカリの言葉が悲痛である。

もう動けない身体で、何度も山岡を殺さないでくれと懇願する。もう佐藤の中に残された良心だけが頼りで、事実、佐藤は引き金を引くのを躊躇っているように見える。そんな均衡状態を破ったのは、意外な人物だった――。

 

この第二十二巻を読み終えて思ったことは、第一に『綺麗に終わったな』という感慨深さであった。これまで多くの命を奪ってきた殺し屋――世間的には悪として断罪されるべき存在なのだろう。

佐藤のこれからの生き方を決める上で、今回の一連の事件は重要な意味を持つ。

これまで躊躇いなんて持つことのなかった最高傑作が、引き金を引くのを躊躇った。その脳裏に浮かぶのは、これまで出会った友達の顔。非日常の裏側にどっぷり浸かった彼らが進むべき道を、佐藤は示したのではないだろうか。

そんな佐藤の生き方だけではない。娘さんを人質にされていた闇商人のマツも、最終的には親である山岡を失ったアザミもユーカリも、組を引っ張っていかなければならない海老原組長も、佐藤の裏の顔を知ってしまったミサキも、それぞれが今回の事件が解決したことで、次のステップへと進んでいく。

これまで多くの人が死んで、多くの血が流れた。その上でこんな綺麗な結末を拝めるとは思ってもいなかった。

完璧なハッピーエンドだった。

 

第一巻を読み返してみると、当たり前だが佐藤の印象が大分変わっている。躊躇いなく引き金を引き、複数人を殺害。ボスに6年で71人殺していると指摘されるまで、人数を意識したこともない。会話の中での舌打ちもかなり覆い。

大阪へと向かう車の中で、ヨウコは自分の生い立ちを語っている。家が全焼、父母が死んで、ボスに引き取られたのだ。この全焼事件を起こしたのが山岡で、その復習を彼女が企てていたことが思い出された。

つい条件反射で一般人(車上荒らし)をボコボコにしてしまうような人間が、日常にすっかり溶け込めるようになっているとは、環境の変化とは怖いものである。そんな彼らを待つ組長と若頭もピリピリとしている。すっかり佐藤の仲間となっている海老原組長が、佐藤に警戒心を抱いているのは懐かしさも相まって面白い。

改めて面白い漫画であった。

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