※ネタバレをしないように書いています。
鏡に答えはない
情報
作者:田中一行
試し読み:ジャンケットバンク 19
ざっくりあらすじ
ゲーム『デビルズマイン・ツインズ』が始まり、最初は優位にゲームを進めていた真経津だったが、徐々に三角誉に理解されていくことで追い込まれていく。
感想などなど
他人の感情を完全に理解したという傲慢な考えを抱いたことはない。いつも遊びに行く友達も、血の繋がった家族でさえ、彼・彼女らのことを理解出来るわけがないという、ある種の諦めがある。
しかし、ある程度の理解がなければ、社会に属する人間であることを自認している私達は生きていけないと自覚もしている。理解することの重要性と、理解出来ないという諦めの調整は漠然としている。
この調整に失敗した人間が三角誉だと理解した。
わかり合いたいんだ 皆で幸せに暮らすために
彼は他者を理解できないという現状に甘んじず、完全に理解するという目的のために、人間の行動や言動を完全に模倣するという力業を遂行できるだけの能力があってしまった。これは悲劇だ。
言動を真似 習慣を真似 性質を真似ると そこから逆算して感情や思考が理解できる
できるわけがない、というのが自分としての直感である。しかし、その無理を通した結果生まれたのが、連続○人鬼である。それくらいのことをできる人間でなければ、化物にはなれない。
そんな三角誉との戦いは常軌を逸したものとなる。第十九巻を見ていこう。
ゲーム『デビルズマイン・ツインズ』は20ラウンドに30個の岩を削岩することが求められる。単純計算、1ラウンドに削岩できる石は1個なので足りないこととなる。
そのため、ある程度の協力が必要になる……らしい。一気に五個掘り進めると大爆発、二十分間放置していれば中毒死……といったトラップが多いので、そんな単純な話ではないのだろうが、その敵同士の協力が最初は行われる。
互いにブランクを選んだ場合は、互いに1個の岩を削岩してやり直し。これが繰り返される。さらりと書いているが、相手の置いたカードの場所は見えていない。互いにブランクを指定し合って、やり直しを繰り返させるという芸当は、当たり前ではない。
しかし、ここはワンヘッド。それが当たり前の領域である。そんな均衡を崩したのは三角誉だった。
このゲームにおける最善の手というのは下記の通り。
- トレジャーサイドにおける最善手は、相手に「ブランク」を取得させて相手に洗浄させる機会や削岩を増やす機会を失わせる
- プレイヤーサイドにおける最善手は、「先人のツルハシ」と「無気力瓶」を取得して自分だけ削岩を2個進めて相手に削岩させないようにする(実質的に3個分の有利)。もしくは「先人のツルハシ」と「大食らいの人魂」を取得して、削岩を2個進めて洗浄も行う。
5回連続の削岩によって大爆発が起きることを考えると、3回連続削岩したタイミングで「大食らいの人魂」を取得することが理想である。なにせ3回削岩したタイミングで、うっかり「先人のツルハシ」を取得してしまった場合、もう1枚のカード選択で「大食らいの人魂」を取得できなければ爆発するからだ。
つまりは「大食らいの人魂」を選ばせないようにできれば勝てる。
これは極論であるが、そんなことを遂行できてしまいそうな凄みが三角誉にはある。その凄みの説得力として、三角誉のバックについている74人の思考がコマを埋め尽くす。
そんな三角誉に対し、真経津がとった作戦もまた極論だった。
だからボクは 君の友達を読む
三角誉という天才が模倣した凡人に勝てばいいのだ。
真経津晨は三角誉を確実に追い込んでいく。しかし、それに伴って三角誉が強くなっていく。自らに課していた重りを外していくように、二人の間に拮抗して見えた実力差が、大きく開いていく。
言うまでも無く三角誉が、真経津晨を理解することで。
真経津晨の行動が完全にトレースされた時、真経津晨が完全に理解された時。それは思いのほか早く来た。
ここまで丁寧に描かれてきた他人を理解するための模倣と、それによって構築された三角誉の中にある世界。一人きりじゃない世界を抱えて戦う彼の異様さと、勝てる未来が見えないくらいに徹底した読みの精度。
御手洗君と同様に、勝てる筋がなくなっていく第十九巻。ここから勝ち目があるのかと、絶望に打ちひしがれる内容だった。
