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【漫画】ジャンケットバンク9 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

鏡に答えはない

情報

作者:田中一行

試し読み:ジャンケットバンク 9

ざっくりあらすじ

ゲームの仕掛けを知っていた天童は圧倒的有利な状況でゲームを進めているが……? 真経津 VS 天童のゲーム『ブルー・テンパランス』ついに決着。

感想などなど

神を自称する天童真弓と、天才ギャンブラー・真経津晨とのゲーム『ブルー・テンバランス』は佳境である。とはいえ天童により選択されるカードが操作されていることで、どちらも死なないギリギリのラインで戦況は維持され続けている。

このゲームの肝は、天童が聞かされたゲームの裏ルールだ。そのルールの内容は、『二人の天秤の重りの差が100を超えた時、重かった方に天秤の蓋でのしかかっての窒息死』というものだ。

そこで天童は、勝つために重りの差が100を超えないように調整しつつ、真経津のいる部屋を加圧状態を維持しなぶり殺す。あっさりと書いているが、天秤の重りの差が100を超えないように維持するという芸当は、簡単にできることではない。

そもそもカードは3種類ある。そして、それぞれの正位置と逆位置がある。そのカードがどこにどの位置で置かれたかなんて把握しようがないし、相手がどれを選ぶかなんて操作することはできない。

それを天童はなしとげている。でなければ重りの差を調整しつつ、真経津の室内を加圧し続けるなんて芸当はできない。もしもそれが出来るというならば、天童は負けようがない。

もはや彼の勝ちは確定した。

 

さて、結論から言うと『ゲームが失敗作だった』ということなのではないだろうか。ゲーム制作者達も、天童 VS 真経津の試合は観戦しており、「クソゲーじゃね」と発言している。

まぁ、状況だけみればそう思われても仕方がない。40ラウンド近く、天秤の傾きが変わらないシーンが続けば、まるで静止画のように動きがないゲームとなってしまう。ギャンブラー同士の戦いをエンタメとして提供する彼らにとって、このゲームは失敗にカテゴライズされてもおかしくない。

ただこの状況が形作られたのは、単純に天童と真経津の実力差が大きすぎたからということ話ではない。御手洗が天童に裏のルールを教えたという普通はあり得ない状況、真経津のギャンブラーとしての勘の鋭さ、そしてゲームの仕様……様々な要因が折り重なって作り出された特異なバグだ。

ギャンブラーという商品の特質性をあぶり出すという意味で、ゲーム『ブルー・テンパランス』は良いゲームだったと思う。死に様に関しては一番グロかったと思う。

 

後半になると行員同士の戦争が勃発していた。ギャンブラーと同様、行員達も狂気に取り憑かれ、キャリアという貨幣を巡ってゲームを激化させていた。そのために使われたのが、御手洗という行員であった。

御手洗は地下に落ちても這い上がった執念の行員である。ただ実力があるかといわれれば疑問は残る。数字に強い程度では行員同士の戦いで勝てるという訳ではない。そこまで甘くないからこそ、行員で残っている者達は頭がおかしいのだ。

ただしそんな若く熱量がある御手洗という行員は、出資者である金持ち達の人気者となった。彼を客引きパンダとして、またゲームの勝敗を操作することで、伊藤吉兆は好きなだけキャリアを生み出して振り分けることができる造幣局となった。

これに抗うにはどうすれば良いか。御手洗の目は完全に死んでいる。真経津の死に様を見たいという狂気の目はもう見られないのだろうか。彼の行動を楽しみにしておこう。

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