※ネタバレをしないように書いています。
「呪い」を解く物語
情報
作者:荒木飛呂彦
出版:集英社
ざっくりあらすじ
ついに院長の本体に攻撃を当てることに成功した定助。しかし、ロカカカの実を食べた透龍は、康穂と等価交換をして傷を癒やそうとする。そこに現れた花都。彼女には誰も予想だにしない目的があった! ジョジョ第八部、いよいよ完結。
感想などなど
全ての呪いが解けるとき――第二十七巻の副題である。これは呪いを解く物語であると、第一巻の冒頭で書かれていたことが思い出された。この結末のために、一巻から戦いを繰り広げてきたと思うと、色々と感慨深いものがある。
最初は主人公の名前すら分からない、謎ばかりの状態から始まった。
吉良吉影という名前や、定助という名前など、第四部を思い出させ、第七部で出てきた面々の名前が登場したりと、過去の部との繋がりが出る度に何となく嬉しく感じた。そして同時に、定助という男に対する漠然とした不安があった。
これまでのジョジョシリーズとは一線を画した不穏な雰囲気。そもそも主人公が誰なのか、その謎を追っていくという手探りな展開。敵が誰なのかが分からず、物語の方向性を読者が見失ってしまうことも珍しくなかっただろう。
定助は吉良と除世文の二人が、ロカカカの実で等価交換されたことによって生まれた新たな人間だ。吉良でもないし、除世文でもない。そのような事実が明かされても尚、定助に対する不安は拭えなかった。
結局、この物語における定助の立ち位置が分からなかったのだ。
主人公ではあるのだろう。スタンド「ソフト&ウェット」の万能さは主人公に相応しいとは思う。それでも、だからこそ、彼はこれから何のために生き、戦いを繰り広げていくことになるのか。
そんな彼が戦う意味を見出したのは、23巻にて、ホリーさんに救われたことが契機だと思う。ボロボロの身体を引きずって、息子の吉良のために、ロカカカの実の研究成果が置かれた実験室を教え、傷を癒やしてくれた彼女。たとえ記憶はなかったとしても、疑いようもない。ホリーさんは母親なのだ。
必ず助ける、そう言って涙を流した定助。
やっと……やっと、定助という男の感情を垣間見ることができたような気がした。そこから院長を追い詰める戦いが始まって、冊数としては4巻以上の長さを経て、定助は主人公らしい行動をしてくれた。
康穂の協力もあって、厄災を飛び越えて、回転するシャボン玉を透龍の身体を貫通させた。普通ならば死んでいるが、彼は岩人間であり、すぐ近くにはロカカカの実があった。
定助はここにはいない。透龍にトドメを刺すとすれば、それは東方家にいる誰かということになる。
その人間は――。
このブログはネタバレをしないということになっている。透龍との戦いはおおよろ半分くらいで終わり、残りは東方家の歴史のようなものが語られ、エピローグという構成になっている。
ジョジョシリーズのラスボスは、無様な声を上げて死んでいくことが多い(というか全員そうか?)。透龍も言わずもがな、無様に死んでくれた。そんな彼に負傷を負わせたのは定助であるが、トドメを刺したのは何と、東方花都である。
彼女のスタンドは「スペース・トラッキング」、能力は「カードとカードの間の空間に、物を挟む事でその対象を何もない空間に隠す事ができる」というもので、どちらかといえば戦闘には向かないように思われた。しかし、初登場時から「殺人罪」で投獄されていたという過去、裏側で色々と動いている様子から、ひっそりとラスボス説まで提唱されていた人物である。
そんな彼女の目的が、この二十七巻で明かされていく。その目的を、ネタバレをしないラインを越えずに一言で説明するならば『呪いを解く』という言葉に集約される。様々な厄災にも負けず、意思を曲げずにいた彼女の覚悟と最期は、長い長い戦いの幕引きをするに相応しいものであった。
東方家の歴史についても語りたいことはたくさんある。一部の主人公、ジョセフ・ジョースターの名前が出てきたり、スージーQの名前が出てきたり、いやはやジョジョという名前は世界が変わっても残り続けるのだなと教えられた。
厄災は誰の身にも降りかかる可能性がある。
その後の状況が良い方に転がるか、そのまま最悪な転落を続けるかは、個人・家族・国家……それぞれの意思や行動によって左右される。厄災を「乗り越える」と考えること自体が良くないのではないか、と作者である荒木飛呂彦さんは語っている。
エピローグでは定助と康穂、東方家のその後が描かれていく。呪いは解かれたとしても、それから先の人生が華やかになるかと言われれば違う。これから先の人生が幸せになるかどうかは、彼・彼女達の行動次第で決まることは言うまでも無い。
終わりの見えない物語が、スッキリとした結末を迎えた。もう一度、全巻を読み返したくなるような漫画であった。