工大生のメモ帳

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ゼロから始める魔法の書 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

『魔法』はまだない

情報

作者:虎走かける

イラスト:しずまよしのり

試し読み:ゼロから始める魔法の書

ざっくりあらすじ

”獣堕ち”と蔑まれる半人半獣の傭兵は、森で『魔法』を使う魔女に出会う。まだ『魔法』が世に広まっていない世界で、『魔法』の使い方をまとめたゼロの書を探しているという彼女の護衛として、彼女の道中について行くこととなった傭兵は、世界の命運を分ける戦いに巻き込まれていく。

感想などなど

『魔法』とは何かという問いに対し、明確な答えが語られる作品は少ない。

我々が科学技術の粋を集めて作られた携帯電話といった精密機械を、その仕組みを知らなくても使えるように、『魔法』の仕組みや歴史などは知る必要がない。科学の進化とは、その過程を知らずとも使えるショートカットを与えてくれるものだと思う。

この世界には、悪魔を召喚といった儀式を通じて呼び寄せ、その力を借りることで行使する『魔術』という技術があった。召喚には面倒な手間や準備が必要で、複雑だったり、大きな力を使いたい場合には、相応の代償を支払う必要があった。

その面倒な代償や手間、準備を省き、簡単な詠唱で力を行使できるようにする技術が、『魔法』と呼ばれるショートカットである。かなり生まれ持った才能に左右されるとはいえ、これまで魔女しか使うことのできなかった『魔術』を、詠唱という簡単な手順で模倣できるようになったのだ。

遠くの人に情報を伝えようとした時に、手紙といったアナログな手段を使うしかなかったところに、電話やメールといった時間差ゼロで情報を伝達する技術が現れたら革命である。

しかも誰でも簡単にという部分が重要だ。

そんな『魔法』が誰でも使えるように、詠唱やその他技術をまとめた魔法の書が、どうやら世に出回った。

それによって世間はどうなったか?

魔法を使える魔女と、魔法を使えぬ人間との戦争が起きた。それはもう泥沼の。

 

もともと『魔術』を使っている人間は、魔女と呼称され、人々から畏怖の視線を向けられていた。『魔術』を行使するために行う儀式の奇妙さが恐怖を駆り立てたのか、人が簡単にはあらがえないような圧倒的な力を振るう様を恐れたのか。おそらく理由としてはその両方だろう。

教会は魔女を断罪し、人々は魔女を遠ざけた。そんな生活を送っていた魔女が、人々に力を向けるのはそう遠くなかったのかもしれない。魔女を追い詰め殺した村が、滅ぼされた事件を皮切りにして、魔女の反抗勢力が力を増していく。

『魔法』は面倒な手間を省いて、力を行使することができる。引き金を引くだけで命を奪う拳銃のように、詠唱するだけで多くの命をあっさりと奪うことができる『魔法』は、子供ですら兵士に変えた。

普通の人々は『魔法』に対抗する術がないのだから、一方的な戦いとなる。ただ人々側につく魔女も現れる。これを泥沼と呼ばずして何と呼ぼうか。

 

そんな『魔法』を広める魔法の書を書いた人物が、主人公である傭兵の前に現れた魔女・ゼロである。彼女は『魔法』の書を、世界を滅ぼすことができるという風に説明しているが、それも嘘ではないことは、これまでの説明から分かっていただけただろう。

ただ『魔法』の書を書いている時の彼女は、そんな未来を想像していなかった。結果として起こった泥沼を目の当たりにし、『魔法』を生み出してしまったことに対する後悔の深さは、作中で何度も描かれている。

その責任を取るために、彼女は『魔法』の書の回収に動き出した。そんな彼女の護衛として、雇われたのが半人半獣の傭兵である。二人の出会いは偶然で、所詮は契約によって結ばれた一時的な関係だった。

そのはずなのに、二人の戦いには、切っても切れない強い絆が見える。強い口調の裏に垣間見える傭兵の優しさ、他人との距離の取り方が不器用なゼロ。二人がいたからこそ、たどり着くことができた結末は、この世界にとって大きな意味を持つ。

読んでいる時は感じないが、とてもスケールの大きい物語であった。

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