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ゼロから始める魔法の書Ⅱ アクディオスの聖女〈上〉 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

『魔法』はまだない

情報

作者:虎走かける

イラスト:しずまよしのり

試し読み:ゼロから始める魔法の書 II ―アクディオスの聖女 〈上〉―

ざっくりあらすじ

魔法の指南書『ゼロの書』を回収するまでは良かったが、まだ複写本があるかもしれない可能性に気付く。魔法の拡散を止めるため、旅を始めた傭兵とゼロは、クレイオン共和国にて、神の奇跡で市民の病を治す聖女の噂を聞く。

感想などなど

魔法の強みは、その仕組みを知らずとも行使できることにある。

我々がパソコンの中身でどのような処理がなされているかを知らずとも、使い方だけを知れば使うことができるように。実際は悪魔との契約やら触媒が必要な魔術を、詠唱という簡略化した形で使えることであり、これによってただの農民が兵士へと早変わりする。

その危険性は第一巻で身にしみて分かった。

十三番が『ゼロの書』に関して懸念していたことは的中し、国家は荒れに荒れた。

魔女を差別し邪険に扱う民に反発し、魔法による攻撃を繰り返す組織を指揮しつつ、国の側について魔女を滅ぼす魔女の役割も同時に演じるという奇策により、魔女を受け入れる国をつくり出そうとした十三番。もう収集がつかないくらいボロボロになった訳だが、それを魔法を封じる魔法によってどうにか押さえ込んだゼロ。

『ゼロの書』も無事に回収し、めでたし、めでたし……という風に簡単に終われば良かった。

どうやら『ゼロの書』は一部複写され、持ち出された形跡があるようだ。まぁ、書物なのだから複写される程度のことは想定すべきであろう。となるとゼロがすべきことは一つ。このような世界を滅ぼしかねない危険な魔法の拡散を、ここで止めなければいけない。

そのために傭兵とゼロは旅をすることになる。

名前を教えてしまうと首の根を捕まれたように絶対服従、逆らうことができなくなるため、名前を教えない傭兵。そんな傭兵の半獣半人の姿を恐れず、むしろ可愛いとすら言ってのけるゼロ。二人の関係性はかなり不思議だ。

性別的には男女の関係である。しかしながらゼロも傭兵も、男女の付き合い方というものに疎い傾向がある。ただでさえ恐れられてまともに人と会話したことがないのではないかと思われる傭兵と、ずっと洞窟にこもって同じ魔女としか言葉を交わさなかったゼロの関係性が、まっとうな経路をたどって侵攻していくなど、少なくともブログ主は期待していない。

複雑で、それでいて遠回りして、それでもゆっくりと関係を進展させていく二人の様子を、にまにましながら見ていこう。

 

さて、魔法の拡散を止めるという分かりやすい目的がある旅が始まった。しかしながら『ゼロの書』の複写を持っている人物を突き止めることは容易ではない。なにせ現状、手がかりが皆無なのだ。

そこでゼロ達は、世界各地を巡りつつ、魔法が原因と考えられるような不思議な噂などを調査していく方針に決まった。魔法を覚えた者は、きっとそれを使い、何か大事を起こす。その形跡を辿ろうという訳だ。

といっても……そう簡単に見つかる訳が……まぁ、見つかるんだよなぁ。

クレイオン共和国という国に、神の奇跡で市民の病を治す聖女がいるという噂を聞きつけた。その噂の出所は、クレイオン共和国で医師をしていたものの、聖女の登場で商売あがったりとなって飛び出してきた医師達である。

医師の仕事をなくしてしまうほどに、病に苦しむ者達を救って回っている聖女――これは『魔法』の匂いがぷんぷんする。となると聖女に会い、『ゼロの書』の痕跡を聞き出すなり調べるなりする必要が出てきた。

どうやらその聖女は聖都アクディオスにいるらしい……じゃあ目的地も決まったし早速向かいますか……と思っていると、聖女が向こう側から現れた。ここまでトントン拍子に物語が進んでいくと、作為的なものを感じてしまうのはブログ主の悪い癖かもしれない。

噂の聖女はリアという名前の美少女で、聖都から遠く離れた港町イデアベルナの領主のご子息が病に罹っているらしく、その治療に向かっている最中、聖都アクディオスに向かおうとしていたゼロ一行とかち合ったという訳だ。

聖女リアは盲目の宣教師と一緒に、山賊に襲われるという危険を冒しながら、遠い国にいる病に伏した人間を助けるために行動していたのだ。

……この話を聞いて、皆さんはどのような感想を抱くだろう。

聖女様の献身的な愛に感動する。

その感想が一般的という気がする。しかしながら少し違う視点で、聖女の行動を見ている者もいた。そもそも聖都にだって病で困っている者は多く居るのではないか? その者達よりも、金をたくさん持っているだろう遠方の街の領主を助けることを優先するというのは、命に順位をつけているということに他ならないのではないか?

どうにも聖女=誰でも分け隔てなく救う優しき女性という印象は、ここで捨て去るべきなのかもしれない。聖女リアの献身的な愛は、演技には見えないにも関わらず、どうにも違和感がつきまとう。

 

聖女リアは金を持たない平民の病を治さない。

金持ちばかり治すため、仕事を失った医師が去って行く聖都。

彼女を魔女ではなく聖女認定する盲目の宣教師。

聖女を悪女と罵る者の出現。

……上巻ということもあり、それら全ての違和感が解決する訳ではない。ただ最初小さかった違和感が、徐々に確かな疑惑へと変わっていく流れは、展開としてよくできている。

ゼロ達は聖女の裏にある闇を暴くことはできるのだろうか? かなり気になるところで終わってしまうため、下巻まで一気読みは必死であることを、最後に書き記しておこう。

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