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ゼロから始める魔法の書Ⅲ アクディオスの聖女〈下〉 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

『魔法』はまだない

情報

作者:虎走かける

イラスト:しずまよしのり

試し読み:ゼロから始める魔法の書 III ―アクディオスの聖女 〈下〉―

ざっくりあらすじ

神の奇跡で市民の病を治す聖女が、実は焼き印を入れた者達に病を移す魔法〈犠牲印〉を使っていたことに気付いてしまった傭兵達一行。しかし聖女一人でこのような芸当ができるはずがない。裏にいる何者かこそが、魔法の書の写本の持ち主だと考えるが……

感想などなど

「ただより怖いものはない」といわれるように、うまい話には裏があると考えるのは弱肉強食の社会で生きていくための知恵である。この作品の世界では、弱者を守ってくれるような司法機関は存在しない。

要は騙された方が悪い。これがこの世界における常識である。

傭兵はこんなことを言っている。「互いの利益が一致している場合は裏切られることもない」「裏切られることは想定して動かなければならない」と。これまで数多くの裏切りにあったのだろうことが、たやすく想像できた。

どんなに善人の顔をしていようとも、発せられる言葉をそのまま鵜呑みにして信じることは、ある種の諦めに近いように思う。その言葉の真意をくみ取るには、考えて考え抜くというプロセスが必要不可欠なのではないだろうか。

聖女リアは本気で病人を救おうとしている。彼女自身、そのように言っている。たとえ遠方であろうとも、そこに困っている病人がいると聞きつければ、迷わず駆けつける。言葉と行動が伴っている辺り、彼女は嘘をついていないように思える。

しかし、聖女が実際に行っていたことはかなりえげつない。

第二巻にて、ゼロ達が見つけたのは焼き印の押された大量の死体。それは『ゼロの書』に記された『怪我や病を、特定の焼き印の押された者に移す魔法』〈犠牲印〉によるものだと分かったのである。

つまり、聖女は魔法で病を治したのではなく、焼き印を押された者に病を移していたということだ。病を移された者は病で苦しみ、多くの者が死んだ。聖女陣営の者達は、いくらかの金を支払い貧乏人達に焼き印を押し、病を移せる者達を増やしていた訳だ。

聖女の噂が広まれば、聖女を頼りにする者達が聖都に集まる。金持ちであれば聖女の力(実際は魔法だが)で病を治し、金を持っていない者であれば焼き印を押す。こうすることで効率的に金を稼ぐことのできるシステムを構築した訳だ。

このシステムの最も厄介な点は、聖女という立場を利用しているということにある。聖女認定された者は、何よりも優先して教会の庇護対象となる。聖女を魔女と呼ぶ者がもしいれば、教会はその者を処刑する。聖女を殺そうとする者がもしいれば、同様に殺される。

後になってゼロのようにシステムに気付いたとしても、それを告発しようとすれば教会を敵に回したことを意味し、教会によって殺されるということになる。教会という強大な後ろ盾を手に入れてしまえば、もうシステムを崩すことはできない。

幸い、まだリアは聖女認定されていない。彼女が聖女か否か、調査するために派遣されている宣教師が、どのような判決を下すか。聖女陣営の者達にとってその判定はとても重要なはずなのだが、第二巻のラストでは傭兵ともろとも、砲台で撃たれている。

さて、黒幕は何を考えているのか。

 

ゼロの目的ははっきりしている。ゼロの書の複写本を見つけ出すこと、魔法によって人々を苦しめる事件を解決すること……となるとすべきことは、黒幕を見つけ出すことが鍵となってくる。

しかしながら聖都に近づくことはもうできない。聖都の人々はゼロ達の顔を見ており警戒を強めているだろう。その上、聖都に立ち入るための唯一の橋は、砲台によって壊されている。

そこで聖女達を襲撃していた盗賊団の協力を取り付けることにした。

この第三巻では盗賊団と協力し、聖都への侵入するために画策することがメインとして描かれる。「どうやって潜入するか?」「そもそも黒幕は誰なのか?」盗賊団の構成メンバーがこれまで聖都で受けてきた仕打ちや、これまで集めてきた情報が集まってくることで、少しずつ物語の核心へと迫っていく。

聖都へ侵入後も見所は尽きない。意外な黒幕に加え、聖女リアの辿る因果応報とでもいうべき運命のいたづらなど。ゼロが黒幕やリアに語る言葉の重みが、この作品の肝なのではないかと思う。

「何もしていないうちから、何もできないとなぜ決める? 必死に何かをなそうとして、初めて “何もできなかった” と悔いることができるのではないか?」

ゼロの書を生み出してしまった罪を背負って生きていくことを誓ったゼロが語るからこそ重みがある。この物語ではたくさんの罪人が出てくる。彼・彼女らのこれから先の生き様を、見たくなるような物語であった。

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