※ネタバレをしないように書いています。
『魔法』はまだない
情報
作者:虎走かける
イラスト:しずまよしのり
ざっくりあらすじ
ゼロの書の写本を世界にばらまいて魔法を広めている謎の組織〈不完全なる数字(セストゥム)〉を追っかけて、ゼロの故郷へと向かうゼロと傭兵。しかしその道中、船が嵐にあい、命からがら辿り着いたのは竜の住まう黒竜島であった。
感想などなど
黒幕は自身が開発した魔法での自殺した。そこまで追い込んだのはゼロ達ではあるのだが、どうにも勝った感じは薄い。最後の最後まで黒幕の思い通りに事は進んだようなものである。
黒幕に利用された聖女リア。彼女が使っていた魔法は奇蹟ではなく、街の人に病気や怪我を移すことで治したようにみせかけているだけに過ぎなかった。本人は自分が起こしているのは奇蹟だと疑っていなかったのが、なんとも言い難い。
そんな彼女に『魔法の書』の一部を託し、罪を背負って生きていくことを誓わせたゼロ。魔法のせいではなく魔法は使うもの次第という考え方のゼロと傭兵らしい、落とし所ではなかろうか。
そんな二人が次に向かった場所はゼロの故郷――のはずだった。
移動手段は船、船の前に現れたのは目的地ではなく竜であった。いずれの物語においても竜というのは最強の力を持っているが、本作における竜も、人々からすれば畏怖の対象である。
そんな竜が住んでいるのがタイトルにも出てきている黒竜島。船が流されてこの島に行き着いてしまったことで、厄介な島の運命に巻き込まれていくことになる。
竜の襲撃により船は壊れ、近くにあった島まで泳いでいくことを余儀なくされたゼロと傭兵。しかしゼロを抱きかかえて泳いだ後、意識を失った傭兵の前に現れたのは、銀髪美少女・ゼロではなく、黒髪美少女の姫であった。
姫曰く、「ゼロは死んだ」。
……まぁ、抜けたところのある希代の天才であるが、そう簡単に死ぬような輩ではない。それを証明するかのように、傭兵に首輪を嵌めて連行する姫の前には、ゼロが現れた。
傭兵を好き勝手されたゼロが怒り狂う様が、読者の皆様方は容易に想像できるのではないだろうか。彼女は魔法を使い、姫に攻撃を仕掛ける。しかし意外にも、姫もまたそれに魔法で応戦しようとした。
だが無意味。その魔法をゼロは却下……却下できるということはゼロが作った魔法を、彼女は使ったということ。即ち、『ゼロの書』がこの島に持ち込まれたということ。
この島には収穫の章が持ち込まれていて、その名が示す通り、畑仕事を楽にするために作られた魔法は、戦争に使われているのだった。
この島に魔法が持ち込まれてからというもの、それはそれは酷い歴史を辿ったようだ。竜がいることで周囲との関係は途絶し、島の中だけで構築されたコミュニティの辿る末路はまるで世界の結末を見ているような気持ちになった。
それにしても。この島に魔法を持ち込んだのは一体どこの誰なのか。
島内で争い、殺し合いを行ってきた彼らが、本当に戦うべきは誰なのか。ゼロ達もまた、その答えを模索し、島の人々と行動を共にしていく。そういう考えさせられる巻であった。