※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
死の恐怖を忘れるなかれ
情報
作者:中村恵里加
イラスト:藤倉和音
ざっくりあらすじ
”怪” と人、二つの血を持つダブルブリッドである片倉優樹は、死んだはずの高倉幸児と再開する。そんな彼の処遇を巡って、太一朗と優樹は対立することとなるが……。
感想などなど
第四巻にて高倉幸児が生き返ったことにより、『太一朗と優樹の関係性』と『黒幕達の行動』の二つが大きく変動することとなる。それぞれを理解するよりも先に、高倉幸児について理解しなくてはいけない。
高倉幸児は第一巻にて登場し、高倉優樹と殺し合いをした末に死んだとされているダブルブリッドである。殺すことでしか自身の存在を証明できず、人のエゴにより悲惨な人生を送らざるを得なかった……そんな彼を自身と重ね合わせる優樹の複雑な心情は、これまで何度も描かれてきている。
優樹が幸児に対して抱く感情は、同情とも言えるし、嫌悪とも言える。この世界で二人しかいないダブルブリッドの片割れとして、ある種の愛情とも(一種のこじつけだが)言えるかもしれない。
しかし、彼は死んだ。忘れることはできずとも、考えても仕方が無いと諦めることはできた。実際、彼女は幸児について考えないようにすることができていた。
だが運命とは残酷なものだ。優樹と太一朗は、かつて彼と殺し合いをした千代田公園にて、死んだはずの高倉幸児と再会を果たす。しかし、彼は以前のように優樹に飛びかかっていくことはなく、目に力は宿っていなかった。言わばゾンビのような……生きているようで死んでいるような……。
どうやら死体を運搬中の事故(誰かに仕組まれた?)の最中に逃げ出してしまったようだ。まぁ、「なんで死体を運ぶ必要があるんだ?」「どこに運んでいたんだ?」という疑問があるだろうが、とりあえず置いておこう。
そんな死体を巡って、色々な組織が争うことになる訳だが、優樹としては彼に自由を掴んで欲しい……と中途半端でどっちつかずな行動をすることになる。
さて、『太一朗と優樹の関係性』について考えていこう。
人と怪……これまで損得勘定でしか繋がることのなかった両者だが、太一朗と優樹の二人にあるものは果たして損得関係だけだろうか。いや、そんなことはないはずだ。最初はいがみ合っていたにも関わらず、様々な戦いを経て培われてきた上司と部下としての信頼関係。仲間として互いを庇い合うような美しき姿がそこにはあった。
そんな二人の前に現れた高倉幸児という死んだはずの男。かつて優樹を苦しめた宿敵……よく言えば自分の感情に正直で、悪く言えば短気な太一朗が平静でいられるだろうか?
しかし、優樹は幸児を守ろうとする。彼に自由な人生を歩んで欲しいと口にする。
太一朗の中にある幸児に対する憎しみと、優樹の言葉がせめぎ合う。
……幸児を守ろうと画策する優樹に対して、太一朗が抱く感情は複雑だろう。彼は優樹に対して度々「優しすぎる」と口にする。
そして幸児は考える。彼女の行動の正しさと、彼女を守るためにどうすれば良いのかを。
この第四巻にて、彼はようやく自身の恋心というものを理解するようになる訳だが、その話は本編を読んで確認して欲しい。
次に『黒幕達の行動』について。正確には黒幕達の正体と目的がはっきりし始めたかな? と言うべきだろうか。
といっても第四巻における黒幕達の動きはややこしい。幸児の死体を奪おうとした組織、幸児の死体を移動させようとしていた組織、幸児の死体に色々して生き返らせちゃった組織(正確には個人だが)、何か良く分からんけど傍観……しているかと思いきや思い切り踏み込んでくる組織、幸児に自由な人生を送って欲しいと考える優樹とその愉快な仲間達。ざっと書くだけで、これだけの面々が物語を構成している。
その中でも特に踏み込んだエピソードが描かれているのが、総理大臣になっている怪や浦木の面々だろうか。上記に羅列した中だと、『幸児の死体を移動させようとしていた組織』に該当する。
これまで優樹達と敵対することなく、だからといって味方かと言われれば首を傾げることになる浦木達だが、今回でもその微妙な立ち位置は崩していない。優樹達が幸児の死体を匿っているという情報は早い段階で掴んでおり、過度な干渉はしていなかった。
しかし、優樹を勧誘するための重大な情報を掴んでいるようだ。度々、彼女(=優樹)は確実にこちらに付くことになる……というような発言を繰り返していた。
果たして彼らはどのような立ち位置なのだろうか。今回、その立ち位置と優樹との関係性がはっきりすることになる。ダブルブリッドという物語として大きな進展を見せたと言えるのではないだろうか。
そんな物語は当然だが、血しぶき飛び散り、腕が切り取られる迫力満点のバトルシーンも必見。今後に期待が高まる……そんな物語でした。