工大生のメモ帳

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ダブルブリッドⅨ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

死の恐怖を忘れるなかれ

情報

作者:中村恵里加

イラスト:藤倉和音

ざっくりあらすじ

クラスメイトである安藤を喰おうとした虎司の前に、兇人が現れる。黒い虎の姿をさらした怪と、好きな相手が人間でないことを知った安藤……どのような運命を辿ることになるか。

感想などなど

第八巻は読んでいて本当に辛かった。これまで仲の良かった登場人物達が、ただ絶望的な結末へと向かって行くような、一切の救いがないシリアスシーンをただひたすらに積み重ねていくような。

第六課の面々が兇人に堕ちた太一朗を殺す覚悟を決めた第八巻。怪を殺す最強兵器に怪達は勝てるのか? 現状、かならずどちらかが死ぬ結末しか見えません。

しかし、そんな途方もない絶望の中に、微かな救いがありました。

 

第八巻のラストで、安藤に「喰って良いか」と訊ね「うん」と言われたので、首に齧り付いた虎司。牙が刺さって血が垂れていく。虎司がさらに力を加えよもうものなら、骨が砕け絶命。皮を剥がされ、肉を貪られることになるでしょう。

人を喰いたいと言っていた虎司、これがお前の望んでいたことなのか?

安藤を救ったのは、八牧を殺した兇人だった。

木の枝が蛇のように蠢き、虚ろな目は虎司をまっすぐに見つめている。どうやら殺すべき対象として、虎司をロックオンしたようだ。こうして虎司と兇人は戦っていく訳だが、その力量差は歴然だった。

なにせ虎司から兇人に対してダメージを与える手段がない。虎として(正確には虎ではないが)の武器はその鋭利な牙であろう。人であれば噛みつかれればひとたまりもないはずが、兇人には全くもって通用しない。

鬼斬りの枝が固く鎧のように体を守っている。細くしなやかな枝が口内に入って肉体を蝕んでいく。

もう辛い……読んでいて辛い。これは戦闘というよりは一方的な暴力だ。拳が虎司を何度も……何度も振るわれる。

それをただ呆然と眺める安藤。彼女もあの虎が、これまで仲良くしてきた虎司であり、自分が好きになった相手だと気がつく。自分を喰いたいと言ったこと、自分の首筋から血が垂れていること、これまで見てきた虎司の雰囲気にどこか似ていること……怪に対する漠然とした知識が、何度も殴られている虎が虎司であると語りかけてくる。

ここで思い出して欲しい。

八牧は自身の頭への攻撃を防ぐために、未知という幼女を利用したことを。

恐らく、この現状で虎司を救うことができるのは安藤という人間だけだ。しかし安藤はそんなことを知るはずがない。このまま虎司は死ぬしかないのだろうか、絶望的な状況が続いていく。

救いはあるのか、いや、それがあるのだ。絶望的な状況だからこそ、そんな微かな救いというものが嬉しい。

 

虎司が苦しんでいる時、優樹や大田や夏純と言えば、今後のことを考えていた。頭を悩ませる問題はたくさんある。

親から暴力を受けていた未知、彼女は親本へ帰るべきなのだろうか? 八牧を失った彼女は何を頼ればいいのだろうか?

左腕が右腕になっていた優樹、山崎太一朗との想い出はすっかり消え失せ出しまっている。その意味とは何か? 怪でありながら、人でもあるダブルブリッドの彼女に対して、怪を殺すことしか考えられなくなった兇人は何を思うか?

夏純は兇人を殺すことしか考えていない。そしてどこか最期を覚悟しているように感じる。

大田は? 傍観者としての立場を崩さないのか?

シリアスでありながら、少しばかりの救いがあった第九巻。終わりは近い。その終わりは幸せか、不幸か。現時点ではどちらとも言えない。

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