※ネタバレをしないように書いています。
ゴースト・スタンド・バトル
情報
作者:近藤憲一
試し読み:ダークギャザリング 5
ざっくりあらすじ
危険度ランクS「旧Fトンネル」に挑むことにした夜宵たちは、「卒業生」も回収した万全の状態で乗り込む。しかし、すぐに詠子とはぐれてしまい――。
感想などなど
第四巻では「H城址」を攻略した。
その戦いは苛烈なもので、卒業生『邪経文大僧正』――彼の発するお経を聞いた者は廃人となる――により「H城址」の霊を(脅迫によって)仲間にした。ついでに「H城址」の霊は呪物によって無理やり悪霊にされていたことが判明し、呪物を払うことで救ってあげることで、完全に納得した形で仲間にすることに成功した。
「困ったら呼んで」と霊が言っているシーン……憑き物がとれたみたいにかっこよかった。霊だけど。
そして第五巻も「H城址」と同様に危険度ランクSの怪異スポット「旧Fトンネル」に挑むことになる。戦力としては「H城址」の霊、卒業生『邪経文大僧正』……と細々とした奴ら。「H城址」でかなり削れてしまい、危険度Sに挑むには心許ない。
という訳で卒業生を回収に向かう。この卒業生は旧日本軍の霊で、生前から限りなく不死に近い人間だったらしく、死んでもその不死性は健在で、成仏もできないまま現世に止まっているとのこと。
そんな彼が成仏するまでの間だけ、協力体制を敷くという契約を結んでおり、これまでの会話が成立しない悪霊とは違うようだ。とはいえ危険性はかなりのもので、彼の意思とは関係なく、彼の霊魂にまとわりついている彼に殺された敵兵の霊に襲われてしまうのだという。
そんな危険な卒業生を回収し、いよいよ「旧Fトンネル」へと挑む。
前回との大きな違いは、詠子も一緒に乗り込むということだろうか。これまでの怪異は「取り憑かれていて目にしていない」「課題に忙しくて行けていない」であったり、霊を強烈に引き寄せる螢多朗が避雷針となって、大した被害を受けないといったことが多かった。
しかし、この第五巻における「旧Fトンネル」において、霊に好かれたのは詠子であった。良かったな、喜べ詠子。待ちに待った怪異だ。
前回の「H城址」の怪異は、普通は人を殺さない怪異だった(悪いことをする人がいても脅かす程度)。ただ今回の怪異は、純粋に人を殺したいという欲求で動いている。その殺意が、単純な暴力という形で顕現すれば楽だった。
残念ながらそれではSランクにはなれない。今回の怪異は、人を分断し各個撃破するという計画性を持ち、その分断の際には、これまで殺してきた人の霊を最大限利用するという狡猾さを兼ね備え、しかも正面切って戦っても強いという敵であった。
そんな怪異の最初の標的は、怪異との戦闘経験のない詠子に絞られた。
……もう少し、今回戦うことになる霊について話をしよう。あくまでネット上の噂であるが、噂は時に真実が混じっている。
「旧Fトンネル」ので現れる霊は、『猟奇殺人鬼の霊』なのだという。その霊に襲われると、まず太腿から下を切り落とされる。そしてゆっくりと四肢を切り落とされ、次に死なない程度に内蔵を引きずり出される。「もう殺して」という懇願を合図に、殺人鬼は被害者の顔の皮を剥ぐ……
こういった怪異の噂というのは、伝聞調で語られるのが常だ。死んだら噂の出本とはなれない。となるとその噂を語ってくれたのは誰なんだ? という壁にぶち当たる。
ただし今回語られる噂というのは、伝聞ではなく、体験したその人の口から直接語られる。その説得力は、四肢がなく、内臓を抜かれ、顔の皮を剥がれた霊体を見れば分かる。
今回の霊はヤバい、と。
相手の霊がヤバいというのはそうだが、こちらが用意している戦力もヤバかった。味方で良かったと心の底から安堵しつつ、一歩扱い方を誤れば全滅という危険性もはらんでおり、全く安心できない。
生か、死か。その瀬戸際で行われる綱渡りのような戦闘が繰り広げられる。ハラハラする第五巻であった。