※ネタバレをしないように書いています。
悪魔を宿して悪魔を狩る
情報
作者:藤本タツキ
試し読み:チェンソーマン 13
ざっくりあらすじ
チェンソーマンを倒すために戦争の悪魔ヨルと契約した三鷹アサは、ヨルの命令でデビルハンター部に入ることとなる。チェンソーマンに近づくため、どうすべきかを考えるヨルであったが――。
感想などなど
チェンソーマンに助けられたアサとユウコ(とヨル)。チェンソーマンに助けられたという事実が悔しくてたまらないヨルが、ベットで悶えるシーンから第十三巻は始まっていく。枕をボコスコ殴って散々大声を出して暴れ、最終的には疲れて眠るヨルを、悔しながら可愛いと思ってしまった。アホ可愛いというか。
そんなヨルに対して、死ななくてよかったと安堵し、チェンソーマンに感謝しているアサ。昔は嫌っていたのに、好き嫌いの変化なんてそんな単純なものかもしれない。
ちなみにこの第十三巻では、チェンソーマンを嫌っていた理由を、デンジに直接語って聞かせるという展開がある。何故そうなった? と思うかもしれないが、「彼女が欲しい」と言い続けるデンジと、「お前を私の彼氏にしてやろうか?」と吉田ヒロフミに言ってのけるアサ(=ヨル)の二人が顔を合わせるのは必然だったかもしれない。
そこでアサが語ったチェンソーマンが嫌いだった理由は下記の通りだ。
- なんか薄汚い
- 何も考えていない感じがしてバカっぽい
- 女しか助けない性欲丸出しな感じ
- 猫とか犬とか食べてるのを見た人がいて怖い
- 悪魔だから人を食べるところが怖い
……デンジは最愛の人を生姜焼きにして喰ったから、五番目に関しては擁護できない。すまない、デンジ。
チェンソーマンという作品は、平和なシーンが続いた後は地獄に突き落とされると相場が決まっている。油断すれば人が死に、目を離せば人が死に、ちゃんと読んでいても人が死ぬ。
デンジとアサのファーストコンタクトは最悪な形で幕を閉じたが、アサと戦争の悪魔が契約しているという裏を知っている読者からしてみれば、このまま最悪な関係値で進んで言ってくれた方が平和だろう。
なんか強そうな雰囲気だけ漂わせる戦争の悪魔が、その実「こいつ飼い慣らせるんじゃ……」とアサに言わしめるほどにアホの子を発揮している。これを平和と言わずして何と言うか。
その平和をひっくり返し、血のにおいをまき散らしたのは、アサにとって初めて出来た友達であるユウコであった。あまりにも命が軽く失われていくこの世界において、殺人という行為は、ただの個性としてカテゴライズされるものなのかもしれない。
ユウコがこの第十三巻でしでかした殺人は全て、彼女なりの正義執行である。
正義という大義名分があれば、人はどこまでも凶暴になれる。しかも圧倒的な力を得たとなると話はややこしいこととなる。その『ややこしいこと』がこの第十三巻では起こっている。
具体的には、ユウコが悪魔と契約してしまった。
彼女が心に抱える闇は、第十二巻でも顔を覗かせていた。「結果は間違えても……自分の気持ちが間違ってなければ私はいいんだ」というユウコの台詞は、死にたいとばかり考えていたアサの心を救うきっかけとなった名台詞だ。
ただこの考えを免罪符にして、人を殺しまくることを肯定することはできない。この第十三巻で何人死んだか知らないが、少なくとも学校のデビルハンター部は壊滅することとなる。
アサはそんな狂いまくったユウコを止めることができるのだろうか。アサを曇らせる展開が続く第十三巻。どうか彼女には強く生きて欲しいものである。