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チート薬師のスローライフ〜異世界に作ろうドラッグストア〜(1) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

キリオドラッグ、開店です!

情報

作者:ケンノジ

イラスト:松うに

試し読み:チート薬師のスローライフ〜異世界に作ろうドラッグストア〜

ざっくりあらすじ

社畜人生に嫌気が差していたレイジは、ふとした瞬間に異世界に転移してしまう。彼が手に入れたスキルは【創薬】と【鑑定】スキル。戦闘には役に立たないスキルではあったが、美味しいポーションを作り出し、売り出すと瞬く間に人気商品に。それにより集めた資金を元手にして、ドラックストアを開店させる。

感想などなど

ブログ主も社畜である。満員電車で座ることができない苦しみを知り、仕事でミスをした帰り道は心が憂鬱になる。このまま帰り道で転生して、チート能力でも貰いたいところだ。

そんなブログ主の願望を、一足先に叶えた者がいた。本作の主人公・桐尾礼治である。

彼は周囲をビルに囲まれた場所を歩いていたはずだった。しかし、気付けば森に囲まれた異世界に転移していた。事故死したり、ナイフで刺されたりした転生者とは違い、痛みもなければ変な女神との面会もないというノンストレスでの転移である。

そして見慣れたステータス画面を経て、彼は【創薬】と【鑑定】のスキルを持っていることが判明する。これがチートなのである。

例えば。

異世界に行かずとも、無人島に連れて行かれた自分を想像して欲しい。手元には桐尾礼治と同様に、会社に持っていく荷物だけが手元にあるとしよう。そうした際、まず手に入れるべきは水か食料であろう。

そんな困った時には【鑑定】が役に立つ。それを使えば、そこらに生えている草花が身体に害を持っているかどうかが瞬時に判断できる。【創薬】を使えば、それらの草花を元にした薬を作るための手段が瞬時に分かり、ほぼ自動的に精製することが可能になる。

戦闘において役に立たないかもしれないが(実際はそんなこともないことが後々分かる)、この世界における薬精製の技術も鑑みると、かなりのチート能力であることが伺える。

 

そもそもこの世界における薬の技術はかなり低い。ゲームでお馴染みのポーションは、ゴミのような味がするとされ忌避されていた。回復するためには飲まないといけないけれど、それにしたって飲みたくないと思わせるほどの不味さである。

その証拠に、傷を負って倒れていた人狼・ノエラは、死にかけているにも関わらず不味いポーションは意地でも飲もうとしなかった。死ぬか、不味いポーションを飲むか、その二つを天秤に乗せた際、天秤が勝ってしまったらしい。

そんな彼女の窮地を救ったのが、たまたま転生して来て通りかかった桐尾礼治である。どうやら彼が精製したポーションは、とてつもなく美味であるらしかった。しかも、この世界では一人が一ヶ月に百本を作ることが限界とされているポーションを、午前中一杯で一人で百本作ることができるという高効率性も兼ね備えている。

一人で工場で自動化されたような速度で、旨くて性能も良いポーションを作り続けられれば、元々いた薬師の商売もあがったりである。事実、礼治の作ったポーションは売れに売れ、自分の店を持つことも余裕でできるレベルにまで上り詰める。

さらに、この世界の住民は皆優しい。タダで町外れのボロ屋敷を貰い、前資金ほぼゼロでドラックストアを立ち上げることに成功。こうして彼はノンストレスに社畜とは程遠い生活を手に入れた。

 

先ほど『タダで町外れのボロ屋敷を貰い』というように記載した。この世界にはタダより高いものはないというが、それは嘘ではないらしい。このボロ屋敷にはどうやら、幽霊の類いが住み着いているようだ。

その幽霊の名はミナ。百年もの長きに渡って、住民の幸せを願い、屋根裏から見守っていたのだという。この家の住民が定住することなく、短期間で家を出て行った原因は、どうやら彼女であるらしい。

しかし、このミナかなり可愛い。しかも家事までしてくれるのだという。

幽霊の姿でフワフワ浮きつつ、家事の料理を作ってくれる様は、甲斐甲斐しい妻としか言い表せない。まぁ、幽霊なのだが、そんなもの些細な問題という気がしてくる。

そんな彼女と、助けた人狼ノエラと共に、困っている人達を薬を使って助けていく。

例えば。

歳によって仕事が遅い老人には、エナジーポーションという疲れを吹っ飛ばす薬を。弓の名手として名を馳せながらも、目に問題を抱え、ついでに礼治の尻を狙う男には目薬を。好きな異性に振り向いて欲しいお嬢様には香水を。

それぞれの問題を解決していく掌編形式で物語は展開していく。そこで助けた人物は、後々に現れて助けてくれたり、惚れられたりと、ゆったりとした空気感のまま物語は進んでいく。

毒にも薬にもならない、サクッと読める薬の物語、手に取ってみてはいかがだろうか。

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