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【漫画】ティアムーン帝国物語① 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

断頭台から始まる物語

情報

作者:杜野ミズ

原作:望月望

試し読み:ティアムーン帝国物語〜断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー〜@COMIC 1

ざっくりあらすじ

帝国唯一の皇女ミーア・ルーナ・ティアムーンは、齢20にして断頭台にかけられた。そして死んだと思ったら、10代前半に記憶を保持したまま戻ってしまっていた! そこから始まる断頭台を回避するために奮闘する物語。

感想などなど

古今東西、歴史において数多くの革命が行われ、その度に多くの血が流れた。この物語におけるミーア・ルーナ・ティアムーンは、そんな悲しく残酷な歴史において、血を流す一人に過ぎない美しき皇女に過ぎなかった。

しかし、彼女にはやり直すチャンスが与えられた。二十才にして首を切り落とされて、向かう先は天国か? はたまた地獄か? と思われた彼女は齢十才の頃の自分に、首を切り落とされるまでの記憶を保持したまま戻っているのだった。

するとどうだろう。汚い牢獄に閉じ込められ、まともな食事は与えられず、カビの生えたパンで飢えを凌いでいた過酷な環境と比較して、十才の自分が生活するこの場所は、なんと恵まれた場所だろう! と感激の雨あられ。

あれほど大嫌いだった野菜たっぷりのスープが大変美味で、毎日同じような味だったパンは柔らかく贅沢な品だと知る。その当たり前だと思っていた環境に、思わず感激しながした涙が、それまでの過酷さを物語る。

そんな記憶が彼女を大きく変え、幸せのハードルは駄々下がり、再びあの地獄のような日々を迎えないために、これまでの記憶をフルに生かして奮闘していく。

 

大切なものは失った後に気付くとは良く言われる。彼女の場合は、一度死んでからやっと気付くことができた。

これまで嫌いで仕方なかった相手が、実は誰よりも自分のことを考えてくれたのだということ。

これまで無能だと思っていた相手が、誰よりも有能だったということ。

苛烈な環境に追い込まれた時こそ、人の真価は発揮される。ミーアが死にかけたその時に、すぐ傍にいて支えてくれた人達に対して、これまでどんな扱いをしてきたか? そのことを考えると、嬉しいというか、恥ずかしいというか、何とも言い難い不思議な気持ちになってしまう。

やり直す機会が与えられたミーア。次は支えてくれた大切な人を支える側に回り、有能な人材は利用して革命を回避するための駒とする。そんな彼女の動きは、彼女の意思とは無関係に、帝国を変える大きなムーブメントとなっていくことに気付いていない。

 

ミーアは基本的に『断頭台を回避すること』が第一優先すべき事象として掲げている。そのためには困っている人には、迷わずに手を差し伸べる。彼女にとっては、やはり『断頭台を回避するため』の打算的な計算の元で行われていることではあるものの、それを見た人々はそんなこと知るはずもない。

これまでの我が儘放題の皇女の姿は、民衆に手を差し伸べる賢女だったりと好き放題に呼ばれて、彼女の行動の裏には賢女らしい優しさと気高さがあるものだと勝手に想像していく。その行き過ぎた想像と、ミーアの心情のズレというものが面白く描かれている。

元は小説だったということもあり、巻末の方にはちょっとしたSSも掲載されている(この特典がないものもあるとか、ないとか)。そこでもやはりミーアの認識と、民衆のズレというものが描かれており、小説という媒体を上手く漫画に落とし込んでいるということが伺える。

ブログ主は漫画と小説があれば小説を迷わず選ぶ人間であるが、本作は珍しく漫画を選んで正解だったかもしれないと思える作品であった。まぁ、小説として出版はされておらず、選択肢は漫画しかないようだが。

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