工大生のメモ帳

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わたしは虚無に月を聴く 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

作られた世界で……

情報

作者:上遠野浩平

イラスト:serori

ざっくりあらすじ

探偵の荘矢夏美は、依頼人自身が名前も姿も思い出せない人を探し出すという依頼を受ける。そんな正体不明の誰かを探す内に、今いる世界の真実に目醒めていく。

感想などなど

第一巻は地球から遠く離れた場所で、虚空牙と戦う物語でした。ラストは死んだとも生きたともとれる描写がなされ、第二巻の内容が気になって気になって仕方がない状態で二巻を読み進めることになります。

今回はなんと、ブギーポップシリーズにおいてブギーポップが殺し損ね、 ”死” という概念を超越してしまった水乃星透子がまさかの登場。ブギーポップシリーズを読んでいなくとも問題なく読み進めることはできるでしょうが(彼女の名前は作中で明かされない)、VSイマジネーター(ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター PART1 感想 - 工大生のメモ帳)を読んでいた方がより楽しめるように思います。

ブギーポップシリーズの時間軸からおよそ数千年以上の時間が経過してもなお、彼女は死ぬことができなかったんですね……まぁ、正確に言うと第一巻と同様に作られた世界で生きている――つまり情報だけが漂っている概念のような存在というべきでしょうか。

前回との大きな違いと言えば、肉体が管理されている場所は月である……ということでしょう。暗く冷たい宇宙空間で心が壊れないために架空の世界を作り上げた場合とは少しばかり目的が異なっているように思われます。

そんな本作は『架空空間で正体不明の誰かを探す』物語と、『月面で人達が争う』物語の二つで構成されています。それぞれの物語を見ていきましょう。

 

まずは『架空空間で正体不明の誰かを探す』物語。

大物政治家の娘・醒井弥生は、漫画家である妙ヶ谷幾乃(第一巻におけるヨン)と探偵・荘矢夏美に ”正体不明の彼女” を探して貰うように依頼。しかし、彼女の名前はおろか容姿すらも分からないという人物の捜査は難航。

しかし、噂などを頼りに捜査を続ける彼女は衝撃の事実を知ることとなります。それは第一巻と同様、この世界が作られた存在であるというもの。

しかも……荘矢夏美は ”とある目的” のために作られた人格であることが確定されます。つまりはシステムが組み上げた人工知能、第一巻におけるヨンと同じ立ち位置だと説明すれば分かって貰えるでしょうか。

その ”とある目的” というのが、物語においてとても重要な要素であり、物語序盤における大きなドンデン返しとなっています。

 

次に『月面で人達が争う』物語。

月面では虚空牙とは別に、それぞれの正義を信じた人々が派閥に別れ、互いに争っていました。血が飛び散って、ピンクのような霧になっている光景は一見すると綺麗ですが、日夜多くの人々が死んでいることを示しています。

しかも厄介なことに一番最初に戦って死んでいった人々のクローンのクローンのクローン……代理代理代理……戦争が行われているのです。何という無益なことでしょう。

そんな派閥の一つは『かつて死んだ英雄を復活させるため』に、過去の進んだ技術である『仮想世界を作り上げる』技術を求めて月面にやって来ていました。そのために邪魔するような存在は殺し、ただ月面にあるはずの『仮想世界を作り上げる』機械を探しているのです。

察しの良い方はお分かりかもしれませんが、彼らが探している機械が作り出している仮想世界こそが、『架空空間で正体不明の誰かを探す』物語が繰り広げられている世界なのです。

こうして繋がっていく全ての物語、それぞれのキャラクターが心に宿した目的というものに向かっていきます。その全ての結末を、是非とも確認して下さい。ラストシーンの美しさは第一巻を越えている……と個人的には思います。最高のSFでした。

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