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夕顔 ヒカルが地球にいたころ② 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

ミステリアス現代学園ロマンス

情報

作者:野村美月

イラスト:竹岡美穂

ざっくりあらすじ

学園で皇子と呼ばれていたヒカルが死に、彼の心残りであった葵との問題を解消した。これでやっと成仏する……と思いきや、未だに心残りのある女性問題があるということが分かり、是光は不登校になってしまったという夕雨の家へと向かった。

感想などなど

現代において、年々不登校の数は増加傾向にあるらしい(2020年現在)。その理由はそれぞれ人の数だけあるだろう。家庭の問題しかり、虐め問題しかり、心身の病の問題しかり、社会構造の有り様が変化していくことでその理由も移り変わっていくことは想像に難くない。

本作ではその虐めに関して、スポットライトが当てられる。ヒカルが心配していて、是光が救うために奮闘することになる相手の夕雨は、虐めを受けたという過去が原因で、不登校になっていたことが途中で明かされるのだ。虐めをされた側が引きこもり、した側が引きこもるという悲しきありがちな構造が、本作でも描かれていく。

しかしそんな現実とは少し違うと言える点として、夕雨は引きこもっている今の現状を、幸せと表現しているのだ。時折やって来るヒカルが語って聞かせる外に咲く花々、言葉の限りを尽くして語る愛についての話を聞いて、それに対して返答になっているようななっていないような曖昧な言葉を返す。

こるりという名前の猫とともに部屋から一歩も出ることなく、ただ布団にくるまって世界を拒絶した彼女は、ミステリアスで儚げで美しい。

 

虐めには大抵の場合、きっかけというものが存在する。それは些細なことであることが多く、どれも共通して虐めを正当化する理由にはならない。虐めをする側にとって、きっかけは重要ではないのだろう。その先の結果も大して考えていないのだろう……あれ、何で虐めなんてしよるんや?

ちなみに本作の夕雨が虐められていた原因というのは、学園でヒカルの次に女性にモテているという家柄も外見もトップクラスな男・頭条と、雨の日に同じ傘で帰ったからだった。

……はい、それ以上でもそれ以下でもない。一応、有名企業の跡取り的な立場である頭条と、平民の夕雨が仲良くすることが許せないという面々の怒りを、夕雨がかってしまったと説明できるが、だからといってやはり虐めを正当化できることはないだろう。

その虐めの末に、家に引きこもってしまった夕雨。そこで現れたヒカルとともに過ごす家での日々に幸せを感じてしまうことは無理もないように感じる。段々と明かされる両親との不和も、彼女にとっての幸せというものが分からなくなっていく。

もしかすると、今のまま引きこもっていたほうが良いのでは? と。

 

学校に行くべきか、行かざるべきか。

多くの人が議論しているが、そんなものは人と家庭環境によるだろう、と思う。とある人が「学校に行って良かった」という経験を語ったところで、それを別の人に当てはめる時点で間違っている。既に経験というバイアス、偏見が懸かってしまっているのだ。

夕雨の場合はどうなのだろう。

難しすぎる問題だ。虐めを受けてやり返すほど強いのならば、きっと迷わないのだろう。是光のように。

夕雨を取り囲む環境、それに付随する幸せというものに関して、いくつかの意見が提示される。今のままで良いのか? どのようにすれば幸せになれるのか?

本作を読んだ皆様の意見というものを、是非とも聞いてみたい。

 

ここまで長々と語っておいて今更言うことも気が引けるが、正直言って一巻は盛り上がりに欠けると思った。これから先もこのノリが続くのであれば、感想は書けないな、とすら考えていた。

理由はいろいろあるが、一言で言うなれば『シリーズの第一巻としての完成度は高いかもしれないが、一冊単体で見ると完成度が低い』というように言えると思う。

なにせ第一巻だけで『ヒカルが死んだ理由』と『式部から是光に対する恋心』と『朝衣の立ち位置』など明かされていない情報が多すぎる。葵とヒカルとの問題は解決したかもしれないが、その他諸問題が多すぎる。どうにもモヤモヤ感が拭えない。

これから本シリーズを読むという方は、この第二巻……次いで第三巻までは読み進めることをお勧めしたい。第二巻は一冊単体での完成度も高くなっているし、第二巻まで読んで第三巻を読まないというのは、少しばかり酷だからだ。

是非とも感想を共有したいと思える作品だった。

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