工大生のメモ帳

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ピンポンラバー3 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻】

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

極限の卓球魂

情報

作者:谷山走太

イラスト:みっつばー

ざっくりあらすじ

『全日本エース選抜強化合宿』に参加した翔星、瑠璃、椿の三人。次世代の日本代表が集まる合宿の中で、翔星はインターハイ優勝者である幼馴染み・千波晴海と再開し、さっそく手合わせを挑む。

小学生の間は負けることのなかった相手だが、結果は完敗。怪我により三年間、卓球から離れている間に、彼はとてつもない化け物に成長していたのだ。

感想などなど

相手の筋肉の動きを見ることで、次の攻撃を判別する『未来視』を身につけた瑠璃。中国という卓球最強国の新星メイ・リンを倒してしまいました。第二巻最後の彼女の笑顔が、自分は好きです。いいラストだなぁ……と思っていたのですが三巻が出ましたね(この三巻のネタはずっと温めていたのでしょうか)。ということは、アニメ化できるだけのストックが溜まりましたね!

それはさておき。第二巻の熱い戦いを経て、翔星も瑠璃も大きな――人としても、卓球選手としても――成長を遂げたように思います。

しかし、世界は広い。二人よりも強い選手はたくさんいる……そんなことを実感させられるような、今後に期待せずにはいられないような、物語の感想を語っていきましょう。

 

今回の舞台は山の中、『全日本エース選抜強化合宿』という学園から離れた場所となっている。ということで温泉卓球で卓球を学んだ男・鹿島沙月は登場しないので悪しからず。

当然、ライバル達も他校の学生……しかもそれぞれの学園が選りすぐったのだろう先鋭達が集っている。坊主頭の分析家や、高校女子卓球界の頂点と、その可愛らしい後輩などなどキャラが濃い面々が集っていた。

その中でも、どちらかと言えば地味で、しかし誰よりも負けず嫌いで熱い少年がいた。

彼こそが、翔星にとっての幼馴染みであり、今回の物語における重要な要素の一つとなっている千波晴海である。〈ざっくりあらすじ〉でも書いたが、彼は高校一年生にしてインターハイ優勝者となった若きエースだ。

そんな彼と翔星はどうやら幼馴染みだったらしい。翔星がずっと付けている赤いミサンガ――それは「怪我が治ったら打ち合おう」と晴海が翔星に渡したもののようだ。

そんな二人の約束が叶う試合、決着はあっさりと付くこととなる。

手も足もでなかったとはこのことだろう。例え翔星の膝にはまだサポーターが付いているとはいえど、三年間のリハビリ生活があったとしても、その差はあまりにも歴然としすぎていた。

まずは初球のサーブからしてレベルが高い。まぁ、それはインターハイ優勝という時点で知ってはいた。翔星も食らいつき速攻(ドライブかな?)で返していく。しかし、それを容易く返球する晴海。そこには焦りも何もなく、ただただ普通に、理性的で落ち着いた様であった。

文字だけ追っかけていれば翔星が攻めているように見えなくもない。しかし、淡々と圧倒的技術でねじ伏せてくるのだ。三年間という間にどれほど密な練習を積んできたのか。想像を絶するような努力をしてきたのだろうことが想像できる。

 

この合宿は『全日本エース選抜合宿』は次世代のエースを育成するという目標があるようだが、もう一つ大事な目的がある。それは、

「中国の海外遠征に連れて行くメンバー決め」

中国は卓球最強国であり、そんな国でレベルの高い選手達と練習ができるという経験はまず間違いなく自身の成長に大きく繋がってくる。そんな海外遠征に参加できる切符が手に入る可能性がある。

そんな切符の数は男女一人ずつの計二つ。狭き門である。はっきり言って誰がとってもおかしくはないのだ。

当然、翔星も本気で切符を狙いに行く。言わずもがな、晴海も狙いに行く。

二人が幼馴染みと言えど――いや、幼馴染みだからこそ。対抗意識を燃やし、全身全霊をかけて戦いに挑むこととなるのだ。

 

「翔星はいつまで椿に迷惑をかけてるのかと思ってさ」

「やっぱり翔星に椿はもったいないよ」

……晴海の翔星に対する台詞である。今回の戦いの焦点は、「中国の海外遠征」だけでなく椿までも巻き込んでいくこととなっていく。

ここで椿について少し考えてみる。明るく前向きで、サポーターとしての知識は並外れたものがある。アドバイスも的確で、翔星の性格その他をよく理解している。

三年間という長い期間、怪我をした翔星を支えるために支えてきた――さて、その理由を読者は考えたことがあっただろうか。

「世界一のサポーター」というようなことを度々語ってくれているが、その夢のためならば翔星の側についていることは遠回りのように思える。専門に学べるような学校へ行くか、多くの人の元で経験を積んだ方がいいだろう。

しかし、彼女は翔星の元についてサポーターとして活動していくことを決めた。

そこにある一種の狂気とも呼ぶべき感情と、彼女の心情の揺れ動き、度々挟まってくる彼女視点の物語にも注目すべき作品となっている。

熱いバトルや展開、最初から最後まで一気読みしてしまうようなテンポの良さも顕在。呼んでいて楽しい作品でした。

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