※ネタバレをしないように書いています。
消えぬ炎を宿して
情報
作者:藤本タツキ
試し読み:ファイアパンチ 6
ざっくりあらすじ
氷の魔女によって木にされたユダ。ユダを○すために木を登っていたアグニ。気がつくと彼はユダと一緒に倒れていて……。
感想などなど
第五巻を語る上で外してはいけないのは、ドマの話であろう。
燃えさかるアグニの炎を放った張本人であり、アグニの妹・ルナを○した犯人であり、アグニが生きる糧でもあった男。彼は自身が信奉していた映像が、ただの娯楽のために作られた映画のワンシーンだったことを知って、自らの行いを後悔していたというのだ。
自らの祝福を使って敵を倒すことが正しいことであると思っていた。それは自らの教養のなさが招いた間違いであり、アグニに復讐されても仕方が無いと考えていた。そう静かに語る彼を見て、アグニは一度は復讐することをやめた……が、やめられなかった。
結局、ファイアパンチは彼と彼の家族を皆○しにした。
アグニがこれまで受けてきた苦しみを考えて、肉体が燃え続けながらも生きるしかなかった地獄を振り返ってみると、この選択は仕方が無いようにも思えてしまう。彼はこのために生きてきたのだから。
そして生きる糧を失ったアグニは死を選び、自ら湖に沈んでいく。そんな彼を救ったのは、ずっと彼の映画を撮り続けたトガタだった。そんな彼の最期の言葉は、かつての妹と同じ――ずっと彼を側で見てきたからこそ願ってしまった気持ちだった。
生きて
なんと残酷な物語だろうか。
復讐という生きる糧を失った彼は、次に何を糧に生きていくのだろうか。そんなことを考えながら読み進めることになる第六巻の感想を書いていこうと思う。
第五巻のラストはスーリャがユダを生贄にして木を生やし、村の人々の生気を吸わせて成長させて、この氷河期をどうにかしようとしているところで終わっていた。無茶苦茶な展開かもしれないが、祝福能力の正体が、所詮は旧人類のロストテクノロジーに過ぎないことなど全てを知っている彼女は「全ての祝福」を扱えることなどから推理するに、まぁ、これくらいの芸当は頑張ればできたのだろう。
木を生えさせた目的が地球を暖めるためであり、木を登ってユダを○そうとするアグニの行動は止めるべきものだ。しかし彼女は止めずに、ただ防寒しているだけだった。再生能力による死ねない男・アグニを、唯一○すことができる存在であるはずなのに、である。
彼女はまるで自分が神になったかのような視点で周りを俯瞰し、アグニを「悪役」と評して行動を傍観している辺り、彼女はエンタメを求めているように思えた。この物語の行く末を見ようとしているかのように見えた。
そうして迎えた第六巻。
いつの間にかユダとアグニは水辺に倒れていた。アグニの身体を纏っていた炎は消え、片腕が千切れていた。そんな彼と一緒にいるのは、ルナとそっくりのユダという女性で、彼女は記憶を失っていた。
そんな彼女に、アグニはルナを名乗らせて、自らを兄と呼ばせた。
この時に読者は気付く。あぁ、次の生きる糧は彼女かと。かつては敵であったはずの彼女に、妹の姿を重ねるのか、と。これを狂気と言わず何と言うか。
その狂気を証明するかのように、彼はルナを守るために血を浴びた。彼の拳によって多くの人が死んでいく。
もう第一巻の記憶は遠い彼方だが、アグニはずっと何かしらの嘘をつかされ続けているように思う。作中で頻繁に出てくる映画に例えるならば、何かを演じている。最初はトガタによる指導で仕向けられた演技だったかもしれない。それもいつしか、自らを信奉するアグニ教の面々を守るための演技に変わり、そして今は兄を演じている。
本当の彼はどこにいるのだろうか?
第六巻のラストは、アグニにとって見えていた世界がちっぽけだったことを突き付けられる残酷なものだった。アグニが本当の意味での自分を取り戻せる日は来るのだろうか。難しい第六巻だった。