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【漫画】ザ・ファブル(17) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

プロやからな――

情報

作者:南勝久

試し読み:ザ・ファブル (17)

ざっくりあらすじ

中国から殺し屋二人が日本に帰国し、山岡の計画がいよいよ本格的に始動する。一方、ヨウコは山岡への復讐を企て始め――。

感想などなど

現状、山岡の計画通りに物語は進行している。浜田組長が死に若頭だった海老原が組長に繰り上がった。砂川と敵対していたはずの水野が砂川についたことで、次の若頭に砂川になった。このまま組長が死ねば、砂川が組長になるという寸法だ。

山岡としては、このまま新しい組長も殺して砂川を座らせ、仕事を斡旋させる流れを作ろうとしていた。しかし、彼はその辺りにあまり興味はないらしい。彼は、恐怖を感じることのできない自分が楽しむことを何よりも優先している。

そんな彼の主目的は、砂川を組長にして仕事を斡旋して貰うこと――だけではなく頭のお気に入りである佐藤兄妹と戦うこと。しかし、頭からの命で自分から手を出すことは禁じられている。だったら佐藤兄妹の方から関わってくるように仕向けることにした。

その布石が砂川からの依頼でこなした組長の暗殺であり、ヨウコの前に姿を見せたことですら、布石の一つだったことが明らかになる。要は佐藤達を焚き付け、自分たちを殺しに来るように誘導した訳だ。それを迎え撃つのが、山岡と彼の部下二人……これが山岡のシナリオである。

そんな彼の思惑通りに物語は――進行しない。

 

山岡の部下二人は――今回の任務のための仮名だが――ユーカリとアザミという。二人とも山岡に厳しくしごかれた数少ない生き残りであるようだ。

「手にマメができて血が滲んで――その上からまたマメができる」

「ガキの頃から10年も毎日――そんな生活をしていると当たるんだよコレが」

アザミは自身の銃の上手さの理由を、そのように語っている。佐藤(兄)も山に放置されてりした少年時代を過ごしている辺り、ファブルという組織は、幼少期から殺しの技術をたたき込んで育成された者達で構成されていることが分かる。

佐藤ヨウコも似たような者だが、どうにも少し状況は違うらしい。彼女は兄のような苛烈な教育は受けていない。抜群の記憶力が組織に目を付けられ、両親の事故死をきっかけにして組織に拾われたという経緯だ(兄も似たような経緯なのかもしれないが、語られていないのでなんとも)。

そんなヨウコが組織に拾われることになる子供の頃、山岡に会ったことがあった。その時から抱き続けている疑惑を確かめるため、彼女は山岡と二人きりで話し合う場を設けるために画策する。

これは山岡のシナリオ通りだ。

ただ山岡としては彼女の兄も参戦させたかったのだが、彼女は「これは自分の問題」として一人で行動を開始する。そんな彼女の思いを尊重して、彼はきっと動かない。彼もこの闘争に参戦させるためには、どうすれば良いか。

「やっぱりヒロインはいるだろ――」という山岡の台詞で読者の大半は察してしまう。

 

この第十七巻から最終巻まで、一気に山岡と佐藤達との闘争が描かれていく。ボスが最高傑作と評した男の本気と、組を取り囲む状況が二転三転していくドラマが展開される。

例えば。

山岡に脅されるような形で、一連の騒動に絡んでいく便利屋・マツ。彼は女子大生の娘がおり、彼女の身の安全と引き換えに危険な仕事をしているのだ。元殺し屋とはいえ、そろそろ普通の人の生活に戻ろうと足掻く姿を見て、彼の幸せを願う読者もいるのではないだろうか。

ただその足掻きが泥沼に嵌まっていく。山岡にとって、娘のことで煽ることによる彼の足掻きも、シナリオに深みを生むためのスパイス程度にしか思われていないのだ。その山岡のシナリオを、いつ壊してくれるのか?

それが楽しみで仕方がない。

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